「うわぁぁぁぁぁ……」 「栞……」 午前6時、放送があった。 ――――香里が死んだ。 栞はリサの背中で泣き続けた。 「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがっ……」 耳元で栞が泣き声を上げ続ける。 詳しく話を聞いた訳では無いが、姉の話をする時の栞の表情は明るかった。 声のトーンも高くなっていた。 よほど大事な、きっと世界で一番大事な人だったのだろう。 その姉が、死んだ。 その事実が栞に与えた衝撃の大きさと心の傷の深さは計り知れない物がある。 下手な慰めの言葉はきっと逆効果だ。 だからリサは、優しく栞の頭を撫でた。 何度も何度も。 ほんの僅かでも栞の支えになれる事を願って。 ほんの僅かでも栞の気持ちが安らぐ事を祈って。 ――――そしてリサは今もまだ、栞を背負って歩いている。 栞は泣き疲れて眠ってしまっていた。 無理もない、ただでさえ衰弱している状態の上に追い討ちのように心にまで深い傷を負ったのだから。 そして傷を負ったのは栞だけではない。 リサの大切な仲間の一人であるエディもまた、放送の中で名前を呼ばれていた。 リサが涙を流す事は無かったが、エディの陽気な笑顔が心の中で浮かんでただひしりと心が痛んだ。 そしてリサは同時に焦りを覚えていた。 いや、元々焦りはあったのだ―――更に焦りが強くなったというべきだろう。 もうあまりにも人が死に過ぎた。 そして―――― 「優勝すればどんな願いでも叶える、ね……。何ともタチの悪い扇動の仕方だわ」 主催者のやってきた事は今までのリサの常識ではおおよそ信じ難い事だった。 主催者は各界の実力者・権力者をたった一日でこの島に集め、その生殺与奪すら完全に握って見せたのだ。 そのような者ならば一個人の願いなら―――人を生き返らせるという願いですら、叶えられるかもしれない。 「でももしそうだとしても……叶えるはずが無いわね。願いを叶えるより首輪のスイッチを押す方がずっと楽でしょうから」 主催者が約束など守るはずがない、とリサは考えていた。 主催者は参加者に餌を見せてゲームに乗らせようとしているだけに過ぎない。 大体このような事を考える者なのだ、優勝者に対して情けをかけるとはとても思えなかった。 つまり、優勝しても助からない(もっともリサは、優勝すれば助かるという事が確定していたとしてもゲームに乗る気は微塵も無かったが)。 そして――――もし主催者が、人間離れした圧倒的な力のようなものによってこのゲームを成り立たせているのなら状況は絶望的だ。 万全の状態の篁をただの一参加者として扱い掌の上で躍らせれるような化け物が相手では何をやっても勝てないだろう。 だが連中が参加者の拉致に成功したのには何か裏があるかも知れない。 主催者はゲームの開始時に言った……『人外の力はある程度制限されている』、と。 そして実際に柳川は、鬼の力を制限されていると言っていた。 自分にはもうよく理解出来ない領域の話だが―――― 各界の実力者を実力者たらしめている特別な力を『制限』もしくは『封印』出来るような何かがあるのなら。 そしてそれによって制限を行なったからこそ、今回の殺し合いの舞台を整える事に成功したのなら。 付け入る隙はまだある。 自分は人外の力を持っている訳ではないから制限など関係無い。 それでも主催者に一人で立ち向かえるとは到底思えなかったが、宗一や協力してくれる人間と合流出来れば勝機は見えてくる。 もし自分達では力が及ばなかった場合でも、制限を成立させている何かを崩壊させる事に成功すればきっと柳川が何とかしてくれる。 主催者を打倒出来る可能性は、ある。 「Yes,……そうよ、きっと道はあるわ」 苦境に立たされているリサだったが、とてもか細い希望を信じながら。 彼女は今この時も強く在り続ける。 【時間:2日目午前7時30分頃】 【場所:H−8】 リサ=ヴィクセン 【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】 【状態:焦り、栞を背負いつつ診療所に向かっている】 美坂栞 【所持品:無し】 【状態:酷い風邪で苦しんでいる、睡眠】 ※栞を背負っているので、リサの歩く速度は少し遅めです - BACK