さよならと新たな出会い




よぉ皆の衆。毎度お馴染みの一人称視点でお送りしている高槻様だ。
いつもならここいらで愚痴をこぼしたりお袋に(脳内)手紙を出している頃だが今はそんな気分じゃねえ。俺様にだってセンチメンタリズムに浸りたい時だってあるのさ。
それもそうさ、俺様のファン四号の沢渡(一号は郁乃、二号は立田、三号は久寿川な)が俺様達をかばう形で名誉の戦死をとげちまったんだからな…
一番最初のグループでそこそこ仲が良さそうだったゆめみを始めとして俺様を除く全員が涙を流している。いや、ゆめみはロボットだから涙を流しそうな表情なだけなんだけどな。
俺様は泣かない。というより、泣けないのだ。そりゃそうか、ずっとFARGOにいて泣く子も黙るような事をさんざんしてきたんだからな…けどよ、俺様だって悲しくないわけじゃあない。一時とは言えこんな俺様にも懐きかけてくれたんだからよ。
などと俺様が冷静になっていても状況が進展するわけじゃあねえ。早いトコ久寿川に追いつく為にも荷物をまとめなくっちゃあいけない。
「…おい、ゆめみ。別れはそこらへんにしとけ。ここから出るぞ」
俺様はゆめみをどかし、沢渡の遺体を持ち上げる。ひどく軽くて、そしてまだ温かかった。
「ちょっ…そんな言い方ないんじゃないの? ゆめみにとって、真琴は大切な仲間だったのよ? それに…あんた、どうしてそんな平然とした顔でいられるのよ…人が…死んだっていうのに」
普段のあいつとは全然違う、涙目で俺様に言う郁乃。
…俺様にだって分かるもんか。それに、こんなところでくよくよしててもしょうがねえじゃねえか。
しかし、上手い説得の方法を思いつけなかった俺様はいつもの調子で、無神経な口調で言ってやる。
「知るかよ…大体、あいつとは元々縁もクソもなかった奴だぞ。たった一日足らず一緒にいただけじゃねえか」
「な…何よっ…その突き放した言い方は…!」
必要以上に暴言を吐いてしまう俺様に、郁乃が怒りを含んだ言い方で答える。…クソッ、本当に分からねえよ…どうしてだか、何か胸の中のモンが煮えたぎっていやがる。
「大体よ、あいつが勝手に動くからだ。力もねえくせにしゃしゃり出てくるからこうなったんだ」
「こっ…こいつ…助けてもらっていてなんて野郎だ…」
まだ名前も聞いていない小僧に睨まれる。包丁でもあれば今にも突き刺してきそうだ。


「まったく…いつもいつもギャーギャー煩くてよ…恐がりなくせして敵の前では虚勢を張りやがるし、何をしても文句を言いやがる」
沢渡を抱える手が震え、足も震え出してロクに進めなくなる。そう言えば、最後にあいつにしてやったのも、こんな感じの…所謂お姫様だっこだった。ちっ…こうなると分かってりゃもう少しやっても良かったってのによ。
その時の、沢渡の嬉しそうな顔が、ふっと浮かんだ。そして、何故だか分からないが視界が悪くなり、目から何かが滴り落ちやがった。
おいおい、室内なのに雨ってか? やれやれ、雨漏りがひどすぎるってんだ…
「迷惑なんだよっ…そんなどうしようもねえヤツでも…俺様のすぐ側でこうやって死なれるとよ…! 俺様がそいつの分までその思いを背負って生きなきゃならねえじゃねえか…!」
その雨に気付いたらしい郁乃が、驚いたような声を漏らす。
「…高槻、あんた…」
くそっ、ちくしょう、俺様は一流の悪で、ハードボイルドなんだぞ、一々人が死んだくらいで、どうして泣いてる。そう言えば、俺様が人の為に泣いたのはいつが最後だっただろう…そんなこと、もう覚えちゃいないってのによ…
「おっさん…」
「うるせえ…まだおっさんって言われるくらい年食ってねぇぞ、小僧」
全然説得力の無い声で反論する。ああもう、情けないったらありゃしねぇ…
「俺も小僧、って呼ばれる筋合いはないな。折原浩平だ」
「けっ…高槻だ。一生覚えてろ」
剣呑な自己紹介を交わして、俺様はゆめみに言ってやる。
「おらっ、沢渡の墓作るんなら早くしろ。時間がもったいないんだよ」
言われたゆめみは、少しの間俺様を見た後大きくお辞儀をして「ありがとうございます…」と言ってくれた。あーあ、感謝されるなんてガラじゃねえのに…
「ぴこー…」
ふと足元を見ると、気のせいか毛がツヤツヤになっているようにも見えるポテトがくいくいとズボンを引っ張っていた。
「何だよ、今こっちはシリアスなんだよ。漫才なら後に…あ、立田? …ああそうか、気ぃ失ったまんまなんだったな…おい折原、立田背負って行ってやれ」
そう言うと折原は「偉そうに言うなよ」と言いながらも立田の側まで行き、背中に抱えてくれた。


その時。
「ぴこっ!?」
いきなり鳴き声をあげるポテト。何かを感じ取ったらしく、境内の方を見据えている。
「何…? もしかして、また敵なの!?」
郁乃の言葉を聞いて、俺様達に戦慄が走る。ハッキリ言って、全員がボロボロなこの状態ではまともに戦えるもんじゃねえ。ちっ、こうなったらポテトに頑張ってもらうか…
などと思っていたところ、果たして現れたのは!
「ぷひ〜〜〜〜〜っ!!!」
一直線にこっちに突っ込んでくるのはウリ坊らしき物体だった。そして、そいつは俺様の顔面目掛けて…って、オイ! ちょ、タンm
     *     *     *
「…本当にごめんなさい。銃声がしたもんだからつい」
俺様がウリ坊のストレートを受け、寺の床にぶっ倒れてから数分。目の前にいる髪の長い女がぺこぺことウリ坊共々謝罪していた。
まったく、沢渡の死体に傷がつかなかっただけでもマシってもんだ。流石俺様。自らの身を犠牲にしてでも仲間の名誉は守る。漢にしかできない荒業だな。
「それにしても…いきなりこの子が飛んできたときには何かと思ったわよ」
「あははは…ま、まあ、殺し合いを止めるには手段を選んでいられないと思って。…でも、遅かったのね…」
そうだ、来るならもう少し早く来やがれ、と悪態を付きそうになるが、それはこの場にいる全員が同じ気分だし、この女に罪はねぇ。…なんか、俺様にも思慮分別がついてきたような気がする。
「…ホントにごめんね。あなた達、この子の埋葬をしてあげようとしてたんでしょ? 邪魔しちゃって…」
「いいえ、いいんです。また殺し合いにならずに済みましたから…」
ゆめみの言葉に、全員が頷く。まったく、戦闘にならなかっただけでも幸いだな。
「…ね、おわび…とは言えないけど、私もこの子の埋葬、手伝ってあげてもいい?」
「ああ、それは別に構わないぞ。人手は多い方がいいし、こいつ…沢渡だって喜ぶだろうからな」
折原の言葉にありがとう、と頷く女。
「そう言えば…まだ名乗ってなかったわね。私は杏、藤林杏よ。杏でいいわ。で、この子はボタン。私の相棒よ」


ぷひ、と鳴き声を出すボタン。…また動物か。それにしても、ポテトといい、ボタンといい、やけに食い物の名前が多いような…
「何か考えてる? そこの人?」
「い、いや…別に考えてねぇよ」
何て鋭い女だ。うーむ、こいつはファンにすべきか…
その後は杏に各々自己紹介をして、銃弾を装填し直したり荷物を纏めた後、全員で沢渡の墓を作る事にした。
杏と言う人手が加わったので、俺様の力もあり、短時間で墓を作ることができた。墓標に、森で集めてきた木の枝を十字に束ねて、十字架代わりにしてやる。
沢渡を入れて土をかぶせた後、真っ先にゆめみがその前に跪く。
「どうか…宮内さんと同じ天国へ」
郁乃も手を合わせ「それじゃ…また」と呟き、折原も「ほとんど話も出来なかったけど…じゃあな」と別れの言葉を告げる。
沢渡を直接には知らない杏は黙って祈りを捧げていた。俺様? 俺様は…一言だけ言ってやったさ、「あばよ」と。




小牧郁乃
 【所持品:支給品(写真集×2)、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子】
 【状態:真琴に別れを告げる】
立田七海
 【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
 【状態:腹部殴打悶絶中、今は浩平の背中に】
ほしのゆめみ
 【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
 【状態:左腕が動かない。真琴に別れを告げる】
折原浩平
 【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、H&K PSG−1(残り3発。6倍スコープ付き)、日本酒(残り3分の2))】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手に怪我。真琴に別れを告げる】


漢・高槻
 【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)】
 【状況:真琴に別れを告げる】
 藤林杏
 【所持品:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【状態:真琴の死を弔う】
 ボタン
 【状態:ポテトと出会う】

【時間:2日目05:40】
【場所:無学寺】
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