託された命運




「あれ……?」
敬介が目を覚ますと白い天井が見えた。
怪我の影響からか、まだ少し意識が朦朧としていた。
「よう、目が覚めたか?」
声のした方へ振り向くと男が座っていた。
観鈴と同じくらいの年頃の―――だが少年と言うには相応しくない凄みが目の前の男にはあった。

「君は……?ここは一体……?」
「俺は那須宗一だ。ここは氷川村の診療所で……あんたはここの前で倒れていたんだ。
それを俺が見つけて、応急手当をしたって訳だ」
「そうか……。僕は橘敬介だ―――宗一君、ありが……」
そこで敬介は思い出した。自分が連れてきた女の子の事を。
慌てて体を起こし周りを見回す。
その所為で肩に激痛が走ったが、すぐに澪の姿を視界に捉える事が出来た。
彼女はまだ眠ってはおり、その頭には包帯が巻かれていた。

敬介が何か言う前に宗一が口を開いた。
「ああ、その子も一緒に手当てをしておいた。その子の怪我はあんたと違って軽いし平気だと思うぜ」
「―――ありがとう、本当に助かったよ」
そう言って敬介は頭を下げた。
「気にするなって。それよりあんた達一体何があったんだ?
そんな怪我で人を背負って動き回るなんて、よっぽどの事があったんだろ?」
「ああ、大変だったよ……。色々ありすぎて、どこから説明したら良いか分からないくらいね……」
平瀬村での一件は筆舌に尽くしがたい程の激闘だった。
それに平瀬村の一件を説明する前に、まず天野美汐との事から説明する必要がある。
これ以上余計な誤解を招かない為にもだ。

「じゃあまず、僕がこの村に来た時の事から話……」
「……待て、誰かが近付いてきてるみたいだ」
「―――え?」
宗一は敬介の言葉を遮って、真剣な表情でFN Five-SeveNを握っていた。
集中してみると、確かに遠くから何かの気配が近付いてきているのが敬介にも分かった。

これまでの厳しい戦いの経験のお陰かは分からないが、敬介の感覚は以前より鋭敏になっていた。
「俺が行ってくる、あんたはここで待っててくれ」
「僕を信用してくれるのかい?」
「一応な。殺し合いに乗った奴がそんな体で女の子を背負って動き回るとは思えない」
宗一は敬介の方を見ずに立ち上がり、警戒した足取りで玄関の扉へと向かった。


宗一が扉を開け放つと、女が駆けて来るのが見えた。
その手には銃が握られている。
宗一が銃を構えるのとほぼ同時に女―――水瀬秋子も脚を止め、宗一に向けて銃を構えた。
いきなり発砲してこない事から考えて、相手はゲームに乗っていないかも知れないと秋子も宗一も考えた。
しかし予断を許さない状況である事に変わりは無い。
ほんの些細なきっかけで次の瞬間には射撃戦が始まる可能性もあるのだから。

二人の間に緊張が走る。
先に口を開いたのは宗一だった。
「俺は殺し合いには乗っていない、だから出来れば穏便に済ませたい」
「ええ、私もゲームに乗っている訳ではありませんから……それには賛成です」
「あんたここに何か用なのか?」
「ええ、私は人を探しています。女の子を背負った男がここに来ませんでしたか?」
「確かに人は来たが……それは敬介と彼が連れていた女の子の事か?」
「!」
秋子の目が見開かれる。彼女の予想は当たっていたのだ。
そして宗一の問いに、秋子は答える。
片手で脇腹を押さえたまま、しかしはっきりとした声で。
「ええ、そうです。私はその女の子――澪ちゃんを助ける為に。
そして人を謀る極悪非道な男―――橘敬介を殺す為にここに来たのですから」
告げる。
自身の目的を。

誤解を解く暇も与えられぬまま。
敬介の命運は宗一の判断一つに託された。




【時間:2日目・午前7時40分】
【場所:I−7(診療所)】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)、H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:携帯電話の改造開始。現在の目的は情報を集めること、次に仲間と合流。宗一の判断は次の書き手さん任せ】

鹿沼葉子
【所持品:支給品一式】
【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当ては済んでいるがまだ歩けるほどではない)。一応マーダー。今は郁未のために情報を収集する】
【状態A:病室にいる】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:玄関奥にいる】

上月澪
【所持品:なし】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・気絶中。目的不明。玄関奥にいる】

水瀬秋子
 【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
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