集いし者たち




平瀬村にやって来た住井護たちは早速、仲間やゲーム脱出に役立ちそうな情報を求めて活動を開始した。
「本当は迅速に事を済ませるために2組ぐらいに別れて行動したいけど……」
「さすがに今の俺たちの武器じゃ少人数で行動しても安全とは言えないよなあ……」
「はちみつくまさん」
「う〜…すいません。あたしが刀を奪われなければこんなことにはならなかったっス……」
「よっち、気にすることじゃない」
「そうそう。命があるだけでも喜ばなきゃ」
「だな。さて、まずはどの辺りから調べてみようか?」
地図を片手に護が3人に尋ねた。
「……ここがいいと思う」
そう言って舞が地図に載っている平瀬村のとある場所を指差した。
「………倉庫?」
舞が指差したのは村の中心から少しずれたところに位置する倉庫であった。
「ここなら近いし、武器までとはいかないけど役に立ちそうなものが見つかるかもしれない」
「なるほど。それもそうね」
「じゃあ、まずはここだな」
「そうと決まれば、いつまでもこんな所でつっ立っている場合じゃないっしょ!」
「ああ。行こうか」
早速4人は倉庫の方へと歩いていった。



「るーこ。そっちはもう荷物はまとめたかい?」
春原陽平は自身の荷物を手に取り立ち上がるとノートパソコンでロワちゃんねるを見ていたるーこに尋ねた。
「ああ。こちらは既に済ませてある。 ………しかしうーへい、それも本当に持っていくのか?」
「いや……この島ではこういう物も万一の時には役に立つかもしれないじゃん?」
るーこが指差す彼の手元には先ほどまで誰も手付かずな状態であった鋏とアヒル隊長と木彫りのヒトデがあった。
ちなみに、その他にも彼は雛山理緒のものだったデイパックと佳乃のものであったデイパックからFN Five-SeveNのマガジンを2セット見つけて拝借していた。
「別に置いていけとは言わないが、そのがーの扱いには充分気をつけろ。今日の正午に爆発するようだからな」
「判っているよ。僕だってそこまでドジは踏まないさ」
そう言ってニカッと笑うと春原もパソコンの画面に映っているロワちゃんねるを見た。

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 自分の安否を報告するスレッド

4:岡崎朋也:二日目 03:05:23 ID:pdh2rLcYc
皆さん、この書き込みをよく読んでください。
このままでは俺達には未来がありません。
こんな馬鹿なゲームに乗った人は少ないと思いますが、島から脱出出来なければいずれ皆命を落としてしまうでしょう。
何とかして島を脱出しようにも、俺の力だけではどうにも出来ません。



そこで俺はこの島を脱出しようと考えている人達を集めたいと思っています。
協力してくれる方々は今日の14時に鎌石村役場に来てください。
疑われる方もいるでしょうが、その懐疑心こそが主催者の狙いです。
こんな絶望的な状況ですが、皆で力を合わせればきっと何とかなると信じています。
俺の知り合いだけでなく知らない方でも脱出に協力してくださるなら大歓迎です。
俺は今から仲間を迎えに行ってくるのでこの掲示板はもうチェック出来ませんが、必ず14時に鎌石村役場に行きます。
皆さん、俺と一緒にこの島を脱出しましょう!

>>3
上の通りですので、仲間の方も連れて14時に鎌石村に来てください

5:レインボー:二日目 06:53:41 ID:JRstJ5Ip
馬鹿野郎!
誰がこの掲示板を見てるか分からないんだぞ……。
言ってる事は分からなくもねえが、状況を考えろ!
こんな無茶はすぐに止めて、自分の身を守る事に集中しやがれ!

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「うーへい。この書き込み、どう思う?」
るーこは画面に映る岡崎朋也の名の書き込みを指差し陽平に尋ねた。
「……少なくとも書き込まれた時間からして岡崎がこれに書き込んだという可能性はまずないだろうね」
「ああ。この書き込みがあった時間は丁度るーとうーともたちが出会って話をしていた最中だ。したがってこれはうーともの名を語る偽者の書き込みということになる」
「下のレインボーってのは間違いなく秋生さんだな。 ……恐らく殺し合いに乗った何者かが岡崎の名を語って参加者を集めて集まったところで一網打尽にしようって魂胆かな?」
「しかし、これはまずいな。もしうーともの知り合いがこの書き込みを見てしまったら……」
「ああ。ほぼ間違いなく釣られちゃうだろうね………」
陽平はそう言うともう一度偽朋也の書き込みを1行ずつ読んでいった。
「それにしても……見事なまでの偽りっぷりだなあ……」
「そうか?」
「うん。岡崎の奴は普段は敬語とかまったく使うような奴じゃないけど、こういう大衆の前とかではちゃんと敬語使ったりするんだよ」
さすがにこういう掲示板ではそんなことするわけないけどさ、と言って陽平ははっと笑う。
「………何が言いたいんだうーへい?」
「いや……まさかとは思うけど………これを書き込んだのは僕や岡崎もよく知っている奴かも知れない………」
「なんだと……!?」
陽平が口にした言葉にるーこはぴくりと反応した。

「ここまで岡崎になりきれるんだ。おそらくこれを書き込んだ奴は岡崎がどういう思考をした人間なのかをある程度理解している。
それに先ほどの岡崎を見たとおり、あいつは自身が島で出会った参加者とは全員一緒に行動しているっぽかった。島で岡崎と出会った奴によるものとは考えにくい」
「なるほど……うーへいは凄いな」
「………どうする? 一応この岡崎の名の書き込みは偽者だと注意を促しておこうか?」
「いや…止めたほうがいい。かえってそれは逆効果になるかもしれない……」
「そうか…わかった……」
そう言って陽平はロワちゃんねるを閉じるとパソコンの電源を切った。
(でもいったい誰があの書き込みをしたんだ? 風子ちゃんは岡崎と一緒にいたし、渚ちゃんは多分秋生さんといるはずだからシロだ。というかこんなことするはずがない。そして智代とも考えられない……じゃあ残るは………まあ別にいいか今は。いずれ判るはずだ)

「よし。じゃあ行こうか、るーこ」
るーこが自分のデイパックにノートパソコンをしまうのを確認すると陽平は玄関の戸に手をかけた。
「ああ。死んでしまったうーへいの妹たちの分までるーたちは生きなければならないからな」
「―――ああ…!」
陽平は頷くと玄関を開けた。外の天気は眩しいくらい晴れていた。


―――1時間ほど前に流れた2回目の放送で2人は仲間であった者の1人深山雪見、そして陽平の妹――春原芽衣の死を知った。
陽平が時点において最も恐れていた妹の死が現実のものとなってしまったのだ。それを知った瞬間、陽平は激しい喪失感と悲しみに襲われた。
「芽衣が死んだ……はは……そんなことがあってたまるか!」
陽平は近くの壁を思いっきり殴りつけた。
「芽衣はこんなところで死んでいいような子じゃなかった………! それなのに……それなのに………!」
「うーへい………」
るーこは当初、そんな陽平を黙って見つめることしか出来なかった。
しかし、しばらくすると「悲しいときは泣いていい」と言って陽平の背中を抱いて彼を気遣った。
――が、彼はその言葉を拒んだ。
「泣くことはいつでもできる……だから…泣くのは全てが終わってからでいい………」
その時陽平が言ったその言葉は、間違いなくこのゲームの主催者に対する宣戦布告であった。

陽平はるーこの方に振り返り互いの目を合わせた。陽平の瞳には涙ではなく決意が滲み出ていた。
「るーこ……僕に力を貸して欲しい……皆でこのクソゲームから脱出して、そして主催者たちを倒すために………」
「―――言われなくても、るーはそのつもりだ」
そう言ってるーこは陽平の顔をそっと自身の胸に抱き寄せた。
「ありがとう………」
顔は自身の胸にうずめていたためるーこにはその時の陽平の表情は判らなかったが、身体が微かに震えていたのは判った。
るーこはそんな陽平の頭をしばらくの間ただ黙って撫で続けた。



「―――さて……まずはどうしようか?」
青空の下う〜んと一度伸びをすると陽平はるーこに尋ねた。
「決まっているだろう。まずは主催者やマーダーに対抗するために仲間を集める。さすがに2人だけではこの先は辛いからな」
「でも夜の一件でこの村からは人はもういなくなっちゃったかもしれないな」
「いや……そうでもないみたいだぞ………?」
「えっ?」




「そろそろ倉庫に着くはずだけど……」
「護…みんな…少し止まる」
「えっ?」
地図を見ながら進む護たちを突然舞が制止した。
「どうしたんスか舞先輩?」
「――近くに誰かいる…」
「何だって!?」
舞が日本刀をいつでも抜刀できるように構えると、護たちも自分たちの武器を持ち4人で背中合わせな状態になり警戒する。(ちなみに現在武器の無いチエは自身のデイパックを盾代わりにした)

「だ、誰よ!? いるなら出てきなさい……!」
志保が少し震えた声で辺りに叫ぶ。
すると近くの民家の物陰から……
「るー!!」
おかしな言葉を発しながら空に向かって両手を掲げる長髪の少女が現れた。

「あ…また長岡さんと同じ制服の人だ」
「参加者には長岡先輩や河野先輩と同じ学校の人多いんスかね?」
「……志保、知り合い?」
「あ、あたし知らないわよこんな子!」
「るー。るーたちの存在をいち早く感知するとはうーたちは只者ではないな」
「なあ、るーこ。その挨拶この島ではしばらく止めたほうが良くないかな? 下手したら相手を驚かせてこっちが殺されかねない…」
そう言いながら少女――るーこが隠れていた同じ物陰から春原陽平が姿を見せた。

「誰だあんたら?」
「あー…僕らは仲間を探しているんだ」
「仲間?」
「その通りだ。この殺し合いというゲームから脱出し主催者を倒すための仲間をるーたちは求めている」
「主催者を倒す? そんなこと可能なの!?」
「残念だが今は無理だ。だが1人でも多くの仲間を集めればきっと道は開けるとるーたちは信じている」
「…………信用していいの?」
「信用してくれるなら僕らも喜んで出来る限りだけど君たちに協力する。信用しないというなら僕らは黙ってここを去るよ」
「…………」
「……あたしはこの2人は信じられると思うわ」
しばらく黙っていた4人であったが、まず最初に志保がその沈黙を破った。

それに続いて護たちも口を開く。
「………そうだな。それに俺たちも丁度仲間が欲しいと思っていたところだし」
「そうっスね。それに、あたしたちの持っている武器だけじゃ正直心細かったですし……舞先輩は?」
「………皆がそう言うなら異論は無い」
「じゃあ決まりっしょ」
「そうか、ありがとう。じゃあ早速自己紹介といこうか。僕は春原陽平。こっちはるーこ・きれいなそらだ」
「る。よろしく頼むぞ」
「俺は住井護。住井とでも護とでも言いやすいほうで呼んでくれて構わないぜ」
「吉岡チエっス。よっちと呼んでくれたら嬉しいっス」
「長岡志保よ。情報を集めることがあったらあたしにお任せ!」
「………川澄舞。舞で構わない」
陽平たち6人はそれぞれ手っ取り早く自己紹介を終わらせると続いて情報交換に移った。

「じゃあ春原さんたちはヒロに会ったのね?」
「ああ。今はどこにいるのか判らない状態だけど、多分みさきちゃんと一緒に頑張っていると思う」
「川名みさきって確か俺の学校の先輩だな。俺は会ったことはないけど、確か目が見えないっていう…」
「しかし、うーの行方は未だに判らず仕舞いか…」
「でも驚いたっス。るーこ先輩も河野先輩を探していたなんて……」
「よっち……頑張れ」
舞がぽんとチエの肩を叩いた。

「ふぇっ!? な…なんのことっスか!?」
「………よっち、顔が赤い」
「殺人を強要された島で生まれる恋の三角関係! これは志保ちゃん情報至上最大のスキャンダルね!」
「な、長岡先輩まで何言ってるんスかー!!」
チエは思わず両方の手をぶんぶんと振った。
「安心しろ、うーっち。るーはうーっちからうーを取るつもりはないぞ」
「なーんだ。つまんないの。折角のビックスキャンダルだと思ったのに……」
「あの〜、るーこ先輩? できればその『うーっち』って呼び方は止めてもらえないっスか? なんか…その……う●ちみたいに聞こえるんで……」
できれば普通によっちでお願いします、と言って頭を下げるチエ。
ちなみに護は『うーまも』。志保は『うーしほ』。舞は『うーまい』である。(ちなみに、さすがに舞は普通に呼ぶべきじゃないかと陽平たちはるーこに意見したが舞本人が「嫌いじゃない」ということなので採用された)
「あー……僕も普通に呼んだほうがいいと思う」
「そうか? ならば仕方ない。努力しよう」
「どうもっス」

「―――なあ春原さん……」
ふいに護が陽平に声をかけた。
「ん? なんだい?」
「あの……本当は聞いていいかわかんないんですけど……」
「………芽衣の……妹のことかい?」
「………はい…」
やっぱり親族だったんですね…、と護が言うと同時に6人の周りはしんと静まり返った。

「…………芽衣は僕なんかとは違って優しくてしっかりしたやつだった……殺し合いに乗るような子でも、殺し合いを強制されるような子でも、殺されるような子でもなかった……」
「……………」
「放送で芽衣の死を知ったときは凄く辛かった。悲しかった。殺した奴が憎かった……だけど、いつまでもそんなことに囚われていちゃ駄目なんだとるーこが僕に教えてくれた………」
「うーへい……」
「僕たちは芽衣や死んでいった人たちの分まで生きなければならない。そのためにも生きてこの島から…このクソゲームから脱出する。そして………」
陽平は右手を上げると次の瞬間それをぐっと握った。
「このクソゲームの主催者たちに強力なカウンターパンチを食らわせてやるんだ………!」

「………陽平の言うとおりだ」
「舞先輩?」
陽平に続いて今度は舞が口を開いた。
「みんなで力を合わせれば、きっとこの島から脱出できるはず……」
「川澄さん……」
「そしてみんなで主催者に見せ付けてやればいい………」
「……何を?」
「……………正義は必ず勝つということを」
そう言って舞はふっと笑った―――ように見えた。

先ほどの陽平も、今の舞もどこかで見たり聞いたことがあるセリフとシチュエーションだなと他の者たちは思ったが、あえて突っ込まない。(というより陽平も舞も狙って言っていたわけではないことが様子を見て明らかだからである)
むしろこの2人のおかげでその場にいた全員の結束は固まった。

「……そうだな!」
春原がそう言ってうんと頷く。
「ええ。やってやりましょう!」
「るーたちが正義か…確かにその通りだな」
「そおっスよね! みんなで頑張るっしょ!」
「よっしゃ! じゃあ、気を取り直して行きますか!?」
「はちみつくまさん」
護たちは立ち上がると自分たちの荷物を手に取った。
「ん? どこか行くのかい?」
陽平たちも立ち上がり荷物を手に取ると護たちに尋ねた。
「ああ。俺たちはこれからすぐそこの倉庫に行こうとしていたところだったんだ」
「倉庫?」
「何か役に立つものが見つかるかもしれないだろう?」
「なるほど。ならば善は急げだ。すぐに行こう」

こうして護たち4人に陽平とるーこを加えたメンバー6人はみんなで必ず最後まで生き残るという決意を胸に再び歩き出した。



【時間:2日目午前7時30分頃】
【場所:F−2】

 春原陽平
 【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
 【所持品2:鋏・アヒル隊長(4時間30分後爆発)・木彫りのヒトデ・他支給品一式】
 【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)。まずは使えそうな物を探しに倉庫へ】

 ルーシー・マリア・ミソラ
 【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
 【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
 【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)。まずは使えそうな物を探しに倉庫へ】

 吉岡チエ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。貴明ほか知人・同志を探す】

 住井護
 【所持品:投げナイフ(残り:2本)・支給品一式】
 【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。浩平ほか知人・同志を探す】

 長岡志保
 【所持品:投げナイフ(残り:2本)・新聞紙・支給品一式)】
 【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。浩之・あかりほか知人・同志を探す】

 川澄舞
 【所持品:日本刀・支給品一式】
 【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。祐一・佐祐理ほか知人・同志を探す】

【備考】
・アヒル隊長が正午に爆発することは陽平、るーこ以外のメンバーも確認済み
・以下の物はるーこたちがいた民家内に放置されている
・デイパック×4(澪、繭、佳乃、晴子のもの)
(いずれも中身は支給品一式。なお陽平が持っていったのは理緒のもの)
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