「ヘンな所に迷いこんでしまったな……いったいどこだここは? なぜ俺はこんな所にいる?」 巳間良祐は右も左も判らぬ闇の中をただ歩き続けていた。 「確か俺はあの時……そうだ。俺はあの少女を殺そうとして………」 良祐がここに来る以前の記憶を思い出した瞬間、背後から声がした。 「うぐぅ〜! どいてーーーっ!」 「ん? うおっ!?」 振り返った途端、良祐は背後から走ってきた女の子と勢い良く衝突した。 女の子は良祐とぶつかった衝撃で数十センチくらい後ろに転がった。 「あ――大丈夫か? ―――っ!?」 「うぐぅ…酷いよ。どいてって言ったのに〜……」 起き上がった少女――月宮あゆの顔を見て良祐は驚愕した。 (そ、そんな馬鹿な!? こいつは俺が………) 「うぐ? どうしたの?」 驚く良祐の顔をあゆが不思議そうに見つめる。 「ねえ、どうしたの?」 ずいっとあゆが良祐に顔を近づける。 その時、一瞬ではあるが良祐は1発の銃声とともにあゆの顔がボロボロと音を立てて崩れながら血と脳髄を撒き散らしていく幻覚を見た。 それはまぎれもなく良祐があゆを殺した瞬間の様子だった。 「ひっ――――!」 良祐はその幻覚に恐怖してあゆから後ずさった。 「?」 そんなことも知らずあゆは良祐を見ながら首を傾げる。 「や…やめろ……見るな……そんな目で俺を見るな!」 「ふぅ…やっと追いつきました。あゆさん、こんな所にいたんですか?」 「うぐぅ!?」 「!?」 またしても突然現れた少女を見てさらに良祐は驚愕した。 ―――草壁優季。良祐があの島で最初に殺した少女だ。 「草壁さん…………ねえ草壁さん。祐一くんたち知らない? いくら探しても見つからないんだよ」 「きっと祐一さんや貴明さんはまだあの島で頑張ってらっしゃるんですよ………あら? あゆさん、こちらの方は?」 「!?」 優季が良祐を見る。良祐の脳裏に優季が死ぬ瞬間が強烈にフラッシュバックした。 「ん〜? 知らない人だよ。うぐ?」 「う……うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!」 気がつけば良祐は恐怖のあまり2人のもとから逃げ出していた。 「―――いったいなんだったのでしょう?」 「うぐぅ…ボクもわかんない」 「はっ…はっ…」 悪夢だ。これは悪い夢だ。そうに違いない。夢なら早く覚めてくれ――― 良祐はそう願いながら闇を駆けて行く。 するとまたしても人影が良祐の前に姿を現した。 ―――どこか見覚えのある少年だ。 「……」 良祐は少年を見たまま思わず足を止めてしまった。 「? どうかしました? もしかして、僕の顔に何かついてます?」 少年―――氷上シュンは自分を見つめる良祐を不思議に思い、彼に尋ねた。 「あ…いや……なにも……」 「そうですか……あ。そうだ。僕、友達と人を探しているんです。藍原瑞穂という眼鏡をかけた女の子を見かけませんでしたか?」 「いや……すまないが見ていない」 「そうですか……あ。太田さん」 「―――!?」 シュンが顔を向けた方へ目を向けると、そこにはまたしても自身が殺した少女の姿があった。 ―――太田香奈子。良祐が最後に殺した子だ。 「どうだったそっちは?」 「ごめんなさい……あっちには瑞穂はいなかったわ。 ―――あら? 氷上くんこちらの人は誰?」 「ああ。今ここで出会ったばかりなんだけど…そう言えば名前を聞いていなかった……」 「夢だ…これは夢だああああああああああああああああ!」 「あ……」 またしても良祐はその場から逃げ出した。 「―――行っちゃった」 「なんだったのあの人?」 「さぁ――まあいいか。それじゃあ気を取り直して藍原さんを探そうか」 「ええ」 「それに草壁さんたちにも会いたいな。きっと彼女たちもここにいると思うんだ……」 「クソッ……クソッ……!」 良祐は毒づきながらさらに闇の中を走っていく。 何故覚めない!? これは夢だろう!? なんで覚めてくれないんだ―――!? 彼の顔はもう恐怖で染まっていた。 「―――っ!?」 良祐の願いとは裏腹にまたも彼の目の前に1人の人影が姿を現す。 だが、その人影の正体は良祐もよく知っている人物であった。 「晴香!」 思わず良祐はその人影に駆け寄った。 ―――巳間晴香。良祐の妹にしてあの島における彼の数少ない知人であった。 FARGOの施設で再会したにも関わらず、口はほとんど聞けなかった身内―――その晴香が良祐の目の前にいる。 「良祐……」 晴香は何かに怯えている良祐を不思議そうに見つめる。 「晴香……頼む。俺を助けてくれ。ここは変なんだ……!」 「変?」 「ああ…あの島で……俺が殺した連中が何故か生きていて俺の目の前に現れるんだ……これは悪い夢だ。俺は……早く目が覚めたい………」 「そう……」 晴香はそう言うとふっと笑った。 「晴香……?」 ―――銃声と何かが一閃される音が良祐に聞こえた気がした。 「―――ひっ!?」 次の瞬間、良祐はここに来て自身これで何度目か判らない悲鳴を上げた。 それもそのはずだ。 突然目の前にいる晴香の腹部に穴が開き、喉元がパックリと横に裂け、そこから噴水やスプリンクラーのごとく大量の朱を噴出しているのだから。 「あ……あ……ああ………!!」 気がつけば良祐は腰を抜かし、尻餅をついていた。 「クスクス……どうしたのよ良祐?」 「く……来るな! こっちに来るなあ!!」 自身に不気味な姿をさらしながらも可笑しそうに笑いながら1歩1歩近づいてくる晴香に良祐は化け物を見た形相で逃げ出そうとする。 しかし、良祐の身体はそんな彼の思考を無視するかのように1ミリたりとも動かなかった。 「良祐……今…目を覚ませてあげる………」 自身から噴出す血で真っ赤に染まった両手で晴香は良祐の顔を掴む。 そして――――― ――――彼の頬に唇を寄せた。 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」 次の瞬間、発した絶叫と共に良祐の意識は電源がONからOFFになったテレビのごとくブツリと途切れた。 「ああああああああああああああ!!」 絶叫と共に、巳間良祐は目を覚ました。 「はぁっ……はぁっ………こ…ここは………?」 目を覚ました彼の視界に映ったもの―――それは空と大地が逆さまになっている世界であった。 (………いや。逆さまになっているのは俺の方か…………) 良祐は自身の足の方に目を向ける。彼の両足にはロープが巻きついていた。 ――体中が汗で湿って気持ちが悪かった。 「無理もないか……あのような夢を見たんだからな………」 良祐はとりあえず現状を把握してみることにした。 武器などは全て先ほど自分が戦っていた少女に奪われたようだ。 デイパックが1つだけ残されていたが、恐らくその中に入っているのは地図やコンパスなど基本的な物だけだろう。 『――みなさん……聞こえているでしょうか』 「ん?」 その時、島に例の放送が流れた。 『発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』 ウサギのその声とともに放送は終わった。 (――晴香、おまえも死んでいたとはな………) 良祐は少しの間だけ亡き妹のことを思った。 「――しかし、頑張れと言ってもな……」 良祐は悩んでいた。 このまま自分はゲームに乗り続けるべきか、それとも反主催に鞍替えするかを。 (あんな夢見てしまったら人なんて殺せるわけないしなあ………) だが、この島において他の参加者を殺すこと以外生き残る術はないと結論し行動していたのはまぎれもなく自分自身である。 それに彼は優勝して晴香や死んだ連中を生き返らせてやろうとするほどお人よしでもなかった。 「……武器も全てなくなってしまったし、これからどうするかね…………」 逆さ吊りの状態で良祐はこれから先どうしようかと考えてみることにした。 巳間良祐 【場所:F−7西】 【時間:2日目・午前6時10分】 【所持品:なし】 【状態:これからどうしようか考えている。観月マナが仕掛けた罠に引っ掛かり宙吊り状態。右足・左肩負傷(どちらも治療済み)。真下に支給品一式】 - BACK