「何か御用ですか?」 声を掛けてきた往人達に対し、秋子は痛む腹を押さえつつ答えた。 「ちょっと聞きたい事があるんだが―――ってあんた大丈夫か?随分顔色が悪いようだが……」 「腹を撃ち抜かれましたが問題ありません。……ですが先を急いでいます、ここでお話するのは了承出来ません」 それでは失礼します、と秋子はそのまま走り出した。 往人はどうするか迷ったがすぐにその後を追った。 横に並び、走りながら話しかける。 「ちょっと待ってくれ、まだ話は終わってないぞ」 「まだ何か用があるのですか?先を急いでいると言った筈ですが」 「……撃たれたのに走るのは無茶じゃないのか?」 「無茶でも何でも構いません。私は一刻も早く診療所に行かないといけませんから」 「どうしてだ?そんな怪我を負っているのに何をそこまで急ぐんだ?」 「橘敬介という極悪非道な男に仲間が攫われたからです……奴は恐らく診療所にいます。 ですから奴に罰を与え、仲間を救わなければなりません。こんな所で時間を食っている暇はないんです」 そこまで語り終えると、秋子はぐっと歯を食い縛って険しい表情をした。 その様子はまさに鬼気迫るといった感じである。 往人は今落ち着いて話をするのは不可能だという事を理解した。 ならば最低限のやり取りで必要な事を済まさねばならない。 「……そうか、邪魔して悪かったな。一応あんたの名前だけ教えてくれないか? 俺は国崎往人だ――もし神尾観鈴って奴に会ったら俺がここにいた事を伝えて欲しい」 「私は水瀬秋子です。伝言了承しました……代わりに私の方からもお願い事があります。 もし水瀬名雪という女の子を見つけたら私が診療所にいる旨を伝えてください」 「分かった」 「はい、お願いします。では今度こそ失礼します」 秋子はそう言うと益々ぺースを上げ、怪我人とは思えない速度で走り去った。 足を止め立ち尽くしていた往人だったが、暫くするとあかりが追いついてきた。 元々体力も無く怪我もしている彼女では秋子の走るペースにはついてこれなかったのだ。 あかりは息を切らしながら非難の言葉を口にする。 「ハァ……ハァ……。もう国崎さん、置いていくなんて酷いですよ〜」 「ああ、悪いな。さっきの奴に聞きたい事がいくつかあったんでな」 「そうですか……それで何か分かりましたか?」 そう聞かれ、往人は秋子とのやり取りの一部始終を説明した。 聞き終わったあかりは少し憂いの混じった顔をしていた。 「また……殺し合いが起きてしまうんですね」 「秋子の様子は尋常じゃなかった。橘敬介という男を見つけたら間違いなく殺そうとする筈だ」 「でもあの人、怪我してるんじゃ……」 「ああ。相手は極悪非道な男らしい―――返り討ちにされてしまうかもしれない。……だから俺に考えがある」 「考えって?」 元々険しい顔つきの往人だったが、その顔つきが一層険しくなった。 まるで何かを決意したような表情だった。 「今の俺達には知り合いがどこにいるかは全く分からない……。 どうせ闇雲に探すしかないなら、どこに行っても問題無い筈だ。だから俺は今から診療所に行こうと思う」 「―――秋子さんを助けに行くんですね?」 「出会ったばかりの人間の為に無茶をするつもりはない。……だが状況が許せば助けたいと思っている。 この島から脱出するにはもっと多くの仲間が必要だ、ならゲームに乗っていない人間が殺されるのを放っておく訳にはいかない。 それにゲームに乗っている人間を見逃す訳にもいかない。 俺がしようとしている事は危険かもしれない―――いや、間違いなく危険だろう。それでも構わないか?」 「構いません……これ以上人が死ぬのは嫌ですから……」 「よし、決まりだ。急ぐぞ!」 「はいっ!」 ―――国崎往人も神岸あかりも根本的な所ではお人好しだった。 お人好し二人は秋子が去った方向へと走り出した。 秋子を救う為に―――そして橘敬介と戦う為に。 天野美汐の気まぐれで放たれた悪意の拡散は、止まる事を知らない。 国崎往人 【時間:2日目6時55分】 【場所:I−4】 【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】 【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】 【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子を助けに診療所へ】 神岸あかり 【時間:2日目6時55分】 【場所:I−4】 【所持品:水と食料以外の支給品一式】 【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子を助けに診療所へ】 水瀬秋子 【時間:2日目6時40分】 【場所:I−4】 【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】 【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い診療所へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】 - BACK