倉庫に辿り着いた陽平達は何か使える物が無いか探していた。 だが彼らが探している倉庫はかつて茜達が使用していた倉庫だった。 即ち――― 「―――もう何も無いね」 陽平がソファーの下を覗き込みながらぼやく。 「っていうか、何で倉庫にソファーなんて置いてあるんッスか!?」 そう。この倉庫にはソファーやテーブルなど、おおよそ倉庫に似つかわしくないものばかりが置いていた。 まるでリビングか何かのようで、テレビさえあれば1日中ここで快適に過ごせそうな気さえしてくる。 「―――とにかくだ。これ以上探しても無駄じゃないか?」 護の一言に全員が頷く。 かくして彼らは倉庫の探索を切り上げたのだった。 ここでの収穫は鉄パイプ一本だけであった。 「じゃあ次はどうするかだけど……」 陽平はそう言って、ちらりとるーこの方を見る。 意見を求められている事を察したるーこは考えていた事を口にした。 「るーは違う村に行くのが良いと思う。この村では激しい戦いがあった――だからもう、この村に他のうー達はいないかもしれない」 「それはつまり、他の村に行って仲間を探すって事ッスか?」 「ああ。そうなるな」 そのやり取りを聞いていた護はるーこの意見を反芻した。 (戦闘の影響で村に他の人がいないかもしれない――――だけど、人がいないからこそ出来る事があるんじゃないか?) そう考えた護はるーこの意見を否定した。 「折角人がいないんならさ……今のうちにそこら中の家を調べちゃわないか? 人が多い場所じゃそんな余裕が無いかもしれないしさ」 「そうか……一理あるな。るーもそれで良いと思う」 「……はちみつくまさん」 その後も少し話し合ったが、結局護の意見が採用される事となった。 ・ ・ 陽平達は近くの民家を探し、既に3件程調べ終えていた。 民家からは爆竹・ライター・救急箱が見つかった。 爆竹とライターは使い所が難しいが、救急箱は確実に役立つ場面があるだろう。 だが4件目の民家に向かおうとした護達は、横から風が吹きつけてくるような感覚を覚えた。 横の小さな林―――ざわめく木々の間から何かが近付いてくる。 かつての仲間と―――自分達を襲った女が妙な生き物に乗ってこちらに走ってくるのが見えた。 「あれは……耕一さんじゃないッスか!」 「でもあの女は昨晩の……」 仲間だった耕一が自分達を襲った千鶴と共にいる事に護達は戸惑いを隠せない。 耕一と千鶴はウォプタルから降り、歩いて舞達の方へと近付いてきた。 舞は半ば本能的に刀を構える。 そんな舞達に対して、耕一は苦笑いしながら言った。 「あ〜、そんなに警戒しないでくれ。千鶴さんはもう俺が説得したんだからさ」 「じゃあ……?」 護が期待に満ちた声で尋ねる。 その問いには千鶴が答えた。 「―――ええ。今の私は耕一さんと同じ道を進んでいます」 「ま、そういう事さ」 護は思う。 (耕一さんは千鶴さんの説得に成功したんだ……。だったら以前の事なんて忘れて、千鶴さんも暖かく迎え入れてあげるべきだよな) 「そっか……良かったよ。じゃあそんな離れた所に居ないでこっちに来なよ。一緒に行こうぜ」 護はそう言って、つかつかと耕一へと歩み寄る。 その時、耕一の両腕にぐっと力が篭った。 それを見抜けたのはこの場でただ一人――― 「―――うーまも駄目だっ!逃げろ!」 「―――え?」 場の時間が止まる。 刀が生えていた。 護の背中から。 剣先から紅い血を滴らせながら。 耕一が護の体から刀を引き抜くと、支えを失ったその体は地面に倒れこんだ。 千鶴がトドメとばかりに彼の体目掛けてウージーの引き金を引き絞った。 護の体がびくんびくん!と痙攣するように動いて赤い何かが飛び散る。 心臓を貫かれた事も理解出来ずに。 蜂の巣にされた事も知らずに。 残された者達の無事を祈る時間すら与えられずに。 護の意識は闇の底へと消えていった。 「耕一、あなた……!」 舞がキッと耕一を睨む。 耕一は一瞬申し訳無さそうな顔をしたが、すぐに冷たい顔つきになった。 「俺は千鶴さんを説得したんだ、もう一人で重荷を背負うなってな。 だから―――俺も人を殺す。千鶴さんと一緒にな」 「そんな……」 信じられない事態に、チエはその場にへたり込みそうになる。 千鶴は隙らだけの彼女に対してウージーの銃口を向ける。 しかし――――るーこは冷静だった。 「あぐっ!?」 千鶴の手に何かが当たり銃を取り落とす。 見ると、それは木で出来た星のような物体だった。 るーこが咄嗟に陽平の鞄から抜き取り、ブーメランのように投げつけたのだ。 「みんな、今だっ!」 陽平の叫びが契機となり、それぞれが動き出す。 「あなたはぁ!」 「―――くぅ!」 舞が両手で日本刀を握り締め一直線に耕一へと斬りかかる。 耕一は手に持った刀でその舞の攻撃を凌いでいた。 激しいつばぜり合い。耕一と舞は顔を付き合わせる形になった。 「行くぞ、よっち!」 その一方でるーこはチエの腕を取ると、強引に彼女を引っ張り走り出した。 だが逆に陽平は、鉄パイプを振り上げながら千鶴の方へと駆けた。 「うーへい!?」 「僕に構わずその子を安全な所に!」 今のチエをこの場に残しては良い的になる。 だから――――彼女は最優先で逃がした方が良い。 るーこは逡巡しそうになったが、すぐに陽平の意図に気付いて駆け出した。 「―――っ!」 銃を拾い、舞を今にも射抜かんとしていた千鶴は陽平の予想外の行動に反応が遅れる。 陽平の振り下ろす一撃をバックステップしてやり過ごし、続く突きは少し余裕を持って空いてる方の手で軌道を逸らす。 重心を泳がせがら空きになった陽平の胴体に銃を向けようとするが、千鶴は咄嗟の判断でその場を飛びのいた。 直後それまで千鶴がいた辺りを風が通過する。 「志保ちゃんをなめんじゃないわよっ!」 志保がナイフを手に走り込んで来ていた。 間髪置かずに陽平が踏み込む。 千鶴はウージーの銃身でどうにかそれを受け止めていた。 ――――攻め続ける事が重要だった。 この距離で銃撃を避けるのは不可能に近い。 陽平達が生き延びるには千鶴に銃を撃つ暇を与えない事が絶対条件だった。 この場にいる全ての人間が一度は死線を潜っている。 だからこそ全員直感でその事を理解していた。 ・ ・ ・ ・ ・ 柳川達は平瀬村目指して歩を進めていた。 途中教会に立ち寄ったが、そこは既にもぬけの殻で特に収穫は得られなかった。 同時に教会の中で武器の再分配と軽い情報交換を行なったのだが、その中で発覚した事を確認する為に柳川は珊瑚に尋ねた。 「―――姫百合。お前は本当に首輪を外せるのか?」 これは本来なら教会の中で確認しておくべき事だったがいつ舞達が平瀬村を離れるか分からない。 だから柳川は先を急ぐ為、情報交換の続きは歩きながらする事にしたのだ。 「うん。確証はまだあらへんけど多分いけると思う」 「ふぇー、珊瑚さんってすごい方なんですね……」 すっかり感心した佐祐理がそう呟いた。 だが話を聞いていた浩之は逆に不安を抱いていた。 「多分、か……。失敗すれば首輪は即爆発してしまうんだし、危なくねえか?」 柳川もそれに同調し意見を続ける。 「藤田の言う通りだ。外したら自動的に爆発する仕掛けをしてある可能性も考えられる……。 外そうとするならちゃんとした確証が必要だ」 二人から指摘され珊瑚はうーん、と唸りながら紙を取り出し何かを書き始めた。 紙には乱雑な字でこう書かれていた。 『盗聴されてるから筆談で説明するでー』 柳川はその字の汚さに呆れつつも珊瑚に習い紙に文字を書きなぐる。 『盗聴されているのは知っているが……もう少しマシな字を書いてくれないか。読み取るだけでも一苦労だぞ』 柳川はやれやれ、と肩を竦めるいつものポーズをとって見せた。 珊瑚は不満げに頬を膨らませたが、今回は他の者も柳川に同意でこくこくと頷いていた。 その後も筆談が続いた―――その内容は以下の通りである。 ・首輪の解除は工具があれば出来る自信があるが、先の発言の通り確実ではない ・パソコンでハッキングを行い主催者の情報を調べる、その時に首輪の構造の情報が入手出来れば首輪解除が確実に行なえる ・これらの理由からまずは平瀬村でパソコンを入手したい ・筆談の内容は一切喋らずに、口頭上では工具を探している事にして欲しい 事情を全て了解した柳川は紙を鞄へと戻しながら喋りだした。 「―――まあ他に方法は無い、まずは村で工具を探すしかないか……。倉田の連れも見つかると良いんだがな」 「確か川澄舞って言う人だっけ?」 「ええ、無事だと良いんですが……」 柳川達は会話を交わしながらも足を止める事は無い。 程なくして彼らは平瀬村に辿り着いていた。 浩之が地図と睨めっこしながら柳川に尋ねる。 「なあ柳川さん、どこから探すんだ?」 「そうだな―――まずは村の中央部から探すか。きっとそこが一番倉田の連れがいる可能性が……」 その時辺り一帯に連続した銃声―――戦いの始まりを報せる音が響き渡った。 佐祐理が強張った表情で柳川の方へと視線を送る。 「こ、これは……」 「ああ、どうやらゲームに乗った愚か者がこの村にはいるらしい……!」 厳しい声でそう言うと、柳川はポケットからS&W M1076を取り出した。 「どうするん?」 珊瑚が尋ねる。だが柳川の答えは決まりきっていた。 一人でも多くの人間を救いたい―――それが刑事である彼の願いだから。 「俺は現場に行ってくる。お前達はこの辺りの民家に隠れておけ」 「そんな、一人でなんて―――」 浩之の言葉に耳を貸さず、柳川はもう銃声のした方へと駆け出していた。 「待ってください、佐祐理も行きますっ!」 すぐに佐祐理もその後を追って走り去っていった。 残された3人は呆然と立ち尽くしていた。 しかし、やがて浩之が意を決したような表情で珊瑚達に話し掛けた。 「川名と珊瑚はここで待っていてくれ。やっぱり俺も行ってくる」 「だったらうちらも……」 「駄目だ!」 珊瑚が言い終わる前に浩之が大声で叫び遮っていた。 その剣幕に珊瑚はびくっと怯えてしまう。 浩之はコルト・ディテクティブスペシャルを鞄から取り出し、珊瑚へと手渡した。 それから告げる。とても真剣な目で。 「珊瑚は首輪を外せる―――だからこの島にいる皆の為にも絶対に死んじゃいけないんだ。 辛いだろうけど自分の身の安全を最優先に行動してくれ。 後―――俺がいない間、代わりに川名を守ってやってくれ。頼む」 こう言われると珊瑚も諦めて頷きざるを得なかった。 「そんな―――武器も持たずになんて……」 ただ一人、まだ納得していないみさきが表情を曇らせながら呟く。 先程聞こえてきた銃声は軽機関銃の類である事は明白だった。 そんな所に素手で飛び込むなど、無謀と言う他ない。 みさきの不安を見て取った浩之は、彼女の頭にそっと手を載せ撫で始めた。 「すまん……俺はこれ以上人が死ぬのを放っておけないんだ」 「ひ、浩之君……?」 「ばーか、心配するなって。俺はまだ死なない―――川名を残して死ぬなんて出来ねーよ。瑠璃とも約束したしな。 だから安心して待っててくれ」 なだめるような優しい声でそう告げると、浩之もまた銃声のした方へと一目散に走り出した。 一人でも多くの人間を救いたい―――その点においては彼も柳川と同じだった。 元仲間同士の、そして同じ血を引いた者同士の、哀しい戦いが始まる。 【場所:F−2】 【時間:2日目10:40頃】 春原陽平 【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】 【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】 【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、戦闘中】 長岡志保 【所持品:投げナイフ(残り:2本)・爆竹・ライター・新聞紙・支給品一式)】 【状態:戦闘中】 川澄舞 【所持品:日本刀・支給品一式】 【状態:戦闘中】 ルーシー・マリア・ミソラ 【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】 【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】 【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)。チエを安全な場所へ】 吉岡チエ 【所持品:救急箱・支給品一式】 【状態:るーこに連れて行かれている、軽い錯乱状態】 住井護 【所持品:投げナイフ(残り:2本)・支給品一式】 【状態:死亡】 柏木耕一 【所持品:日本刀・支給品一式】 【状態:マーダー、首輪爆破まであと22:05】 柏木千鶴 【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾13)、予備マガジン弾丸25発入り×4】 【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、マーダー】 ウォプタル 【状態:耕一達の近くに放置されている】 柳川祐也 【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】 【所持品A:支給品一式×2】 【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、銃声のした方へ】 倉田佐祐理 【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:銃声のした方へ】 藤田浩之 【所持品:なし】 【状態:人を殺す気は無い、銃声のした方へ】 川名みさき 【所持品:なし】 【状態:安全な場所で待機】 姫百合珊瑚 【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)】 【状態:安全な場所で待機、みさきを守る】 ※木彫りのヒトデは耕一達が戦っている辺りに転がっています、柳川達が聞いた銃声は千鶴が住井を撃った音 - BACK