七瀬留美はあれから自転車を全力疾走させながら平瀬村を目指していた。 「えっと……神塚山を迂回してきたから今いるところは……D−4かE−4あたりかしら?」 左手に持っていた地図をちらりと見てだいたいの場所を確認すると、再び前を向きスピードを上げる。 (さっきの放送――もしかしたら藤井さんは殺し合いに乗ってしまったかもしれない………) ここまで来る途中耳にした2回目の放送。 浩平たちが無事だったことにはほっとしたが、死者発表の後に流れた優勝者に与えられるという褒美のことを耳にした瞬間、留美は自身の顔色が青ざめていくのを感じた。 『優勝者はどんな願いもひとつだけ叶えられる』――そのようなことが本当にできるのか!? 罠という可能性も充分ある。だが、冬弥のように大切な人を失ってしまった者たちにとって(真偽はともかく)これほどおいしい話があるだろうか? 実際あのウサギは言っていたではないか『大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだ』と……… (嫌だよ……あんな優しかった藤井さんが見ず知らずの人を次々と殺していくなんて………見たくないよ……考えたくないよ………) 自身を1人の女の子として見てくれたあの冬弥が一瞬のうちに血に汚れた殺戮者に代わる姿など留美は想像したくなかった。 (とにかく、急いで藤井さんを探さないと―――!) 気を取り直して留美は道無き道を自転車で走っていく。 その時…… パン! 「えっ!?」 突然銃声が聞こえた。それもすぐ近くからだ。 (また敵!?) 思わずブレーキをかけ、腰にねじ込んでいたデザート・イーグルを抜く。 「止まりなさい、そこの自転車!」 どこか聞き覚えのある声が近くの茂みのほうから聞こえてきた。 「抵抗しなければ命までは取ろうとしないわ。その荷物を置いていきなさい!」 その言葉と共に現れたのは銃を持った長髪で制服姿の少女であった。 ――その姿を確認した途端思わず留美の口が開いた。 「…………柚木さん?」 「へ……? あ。確か茜と同じクラスで折原くんの友達の七瀬さん……だっけ?」 そう。留美の前に姿を見せた少女は114番・柚木詩子その人だった。 「美佐枝さん! 美佐江さん!」 「う……ん?」 誰かが呼ぶ声が聞こえたので相良美佐江はゆっくりと目を開いた。 目を開くとそこには自身を心配そうに見つめる小牧愛佳の姿があった。 「美佐江さん! ああ…よかった……ぜんぜん目を覚まさないから私心配で心配で……」 「うわっ!? ちょ…ちょっと。そんな…大げさよ愛佳ちゃん」 いきなり飛びついてきた愛佳に少し戸惑う美佐枝。 するとあることに気がついた。 「――あれ? 詩子ちゃんは?」 「あ…はい。柚木さんなら今周辺の見回りを……」 「小牧さーん、今戻ったよー。あっ。美佐江さん目を覚ましたんだね?」 愛佳が説明し終わる前に当の詩子が戻ってきた。 ――後ろに自転車を転がす大荷物の少女を連れて。 「詩子ちゃん――ええ。ちょうど今ね。 ―――ところで、そっちの子は」 「ああ。この子は私の知り合いの……」 「七瀬留美です。相良美佐枝さんと小牧愛佳さんですね? 柚木さんからお話は聞いています」 留美は美佐江たちにぺこりと頭を下げた。 「ああ、こりゃご親切にどうも」 「は…はじめまして」 美佐枝と愛佳もつられて頭を下げてお辞儀をした。 「――さて。じゃあ美佐江さんも起きたことだし、説明しなきゃね」 「説明?」 「千鶴さんの……先ほど柚木さんたちを襲った人のことです………」 詩子と愛佳は自分たちが知っている千鶴に関する情報を全て美佐江に説明した。 一緒にいた留美も愛佳たちの話に耳を傾けた。 「――なるほどね……しかし何でゲームに乗っているはずのその人が愛佳ちゃんや私たちを殺さなかったんだろうね?」 「そうですね……殺せるならいつでも殺せたはずです」 「―――その人、迷っているんじゃないかな?」 「え?」 留美の口から出た言葉に3人が反応する。 「迷ってる?」 「うん。きっとその人……本当は凄く優しい人なんだよ。だから……上手くいけばその千鶴って人……説得できるかもしれない」 「なるほどね……だけどあの女は武器を持ってる。この先出会えてもそう簡単にこちらの話を聞いてくれるか判らないよ?」 「そうよね……出会いがしらにいきなり殺される可能性もあるしね………」 「―――だったら、これ……使ってください」 「へっ?」 留美は自身のデイパックを1つ美佐枝に手渡した。 美佐江がデイパックの中を開けて見てみると、そこにはドラグノフと銃剣が付いた89式小銃とその予備弾が入っていた。 「留美ちゃんこれは……」 「ここに来る途中に手に入れたものです。もちろんを人殺して奪ったものじゃありませんよ」 それぐらい装備があればそう簡単にやられることはないと思います、と留美は付け加えた。 「―――まあ私たちもちょうど武器をなくしたところだったからこれはありがたくいただいておくけど……本当にいいのかい?」 「はい。私は殺し合いには乗っていませんから、たとえどんな理由があっても人は殺せませんので……」 「そうか……わかった。ありがとうね留美ちゃん」 「いえ………」 「―――じゃあ、留美ちゃん。私と愛佳ちゃんは鎌石村に戻るから詩子ちゃんをよろしくね」 そう言って美佐枝は自身の荷物を手にするとすっと立ち上がり歩き始めた。 ――その後、荷物を整理した美佐枝たちは2人ずつに別れて行動することになった。 話し合いの結果、美佐枝と愛佳が鎌石村に戻り、留美と詩子は平瀬村に向かうことになった。 「七瀬さん。柚木さん……もし千鶴さんと出会ったら……その……よろしくお願いします」 「うん。あ…そうだ……あの……美佐江さん、小牧さん」 「なんだい?」 「私からもお願いがあるんですけど……藤井冬弥って人に会えたら私が探していたと伝えてほしいんです………」 「………何かワケありみたいだね。わかった。伝えておくよ」 もし無事に会えて話が聞ける状態だったらね、と付け加えて美佐枝は笑って答えた。 「ありがとうございます」 「そんじゃ。そっちも気をつけてね」 「はい!」 「ありがとうございました」 「七瀬さん、柚木さん必ずまた会いましょうね」 留美と詩子に手を振りながら愛佳は先を行く美佐江の後を追って歩き始めた。 「美佐江さん」 「ん? なんだい愛佳ちゃん」 「私……まだ言ってませんでした………ごめんなさい!」 愛佳は命一杯美佐江に頭を下げた。 「―――とっくのとうに許しているよ。ほら行くよ」 「はっ、はい!」 こうして美佐枝と愛佳は気を取り直し鎌石村へと歩いて行った。 「行っちゃったね……」 「うん……それじゃあ私たちも行こうか。七瀬さん、早く乗って」 自転車に乗った詩子が留美に声をかける。ここから先、平瀬村までは彼女が自転車をこぐことになったためだ。 「OK」 留美が後輪のステップに足を乗せ、自身の両肩に手を乗せたのを確認すると詩子は勢い良くペダルをこいだ。 「よし…茜たちを探しに行きますか!」 「ええ」 【時間:2日目7:40】 相楽美佐枝 【場所:D−4・5境界】 【持ち物1:食料いくつか、他支給品一式】 【所持品2:ドラグノフ(7/10)、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】 【状態:愛佳と鎌石村に戻る。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】 小牧愛佳 【場所:D−4・5境界】 【持ち物:火炎放射器、他支給品一式】 【状態:美佐枝と鎌石村に戻る。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】 柚木詩子 【場所:D−4・E−4境界】 【持ち物:折りたたみ式自転車、ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】 【状態:自転車に乗っている。留美と平瀬村へ。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】 七瀬留美 【場所:D−4・E−4境界】 【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】 【所持品2:支給品一式(3人分)】 【状態:自転車に乗っている。詩子と平瀬村へ。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】 【備考】 ・美佐枝、詩子、愛佳の3人は留美から折原浩平と共に行動していたことを聞いている ・美佐枝、詩子、留美の3人は愛佳から芹香を殺した男(岸田洋一)の身体的特徴などを聞いている - BACK