死神の誕生




天沢郁未は診療所を発ってすぐに診療所から少し離れたところで民家を発見した。
「……まずは何か武器になるものを探さないとね」
――玄関の鍵は開いていた。先客か中に人がいるのかと思い、慎重にドアを開く。
「………血の匂い」
玄関を開けた早々血の匂いを感じ取った郁未は、いつでも脱出態勢に入れるよう警戒しながら家の中に侵入した。

入ってすぐに郁未は佐藤雅司の死体と血塗れの男女の制服を発見した。
死体の周辺には雅司の血と脳髄がこれでもかというくらい飛び散っていた。

「随分と派手に殺ったみたいね………あら?」
ふと目を向けると、血塗れの制服の近くに一冊のぼろぼろなノートが置いてあった。
「何かしらこれ……?」
郁未はノートを拾い、早速それを開いてみた。
だが、ノートには何も書かれていなかった。 ――――表紙の裏にあった英文を除いて………

「英文か……面倒ね………なになに……『使い方……これは……死神のノートです。このノートに名前を書かれた人間は……死ぬ』って、え!?」
郁未は一瞬我が目を疑った。だが、何度読み返してもそこにはそう書いてあった。

「ま……まさかね」
そんなおいしい話があるわけないと思い、郁未はノートを捨てようとした。
――しかし、気になって捨てることができなかった。

「………………」
とりあえず英文はまだ全て読み終えていなかったので、郁未は民家の本棚から英和辞典を見つけてノートに書かれていた文を訳してみることにした。




1時間以上かけて郁未はある程度英文を訳すことに成功した。
「はは…自分でもびっくりだわ……生き残れたら翻訳家の仕事でもはじめようかしら?」
郁未が訳せた文によると、ノートの使い方は以下の通りである。

・ノートに名前を書かれた人間は40秒後に心臓麻痺で死ぬ
・書く名前は本名をフルネームで書かなければ効果を発揮しない
・さらに、殺せる対象はノートの持ち主が殺したい相手の素顔を知っている者のみに限られる
・名前の後に死因を書くと書かれた人間はその通りに死ぬ


「もしこれが本当のことならこのノートはこのゲームにおいて凄い強力な武器だわ……………」
自身のノートをもつ手が震えているのが郁未には判った。
(――本当かどうか、早速試してみるとしますか……)
そう決断すると郁未は早速ノートの力を試してみようと民家を後にした。
万一のことも考え、台所から包丁も拝借して………




民家を出て20分ほど歩いたところで郁未は立ち止まり考えた。
(――やっぱり試すなら殺す人間の近くにいた方がいいわよね………?)
それならば、しばらくはこれから先初対面の人間には自身がゲームに乗っていることを隠していたほうがよさそうだ、と郁未は判断した。
そのほうが他の参加者にも近づきやすいし、何よりノートの実験もしやすいからだ。
(そうと決まれば……早速モルモットを探すとしますか………)
郁未がノートの実験台を求めて歩きだそうとしたその時、ふと物音が聞こえた。
―――ガラスの割れる音だ。それもそう遠くはない。
さらに少女の声や誰かが大急ぎで駆けていく足音も聞こえた。


「―――!?」
咄嗟に近くの物陰に1度身を隠す。
―――1分ほど警戒していたところで問題ないと判断し郁未は物陰から姿を現わした。

(早速人を見つけた……!)
そして、一瞬にやりと口元を吊り上げると音が聞こえた方へと一気に駆け出していった。




 天沢郁未
 【時間:2日目・8:50】
 【場所:I−6】
 【所持品:死神のノート、包丁、他支給品一式】
 【状態:隠れマーダー化。音がした方に行く。まずはノートの実験台を探す。右腕・頭部軽傷(治療済み)。最終的な目的は不明(少年を探す?)】
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