Unstable confederation




はぁい、どうも。すっかり置いてけぼりにされていた(B-10の)天沢郁未です。
まぁ、あれよ。世間様では私はすっかりかませ犬だの空気だのいらない子だの言われてるけど私だってマーダーの一人だもの、しっかりしなきゃね。
え? どうして一人称で話しているかって? そりゃあれよ、いまハカロワで人気ぶっちぎりの奴は主に一人称主体でいってるらしいじゃない? だから私もそれにあやかってみようと思ってね。どこの誰だか知らないけど。
…ホントは、葉子さんの死を紛わせるためにやってるんだけどね。数少ない、私の味方だったから、そりゃショックも大きいわよ。
それでも相打ちにもっていった葉子さんは本当に凄いと思う。だから、もうこれ以上は負けられない。何としてでも生き残らないと。
とは言うものの、正直一人で勝ち残っていけるかというと、厳しいものがあるわね…不可視の力は使えないし、武器も頼りないし。けど頼れる仲間もいないしね。
まぁ…あの少年(未だに本名が分からない、クソッ)も一応は味方なんだろうけど、何を考えてるかわかんないようなところもあるし…はぁ、分かりやすい性格の奴が仲間ならいいんだけどなぁ。
などと考え事をしながら歩いていたのが失敗だった。
ズガン!
いきなり響く銃声。そして、目の前から高速で飛んできた銃弾が、郁未の額を貫いたのだった。

天沢郁未 【死亡】





…なんて状況になるところだった。ギリギリのところで、銃を構えた女に気づいてアヴドゥルのように頭を反らさなければ間違いなくこうなっていたわね…くわばらくわばら。
「…ちっ、勘がいいわね」
私の目の前にいたのは何やらギラついた目をしている制服姿の女。距離はゆうに5メートルはある。どう転んでも薙刀すら届かない距離だ。
「ちょっと、いきなり何のつもり? こちとらまだ大した活躍をしてないのよ、せめて名言くらい吐いてから死にたいんだけど」
「黙りなさい」
女が再び銃を構えたので私はやむなくバンザイして降伏の意思を示す。しかしこのまま死のうものなら私は間違いなく「『天皇陛下ばんざーい』という台詞の途中で米軍の爆撃をもらって死んだ哀れな一国民」のような格好で野山の肥やしになるだろう。
「聞きたいことがあるんだけど」
女は構えたまま尋ねる。質問? いきなり撃ち殺そうとしておいて質問とは何事だ。
「…そのまえに、一応弁解しておくわ。さっきのは威嚇のつもりで撃ったんだけど、どうもまだ銃に慣れて無いようなのよね…で、手元が狂って真っ直ぐ飛んでった、ってワケなんだけど」
グレイト。つまり私は手元が狂った、という最高のハプニングで野山に晒されそうになったってワケか。
私の非難轟々の目線に、女が取り繕うように咳払いをする。
「と、とにかく…私は今ある女の行方を追っているのよ。これくらいの小さいチビで、調子の良さそうな言葉遣いをする…名前はまーりゃん、っていう奴なんだけど…知らない?」
身振り手振りでそのマーリャンなる生物の説明をする女。
「そんな名前…名簿にあったかしら? 本名は?」
「知ってたら始めから本名で言ってるわ。で、知らないの、知ってるの?」


有無を言わさず、といった強い口調で言う女。…やばいわね。知らないと言ったらその場でズドン、は確定ね。でもそんなマーライオンの仲間みたいな奴なんて知ってるわけないじゃないのよさ。
ここは慎重にいかねば。落ちつけ天沢郁未。KOOLだ、KOOLになるんだ。
「残念だけど知らないわ、でも」
「死ね」
ズダァン!
またもや私の頬を掠める銃弾。冷や汗が流れるのを、私は感じた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 話は最後まで聞くものよ」
私の必死な弁明に、渋々銃を下ろす女。ああクソッ、冗談キツイわよっ。こんなギャグキャラみたいな死に方なんてゴメンだわ。
「知らない、確かに知らないんだけど…けど、あなたもこのゲームには乗っているんでしょう?」
「それがどうしたってのよ」
苛立たしい口調で言う女。オーケイ、落ちついて落ちついてブッシュ大統領。
「どうせなら、私と手を組まない?」
「さよなら」
ズダァン!
さっき撃たれた方とは反対の頬から血が流れる。
「ちっ…どうも射撃って上手くいかないものね」
もはや日米交渉はご破算寸前だった。このままでは米軍との開戦も免れないだろう。
近衛首相、開戦するのかしないのかどっちなんですか。了解、嫌なら総辞職なさい。その後に銃殺してあげましょう、っての? ブラボー。
「まっ、ままま待ちなさいって! アンタ、ホントに一人でそのマーリャンっての何とかできると思ってんの?」
「何? 私に説教する気?」
「違うっての! そうやって片っ端から殺してくのはいいけどね。その内息切れしちゃうわよ。ようやく見つけた、って時に銃も弾切れ、体力もない、ってんじゃ返り討ちに会うのがオチよ」
そう言うと、なるほど一理あるわね、というように女が銃を下ろす。
やれやれ。ペリー提督もようやくニホンゴが理解出来るようになりましたか。
「実は私もゲームには乗ってるの。でも流石に一人じゃ行き詰まってきてね…お互いに敵だけど、今は協力し合うしかないんじゃない?」


ようやく言いたい事が言えた。この女、物騒極まりないけど戦力としては十分。性格も分かりやすそうだし。
「つまり…互いに利用し合おう、ってワケね」
「そういう事。もし私とあなたが生き残れば、決着はその時につければいいでしょ?」
「ふん、いいわ。あなたの案に乗ってあげる。ただし、もし私の邪魔になるようだったらその時はすぐに撃ち殺すから」
「言うわね。こっちだってあなたが邪魔になれば切り殺すわ」
互いに敵意のこもった笑みを向ける。油断ならない信頼関係。
例えるなら吉野家でUの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、って関係だッ!
「先に名前を言っておくわ。私は天沢郁未」
「来栖川綾香よ。精々邪魔にならないようにね」
言ってくれるじゃないの。私は荷物を拾い上げると綾香と並んで歩き出した。
「ちょっと、気安く並ばないでくれる?」
「何よ、対等な関係でしょ? 今は」
「はっ、銃も持ってないくせに」
火花を散らしつつ、次なる殺人へと、私達は向かう――




【時間:1日目午後11時頃】
【場所:G−04】

来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(3/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】


天沢郁未(綾香の下僕)
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】













って! ちょっ! 何で私が下僕になってんのよ! 確かに武器は見劣りするけど…納得いかーんっ!


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