「耕一、どうして!」 「…………」 鍔競り合いの状態のまま尋ねるが耕一は答えない。 耕一は返答の代わりと言わんばかりに力任せに舞の刀を弾き返した。 そのまま刀を舞の頭部に向けて振り下ろす。 キーンッ!! 舞の頭上で二本の刀が交錯する。 この刀も以前は両方舞達の物だった。 それが今では、所有者と同じく袂を分けている。 耕一はもう一度両腕を力の限り振り下ろした。 ドガッ!! 刀が地面を抉り取る。 舞は横に跳ぶ事で攻撃の軌道から逃れていた。 手に持った刀を耕一の脇腹へと奔らせる。 キィィィンッ! 「―――!」 耕一は片手で地面を押してその反動を利用する事で体を翻し、それを受け止めていた。 そして…… 「―――なっ!?」 片手はまだ地面についたままであるにも関わらず、残る片手の腕力だけで舞を弾き飛ばしていた。 (なんて桁外れの力なの……!!) 疾風が舞へと肉薄する。 キィンッ!キィンッ!キィンッ! 耕一は間合いを詰めると出鱈目に刀を振り回した。 息もつかせぬ連続攻撃に、舞の疲労は加速度的に蓄積されていく。 鬼の王と斬り合う事など無謀でしかない。 だが、他の仲間にこの役目を任せればものの数秒で殺されてしまうだろう。 仲間が千鶴を倒してくれる事を信じ、今は時間稼ぎに徹し続けるしかなかった。 「このぉっ!」 そのすぐ近くでは千鶴と春原達の戦いが続いていた。 春原は握り締めた鉄パイプを横に振るった。 ガァンッ! その一撃を千鶴は銃で受け止めていた。 「……ふッ!」 千鶴はその圧倒的な腕力で春原を弾き飛ばす。 素早く銃を構えようとするものの志保の存在がそれを許さない。 「あんたがッ!」 志保は叫びながらナイフを斜めに振り下ろす。 千鶴は上半身を逸らす事でそれを避けていたが、前髪が何本か切り落とされた。 「あんたが耕一さんを誑かしたのねッッ!!」 志保の感情は限界まで昂ぶっていた。 許せなかった―――優しかった耕一を変えたこの女が。 罵声の言葉を浴びせ続けながら、激情をぶつけるようにナイフで斬り付ける。 激しい怒りで志保は我を忘れていた。 感情に任せた攻撃は単純で千鶴にとって捌き難くはない。 志保の振り終わりを狙って、その腕を掴む。 残る手で持つ銃を振り上げ、志保の頭に叩きつけようとする。 だが―――― 「させねえよッ!」 ガァンッ! 春原が横から鉄パイプを伸ばしその軌道を遮る。 「離れなさいよオバサン!」 ゴッ……! 「っぅ……!」 志保が千鶴の腹を蹴り飛ばす。 堪らず千鶴は後ずさった。 迫り来る二人に対し、千鶴は腰を落とす。 地面に手をつき、その手を支点として回転する事で回し蹴りを繰り出す。 春原は鉄パイプでそれを受け止め、志保がナイフで千鶴の即頭部を狙う。 千鶴は頭を後方へと逸らし、その勢いのままバック転の要領で後ろへと下がった。 すぐさま春原と志保は間合いを詰め、再び千鶴を追い立てていく。 千鶴は防戦一方だった。 この状態で先手を取る事は叶わない。 一方の攻撃を捌いて反撃しようとすると、すぐにもう一方が攻撃を仕掛けてくる。 少しずつ体力を削られながらも、千鶴は防御に徹していた。 だがそれはそうするしかない、では無く、そうする事が最良であったからだ。 春原の武器も、志保の武器も、急所にさえ当たらなければ致命傷とは成り得ない。 一発食らいながらでも強引に発砲すればこの状況を打開する事が可能だ。 では千鶴がそうしないのは何故か。 それは――― 「…………くうッ!」 「川澄さんッ!?」 舞の呻き声が聞こえる。 耕一と舞の均衡が遂に破れ、舞は左肩を切り裂かれた。 その声に反応した春原と志保は一瞬硬直してしまっていた。 それは十分過ぎる程の隙。 千鶴はすぐさま次の行動に移っていた。 この瞬間こそ彼女の狙いだったから。 耕一の力は彼女が一番良く知っている―――だから全ては予定通りだった。 千鶴は無理せずただ、この時を待てば良いだけだった。 真横で隙だらけの様相を晒している春原の腹に渾身の肘打ちを叩き込む。 完全に虚を突いた一激を受け、春原は腹を押さえ地面にうずくまった。 続いて正面へと銃を連射する。 パラララ……ッ!! 銃声が鳴り響く。 志保の腹の大事な器官を何発もの銃弾が破壊していく。 弾が命中する度、志保の体に穴が開いていく。 銃声が鳴り止むと同時に、志保はどっと後方へと倒れた。 その銃声で仲間の誰かがやられたのだと知り、舞の集中力が途切れた。 刀と刀を合わせたまま、耕一は脚を振り上げる。 舞は咄嗟に肘で受け止めたが衝撃は殺し切れず、どすんと地面に尻餅をついた。 すかさず耕一は舞の手を蹴り飛ばし刀を手放させた。 「……終わりだ」 舞の眼前に剥き出しの刀身が突き付けられる。 銃声のした方を見ると、志保が血だらけになって倒れていた。 「ち、ちくしょう……」 同じように銃を突き付けられている春原が悔しそうな呟きを漏らす。 ――――勝敗は決したのだ。 それでも舞は視線を決して逸らす事なく耕一を睨みつける。 「どうして……どうしてこんな事を……ッ!」 「だから言っただろ、千鶴さん一人にこんな事はさせられない。俺も罪を背負うってな」 「そういう事です。それでは―――――さようなら」 耕一は冷酷な双眸で舞を見据えながら全てを終わらせるべく腕を振り上げた。 (―――佐祐理。すまない……) 舞は心の中で親友に謝罪の意を表しながら目を閉じた。 だがその時―――― 耕一は何かを察知し、地面を蹴っていた。 ダンッ! 迫り来る銃弾が耕一の左腕を掠める。 千鶴はすぐに銃声が聞こえた方へと振り向きながら銃を連射した。 パララララ!! 弾丸は横一直線に空間を切り裂いたが、それが相手を捉える事は無い。 千鶴の銃撃を屈み込んでやり過ごした男の手元が光った。 ダンッ! 「くあぁッ!」 回避動作を取っていた千鶴だったが、間に合わない。 銃弾は千鶴の肩を掠めその衝撃で彼女は銃を取り落とした。 鬼―――そう表現するに相応しい圧迫感を放ちながら柳川祐也は現れた。 辺りを見渡すとそこには血まみれになって倒れている志保。 苦痛で表情を歪めたまま地面に座り込んでいる舞と春原の姿があった。 柳川は般若の如き形相で耕一を睨み付けた。 だがその目は怒りよりも寧ろ、悲しみに満ちていた。 「柏木耕一、貴様狂ったか……!」 耕一は答えない。代わりに口を開いたのは千鶴だった。 「―――狂っているのは貴方の方でしょう、柳川祐也。貴方が今更人助け?―――冗談も程々にしてください」 「冗談などでは無い。俺はもはや鬼に支配されてなどいない―――人間の柳川祐也だ」 「そうですか……。それで、人間の柳川祐也さんはどうなさるおつもりですか?」 「俺はこのゲームを破壊する。そして、ゲームに乗っていない者達を救う」 柳川は間を置かずにそのまま言葉を続ける。 「もし道を誤ったというのなら―――俺が貴様らを殺す」 その声を聞いた耕一の体は本人の意思とは無関係に震えてしまった。 (なんて冷たい――――そして悲しい声で話すんだ……) まるで刃物を首筋に突き付けられているような、それ程の迫力。 耕一の戦闘本能が警鐘を鳴らしていた。 肉体的には自分の方が優れている筈なのに、何かが決定的に違う気がした。 だが千鶴は臆した様子を全く見せずに答えた。 「貴方らしくも無い……人を救うなどと、本当にそんな甘い考えを持っているのですか?」 「―――ああ。それが俺の誓いだからな」 誓い――――耕一達にもそれは、ある。 決して柳川とは相容れない誓い。 例え善良な人々を殺してでも家族を絶対に守るという誓いだ。 「愚かな……。では―――理想に溺れて溺死しなさいっ!」 それが契機となった。 千鶴は取り落とした銃へと走り寄る。 耕一も覚悟を決め、弾かれた様に柳川に向かって走った。 柳川はすぐさま銃口を上げ、耕一の胴体目掛けて引き金を引く。 ダンッ! 「くぅっ――ッ!」 刹那のタイミングで耕一は横に跳ぶ―――!! 弾は耕一の脇腹を切り裂いたが、浅い。 耕一は勢いを止める事なく斬りかかり、柳川は銃をポケットに仕舞うと出刃包丁でそれを受け止めた。 キィィィンッ! 「ぐ……」 額をかち割らんとする一閃を頭上で受け止め、見上げる形で耕一と対峙する。 「耕一ィーーーーッ!!」 「柳川ァーーッ!!」 人を守る者と狩猟者――――以前とは逆の立場で二人は激突する。 キィィィンッ!キィィィンッ! お互い乱暴に己の獲物を叩きつける。 すぐさま柳川は腕を引き、包丁を突き出そうとした。 耕一は刀で受けようとしたが、柳川はそのまま包丁を振り抜くような事はしなかった。 瞬時に突きの軌道が変わり、耕一のわき腹を抉らんと進む。 「!」 嫌な予感がし、柳川は咄嗟に宙へと舞った。 耕一の放った足払いは空を切る。 だが柳川の体勢を一瞬崩す事には成功した。 耕一は刀を乱暴に横に払った。 「クッ――……」 どうにか包丁の腹でそれを受け止める。 傍目には互角の勝負だった。 だが腕力と武器のリーチで柳川が劣る。 耕一の攻撃を受ける毎に腕の筋肉が軋む。 昨日負った傷も痛む。 柳川の不利は否めない――――常識的にはそうだった。 しかし――― ザシュゥッ! 「ぐあッ……」 柳川の手に服と肉を裂くかすかな感触が伝わった。 競り負け、胸を浅く斬られたのは耕一の方だった。 傷口を抑えながら後ろへと跳び間合いを取る。 「オオオォォォッ!!」 雄叫びを上げながら柳川は追撃に移ろうとする。 躊躇い無く戦っているのは両者とも同じだったが、柳川には鬼気迫るような何かがあった。 それは理想を抱き続けている者と、理想を棄てた者の――――背負っている物の大きさの違い。 彼はその気迫だけで、本来の戦力差を補っていた。 ――――銃を回収した千鶴は耕一の援護をしようとしていたが、それは妨げられる。 「舞ッ!!」 「し、しほぉーーーーッ!!」 新たな乱入者、倉田佐祐理と藤田浩之が現れたからだった。 浩之は佐祐理より遅れてこの現場に向かったのだが、体力差もあって到着はほぼ同時だった。 肩から血を流し苦しんでいる親友の姿を見た佐祐理の心に大きな怒りが生まれる。 「貴女達が舞をーーッ!」 パァンッ!パァンッ! 佐祐理はこの島で初めて銃の引き金を引いた。 親友の傷付けられた姿はそうするに十分な理由だった。 放たれた弾はてんで見当外れの方向に飛んでいったのだが―――柳川の目論見どおり、威嚇にはなった。 佐祐理の攻撃に気を取られた千鶴に、舞が、春原が、武器を拾い傷付いた体で決死の攻撃を仕掛ける。 だが怪我を負っている彼女達の攻撃に以前の鋭さは無い。 「遅すぎます」 千鶴が左足を軸に体を回転させるだけで、その攻撃は悉く空を切り、舞達は大きく態勢を崩した。 そして千鶴が振り向いた方向には後退する耕一へ今にも斬りかからんとする柳川の姿―――― 自分を狙う敵に構う事なく、彼女はその引き金を引く。 パラララッ!! 碌に狙いも付けなかったそれが柳川の体を捉える事は無かったが、何の因果か――――弾の一発は柳川の獲物を捉えていた。 体よりも遥かに小さいその的を。 バキィッ!! 「――――!?」 傷付いた刀身がその衝撃に耐えうる術はなく、柳川の出刃包丁の刃は根元から砕けてしまっていた。 耕一は徒手空拳となった柳川に容赦無く襲い掛かる。 「チッ!」 首へと迫り来る一閃を屈みこんで回避した柳川だったが、これで終わりではない。 続けざまに襲い掛かる剣風の嵐。 柳川は紙一重の所でそれをかわし続けるが、とても攻撃までは手が回らない。 銃にはまだ弾が一発残っていたが構える暇など与えられない。 千鶴の一撃で、柳川と耕一の攻守は完全に逆転していた。 * * * * * * * * * * * * * 「し……ほ……」 柳川達が激闘を繰り広げているその時、浩之はよろよろと歩き志保の亡骸の前に辿り着いていた。 彼女はもう事切れていた。 その腹のあたりからは夥しい血が流れており、目は見開いたままだ。 また、守れなかった――――。 視界が曇り、今にも泣き崩れたい衝動に駆られる。 だが浩之は志保の手にある物が握られているのを気付いた。 きっと最後の力を振り絞ってこれを使おうとして――――その前に力尽きたのだろう。 なら、今は泣いてる場合じゃない。 志保が生きていればきっと、 『ヒロ、しっかりしなさいよッ!』と叱ってくれる気がした。 周りを見渡すと苦戦している柳川の姿が最初に目に入った。 「志保―――お前の代わりに俺が強烈なカウンターパンチを決めてやるッ!」 志保の目蓋をそっと閉じる。 そして彼女の手に握られていた遺物を持って駆け出す。 まだ生きている仲間達を救う為に―――― * * * * * * * * * * * * * 耕一も鬼の血を引いている。 彼もまた怪物―――その攻撃は徐々に柳川の動きを読んで繰り出されるようになっていた。 もう素手では凌ぎ切れない。 ザシュゥ! 「ぐぅっ!」 柳川は頭上から迫り来る一閃を体をよじってひねる事で避けようとしたが、かわし切れない。 肩から胸にかけて、浅く切り裂かれる。 一瞬動きの鈍った柳川に容赦無く次の一撃が迫りそうになり―――― 「柳川さん、後ろへッ!!」 その声に反応して、柳川は後ろへ跳んだ。 浩之は思い切り腕を振りかぶり――― 「志保ぉーーーーーーーーーーーーーーッ!!」 友人の名を叫びながら手に持った物を投擲する。 耕一と柳川の間に導火線に火のつけられた爆竹が落ちて―――― パンパンパンパンッ! 激しい炸裂音が連続して響き渡る。 元より殺傷力を期待しての攻撃では無い。 ほんの数秒で良いから時間を作れれば十分だった。 その音が鳴り終えた時には柳川はもう、銃を耕一の胸に向けて構えていた。 ――――避けられない。 初動が大きく遅れた耕一はその事に気付いた。 「―――――さらばだ」 別れの言葉と共に――――― ダンッ! 銃弾が一直線に放たれる。 それは耕一の心臓を正確に貫いた。 胸が見る見るうちに赤く染まっていく。 口から血が吐き出される。 「―――後は……まか、せ……た」 それは誰に宛てた言葉なのだろうか。 千鶴か―――それとも柳川なのか。 一体何を任せたというのだろうか。 家族の事か―――それとも主催者に対しての報復の事か。 耕一の膝が折れ、地面へ倒れこむ。 その時には彼はもう死んでいた。 ―――彼の最後の言葉の意味は、もう確かめようが無かった。 鬼の王は、死んだ。 激闘と甥の死の影響で、柳川は満身創痍というべき状態に近かった。 パララララッ!! 「―――!?」 だが息も付く暇も無く銃声が再び響き渡る。 柳川が振り返る。 ――――そこでも決着が着いていた。 千鶴が春原達を見下ろしていた。 何かで殴られたのか、春原は頭から血を流しながら地面に倒れている。 そして――――佐祐理を庇うように立っている舞の胸から血が噴き出していた。 「さ…ゆり……ごめ……」 舞はどっと、後ろに倒れた。 「いやぁぁぁぁぁっ!舞!舞ぃぃぃ! 」 その体に縋り付いて泣く佐祐理には気をやらずに、千鶴は周りの戦況を確かめようとし――――目を見開いた。 「――――耕一さん!?」 彼女の愛する柏木耕一は、地面に倒れていた。 うつ伏せで怪我の状態は分からないが、血の水溜りが出来ている。 「来てっ、ウォプタルさんッ!!」 千鶴が叫ぶとウォプタル――――柳川にとっては正体不明の生物が悠然と走り込んできた。 千鶴はすぐさまその背に飛び乗り、ウォプタルを柳川に向けて突撃させた。 「くそっ!」 弾丸の装填をまだ終えていなかった柳川は飛び退くしかない。 千鶴はその隙に耕一の体を抱き上げ、ウォプタルの背に乗せた。 (今は戦ってる場合じゃない―――耕一さんを助けないと!大丈夫、きっと助かるわ……耕一さんが死ぬはずないものね) 千鶴はもう攻撃を仕掛ける事はなく、二人を背に乗せたウォプタルはそのまま走り去った。 耕一への狂信的な信頼を抱いたまま。 攻撃を仕掛けている場合では無いのは柳川も同じ。 すぐに佐祐理に抱き付かれている舞の所へ駆け寄った。 浩之もその傍で膝を地面についたまま、泣いていた。 「……貴方が……これまで…………佐祐理を守ってくれていた人?」 うっすらと目を開けた舞は、柳川の姿を認めるとそう呟いた。 柳川はゆっくりと頷いた。 「―――その通りだ」 「柳川さぁん、舞が……私を庇って……ッ!」 佐祐理が涙ながらに訴える。 舞は血に染まったその手を優しく佐祐理の頬へと添えた。 「佐祐理、泣かないで……佐祐理が泣いてると……私まで悲しくなるから……」 「舞…舞……ッ!」 「―――そうか。俺が戦っている間、お前が倉田を守ってくれたんだな……」 「ええ……。でももう、私は駄目みたいだから……」 舞は柳川の手を握る。 まるでバトンを渡すように―――全てを托して。 「―――佐祐理をお願い」 「ああ、任せておけ」 柳川は力強く答える。 舞と――――先程の耕一の頼みにも。 それで安心したのか、舞は口元を吊り上げて、精一杯の笑みを浮かべた。 彼女は滅多に見せないとびっきりの笑顔をしていた。 ―――佐祐理、今までありがとう……愛してる 最後にそれだけ言い残して、とても安らかな顔で舞は息を引き取った。 柳川は一言も言葉を発さずに佐祐理を抱き締めた。 佐祐理はその胸の中で泣き叫んでいた。 目の前で親友を失ったその痛みは如何程のものなのだろうか。 感傷に浸るななどという台詞は、もう口が裂けても言えなかった。 少女の体を抱きながら、柳川は空を見上げた。 曇り一つ無い青空―――だけど、そのどこかから主催者が下衆た笑みで自分達を見下ろしている気がした。 「今はそうやって笑っているが良い……。だがいつか必ず後悔させてやる……ッ!!」 佐祐理に聞こえぬよう小さな声で、柳川は天に向かって呟いた。 【時間:2日目11:10頃】 【場所:F-2】 春原陽平 【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】 【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】 【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡、気絶】 柳川祐也 【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】 【所持品A:支給品一式×2】 【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】 倉田佐祐理 【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:号泣】 藤田浩之 【所持品:ライター】 【状態:人を殺す気は無い、すすり泣き】 柏木千鶴 【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾0)、予備マガジン弾丸25発入り×4】 【状態@:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、疲労、逃走】 【状態A:耕一の死を受け入れていないのか純粋に気付いていないかは後続任せ】 ウォプタル 【状態:耕一の死体と千鶴を乗せている】 【関連:598 B-13】 【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】 長岡志保【死亡】 柏木耕一【死亡】 川澄舞 【死亡】 - BACK