「何故君達は争っているのかね?」 戦いの場に突然現れた第三者。 霧島聖はこの場でただ一人銃を持っていないにも関わらず、臆する事も無く語りかけた。 貴明と冬弥は若干面食らいながらも各々の見解を述べるべく口を開いた。 「そこの男が女の子を殺そうと追っていた。だから俺は攻撃を仕掛けた。悪いか?」 まるで悪びれた様子も無く、平然と冬弥は言い放った。 謂れの無い罪を被せられた貴明は当然黙ってはいられない。 「違うっ!確かに俺は女の子を追っかけていたけど、殺そうとなんてしていない!」 「見苦しい言い訳を………あの女の子の恐怖で歪んだ表情を俺は見たんだ!」 「それは………」 「もう良い、これ以上話してても時間の無駄だ!」 冬弥はそう言うと再び感情の赴くままに攻撃を仕掛けようとP90を構え直した。 「く……」 貴明もそのまま蜂の巣になる気は無いので、応戦するべくレミントンを冬弥へと向ける。 一触即発の状態だったが、またも聖の叫びが両者の動きを止めた。 「待ちたまえ!まだ話の途中だ………せめて最後まで話を聞いてからでも遅くはないだろう?」 冬弥は銃を構えたまま少し考え込んだ末、結局聖の言う事に従い銃口を下ろした。 勿論何時でも回避動作を取れるような態勢をとったままだったが。 貴明もそれに習い、ともかく二人の戦闘再開はほんの少しだけお預けを食らう事となった。 「と、自己紹介が遅れたな、私は霧島聖……しがない町医者だ。君達の名前は?」 「…………河野貴明です」 「藤井冬弥だ」 「では河野君、事情を聞かせてくれないか?君が何故少女を追っていたかだ。 ちなみにその少女と思われる人物は今は私の仲間が介抱しているから心配は無用だ」 その言葉を聞いて貴明はホッと安堵の息を漏らした後、 気を落ち着けるように深呼吸してから話し出した。 「あの女の子、凄い混乱してるみたいで……俺と仲間達は何もしてないのにいきなり攻撃してきて、そのまま逃げ出したんです。 あれだけ錯乱している状態で放っておいたら危ないと思って、それでとにかく落ち着かせようと思って追い掛けていたんです」 「そうか……河野君の言い分は分かった。追いかけたのは逆効果だ、それでは余計に相手を怯えさせてしまうだけだろう。 だがやり方こそ間違っていたものの、君が嘘を付いているような感じは見受けられない。 信用出来ると思うんだが、藤井君はどう思うかね?」 話を振られた冬弥は少し時間を置いた事が功を奏したのか、さっきまでより随分と落ち着いた様子で口を開いた。 「そうだな……俺も河野君は嘘を言ってないと思う。聖さんの仲間が女の子を保護してるって聞いた時、河野君はホッとしてたからな。 演技が上手いタイプにはとても見えない。俺も信じるよ。ただ………」 「ただ……何だね?」 冬弥は一呼吸置いて再び喋りだした。 とても、暗い声で。 「あんた達、森川由綺って知ってるか?」 「それってアイドルの……?」 「ああ。そして……俺の恋人だった女性だ」 「っ!?」 それきり場を重い沈黙が支配する。 貴明は驚きを隠せないでいた。 森川由綺という名の女性がこのゲームに参加しているのは知っていたが、まさかアイドルの森川由綺だとは思わなかった。 だがそれ以上に森川由綺と恋人だったという冬弥の言葉に動揺していた。 恋人『だった』。その言葉の通り、森川由綺はもうこの世にはいない。 大切な人を殺された人間が何を考えるか。それは余りにも予想が容易いものだ。 沈黙を破ったのは冬弥だった。 「俺は由綺を殺した人間を探しだし……復讐するつもりだ。だから由綺を殺した奴について何か知っていれば、教えてくれ」 「ふむ……止めても無駄そうだな……」 「ああ、黙秘する事も許さない。俺は由綺の仇を討つ為になら何だってするさ」 そこまで聞いて聖はすぐに冬弥の説得を諦めた。淡々とした口調で語っていた冬弥だったが、その奥底にはとても強い感情が感じられた。 それは余りにも深い憎悪。そして聖はそれがどのようなものかを知っている。 医者という己の身、そして同行者のことみの存在が、聖に正気を保たせ的確な判断力を維持させたのだ。 聖とて医者という職に就いている身で無ければ、そしてもし一人で行動していたら佳乃を殺した者への復讐に走っていたかもしれない。 だから聖には、今の冬弥の心にはどんな言葉も届かない事が分かった。 ならば今はこの場を穏便に収めるのが最良の選択だった。 「そうか……。すまないが、森川由綺はこの島に来てから一度も見ていない。アイドルの森川由綺の顔なら知っているし、間違いない。 森川由綺を殺した人物の情報も持っていない」 「分かった。河野君、君はどうだ?」 「………聖さんと同じだよ。悪いけど藤井さんの仇については何も知らない」 「外れか………」 冬弥は小さな溜息を吐いた。 落胆の色が明らかに見て取れたが、彼にとってはこの方が良かったのではないか、と聖は思った。 復讐など馬鹿げている。そんな事をしても憎しみが憎しみを生んで最後には悲しみだけが残るだけだ。 死んだしまった者に報いようと思うなら、その者の分も生き続ける事が大切なのだ。 だが今それを説いても彼は変わらないだろう。 ならばせめて彼が正気に戻るまで、仇に辿り着いて欲しくなかった。 そうすればまだ戻れるかもしれないから。 だが、運命の女神はとことん聖を嫌っているようで。 「な……」 貴明が驚きの声をあげる。 冬弥の銃口が、再び自分に向けられたからだ。 「ならもうお前達には用は無い。死んでもらう」 冬弥は冷たくそう言い放つ。 その一言で聖も貴明も理解した。 この男は狂気に身を任せ、ゲームに乗ったのだと。 今まで自分達を撃たなかったのは自分達をマーダー………つまり森川由綺の仇である可能性が無いと判断したから。 だから冬弥は無差別殺人よりも優先順位の高い目標、森川由綺の仇の情報を得ようとしたに過ぎない。 ―――コインは裏だった。 藤井冬弥はもう、戻れないのかもしれない。 【時間:2日目7:10】 霧島聖 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】 【状態:焦り】 河野貴明 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【所持品:Remington M870(残弾数2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、左足にかすり傷、焦り】 藤井冬弥 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【所持品:FN P90(残弾24/50)、ほか支給品一式】 【状態:マーダー、最終目標は森川由綺の仇の殺害。今は貴明と聖の殺害を目論む】 - BACK