取り残されて




「今頃は、みんな頑張ってるのかな」

そう言って、緒方英二は自分の膝に頭を預け安らかに眠っている春原芽衣の髪を優しく撫でた。
幼い少女の安心しきった表情が微笑ましい、暖かな温度に英二の心も癒されていく。

鎌石小中学校に向かった面子を見送ってから既に数時間経っていた、今は英二が見張りをすることになっている。
本当はこの後向坂環が見張りを交替することになっているけれど、彼女がこの部屋にやって来る様子はない。

(彼女も最初から色々あったみたいだし、大変だったんだろうな・・・)

目線を、芽衣に向ける。
芽衣も色々あった。いきなりゲームに乗った参加者に襲われるという経験が、幼い心に傷を残さないことを祈るばかりである。

(あの少年、見覚えがあった・・・ような、ないような)

芽衣を襲った人物、七瀬彰とは直接の面識はない。故に英二からすれば、彰は名前すら分からない一参加者であった。
一方彰からしてみれば、英二程の有名な人物は名前くらい覚えている範疇であって。
この違いのもたらす影響を、まだ彼は気づかない。・・・彰も、忘れている頃だろう。

「さて、どうするかな」

暇をもて余していてもしょうがない。
英二は自分の膝で熟睡している芽衣の頭をそっと降ろし、クッションをあてた。
そのまま自分は、机の方に置きっぱなしになっている杏のノートパソコンの方へと向かう。
パソコンの電源はつけっぱなしであった、何か書き込みがあったら即対応するためである。
特に観鈴の父親の件については、何かしらの情報は欲しい所だ。

スクリーンセーバーを止め、まずは開いたままであった「死亡者報告スレッド」に更新をかける英二。
最終更新時刻は零時、最後に見たページから変わってはいなかった。
次に掲示板に戻り・・・気づく。「自分の安否を報告するスレッド」には、新たな書き込みが存在していた。
期待を込め内容を確認するが・・・英二の目が捉えたそれに対し、彼は自身の動揺が隠せなかった。

(・・・これは、まずいな)

ハンドルネームは「岡崎朋也」。午後二時に鎌石村にて集合をかけるというその自殺行為にさすがの英二も冷静さを失いそうになる。
慌てて地図を取り出し確認してみると、場所自体もここから非常に近い。
危険であった。この書き込みを見て集まる者が、ゲームに乗っていないとは限らない。
罠か、それとも馬鹿正直なのか。

(神尾さんの書き込みにレスをつけているから、彼女の知り合いなんだろうか)

だが、確かめたくとも観鈴はここにはいない。

(そう言えば、彼女フラッシュメモリがどうたらこうたらって言ってたような)

だが、確かめたくとも観鈴はここにはいない。しかも今は関係ない。
とにかく、この書き込みに関してはこれ自体が「岡崎朋也」本人によって行われたかも分からない状態である。
鵜呑みにするのも危険、英二が頭を抱えていた時であった。

「これ、岡崎さん!」

いつからだろうか、眠っていたはずの芽衣がノートパソコンを覗くようにして身を乗り出していた。

「芽衣ちゃん、知り合いかい?」
「はいっ、お兄ちゃんの友達なんです」
「・・・ふむ」
「これで、仲間も増やせますねっ!やったー」

無邪気にはしゃぐ芽衣に対し、意見を述べる雰囲気でもなく。
英二は喜ぶ彼女の頭を撫で、これに対しどう対応すべきかを考えるのだった。




緒方英二
【時間:2日目午前3時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:書き込みに対し警戒】

春原芽衣
【時間:2日目午前3時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:書き込みを朋也と信じている】
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