「ふう、ようやく着いたな……」 北川達は平瀬村の一角にある民家の前に来ていた。 参加者の情報を手に入れる事には成功したもののあまりにも荷物が多すぎる……。 万年荷物持ちの北川としては、荷物整理の必要があった。 だが工場跡に置いていっては誰かに盗まれる可能性が高いと考え、手頃な民家を探していたのだ。 「ご苦労様、家政夫さん♪」 「……せめてホテルボーイと呼んでくれ。そっちの方がなんか格好良さそうだ」 「あんた礼儀作法とか苦手そうだから駄目」 「う……」 北川は礼儀作法など殆ど学んだ事が無い。 それなりに良い店で食事した際にはナプキンで堂々と鼻を噛んだ実績すら持っている。 当然、真希に対して言い返す言葉は無かった。 「そうだ美凪、お前が何か良いあだ名を考えてくれ!」 北川は縋るような眼で美凪に助けを求めた。 その様はまさに必死と呼ぶに相応しい。 美凪は頬に手を当て少し思案した後その助けに応えた。 「…………奴隷さん?」 「……俺が悪かったです、これからもお嬢様方の家政夫という事でお願いします」 「宜しい」 真希は腰に手を当て満足げに笑うと民家の扉を開けようとした。 だが扉を開ける前にその肩を北川が掴んでいた。 真希が疑問を口にするより早く北川はショットガンを構え、扉を開けて民家の中へと侵入していった。 慌てて真希と美凪はその後を追う。 「ちょっと潤、どうしたのよ?誰かいるような気配でもしたの?」 「いや、そんな事は無いけどな。それでも警戒するに越した事はないだろ? これでも一応男だからな、こういう役目は任せてくれ」 北川は特に恩を着せる風も無く、微笑みながら自然に言った。 その時真希はドクン、と心臓が高鳴るのを感じた。 (え?ちょ……ちょっと、今の何よ!?) 生まれて初めて感じるその感覚に、真希は戸惑いを隠せなかった。 「……広瀬さん、どうかしましたか?」 「あ、あはははは、何でも無いのよ何でも、うん」 「…………なるほど」 異変に気付いた美凪に声を掛けられ慌てて誤魔化す。 美凪は何かに勘付いた様子だったが、それ以上何かを尋ねる事はしなかった。 「よーし、一休みだっ」 広間に荷物を下ろした北川は疲れを癒すべくどすんとソファーに座り込んだ。 彼は平均的高校生、決して体力が優れている訳ではないのだ。 3人分の荷物を運び続けた疲労は軽くない。 北川に続いて広間に入ろうとした真希だったが、後ろから美凪に袖の端を摘まれ廊下の方へと引っ張られていった。 「ちょっと、美凪。どうしたの?」 「…………」 遠野は頬に手を当てたまま、黙って真希の顔を凝視している。 「黙ってちゃ分からないわよ。何?」 「北川さんの肩を揉んであげましょう」 「別に良いけど……何で?」 「……そうすればポイントアップ」 美凪はそれだけ言うとぽ、と頬を赤く染めた。 それで真希も美凪の意図に気付き、美凪の何倍もの勢いで顔が赤くなっていった。 「いや、ちょ!?なんで私が潤の機嫌取りをしないといけない訳!? アイツはお調子者で馬鹿で……そりゃ確かに頼りになる時もあるけど……。 だけど私はアイツの事なんて、何とも思ってないのよっ!」 「……あまり大きな声を出すと北川さんに聞こえてしまいますよ」 パンパンパン!とハリセンでツッコミを連打しながら一気に捲くし立てた真希だったが、冷静な指摘を受け慌てて両手で己の口を塞いだ。 そんな真希に対して美凪は軽く溜息を吐いた。 「それでは感謝の気持ちを表して、という事でどうですか?」 「そ、そうね……。荷物を運んでもらったし、そういう事なら構わないわよ……。 でもでも、ポイントアップなんて狙ってないわよっ!」 また喚き散らした後、真希は北川の居る広間へと戻っていった。 美凪も微笑みと生暖かい視線を真希の後ろ姿へと送りながら後をついていく。 「なあ真希、なんか騒がしかったけどなんかあったのか?」 「い、いや……別に何も無いわよ。ちょっと今の日本の政治情勢についての議論が白熱してただけよ」 「随分と堅苦しい事で熱くなってたんだな……」 北川の疑問を、手を振りながら何とか誤魔化す真希。 「そんな事より疲れてるでしょ?家政夫さんへのお給料代わりに肩を揉んであげるわよ」 「お、悪いな。頼むよ」 人の肩など碌に揉んだ事が無かった真希は手探り状態で、しかし優しく丁寧に北川の肩を揉み始めた。 途端に恍惚の表情を浮かべる北川。 「真希、上手いな……」 「そ、そう?なら良かったわ」 真希は北川の一言で自信を付け、そのまま肩を揉み続けた。 (この結構硬い感じは……凝ってるって言うのかしら。そういえばコイツってば何だかんだ言っても苦労してきてたわね……) 北川潤はいわゆるお人好しというヤツであった。 真希と美凪達の荷物はもっぱら彼が運んでいた。 女性の悲鳴を聞けば己の身の危険を顧みることなくすぐに助けに向かっていた。 そして―――真希が皐月に銃をつきけられた時、北川は身を挺して彼女を守ろうとしていた。 普段はふざけている事が多いが、いざという時の彼は常に紳士だった。 「真希、ありがとう。もう大丈夫だよ、そろそろ荷物の整理を始めよう。 色々考えたけどやっぱり俺達だけじゃこの情報は活かし切れない。準備して人探しに出発しようぜ」 「え?」 気付くと北川は振り向いており、その顔は真希の眼前にあった。 赤面しながら慌てて真希は後ろへと飛び退いた。 「あ、そ……そうね。そうしましょうか」 「?」 北川は首を捻ったが特に何かに気付いた様子は無い。 そのまま彼は立ち上がると、美凪にも出発の準備を促した。 美凪はすぐにてきぱきと準備を始めた。 遅れて真希も少々たどたどしい手つきでそれを手伝う。 「ようし、これで荷物の整理は出来たな……。それじゃ行こうか」 「ええ、そうしましょ」 必要最低限な物以外は民家に残して、彼らは歩き始めた。 これは北川は―――そして真希自身も気付いていない事だったが、横に並んで歩く時の北川と真希の間隔が僅かに縮まっていた。 【場所:G−2】 【時間:2日目09:10頃】 北川潤 【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン8/8発+予備弾薬16発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品一式】 【持ち物A:ノートパソコン、お米券】 【状況:首輪が外せる技術者及びCDの中身が理解できるパソコンの詳しい人を求めて平瀬村を探索】 広瀬真希 【持ち物:ハリセン、ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、携帯電話、お米券】 【状況:同上】 遠野美凪 【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、お米券数十枚、色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用)】 【状況:同上】 【備考】 おにぎり1食分×3、ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)、ワイン&キャビア、 同人誌の数々、スコップ×2、 色々なドリンク剤×6はG-2民家の中 - BACK