「先生…もう大丈夫なの?」 ことみが心配そうに聖に問いかける。 「ああ。何時までも足を止めているわけにはいかないしな…」 それにこのまま泣き続けていたら佳乃に笑われてしまう、と言うと聖は自分の荷物を持って立ち上がった。 「さて……では行くとしようか」 「うん……あ……」 「ん? どうした、ことみ君?」 「人が来るの………」 「なに?」 「はぁっ……はあっ……」 「あ…あの子結構速いしスタミナあるな……いつまで走るんだ……」 名雪と貴明の距離はどんどん広がっていく一方であった。 いくら疲労がたまっているとはいえ陸上部部長の名雪と朝遅刻ギリギリで学校に駆け込む程度の貴明ではさすがに実力差があった。 「ま…待って………」 ついに息切れした貴明の足が止まってしまう。 そんな貴明にはお構いなしで名雪はどんどん遠くへと走り去っていき、先ほどまでは豆粒ほどだった彼女の姿もとうとう見えなくなってしまった。 「ああ………」 名雪が走り去っていく方を呆然と見つめながら貴明は膝を付いた。 「先輩……観月さん……ごめん」 貴明は今は鎌石村にいるささらとマナに一言謝罪すると近くの木にもたれかかった。 「ふぅ……」 デイパックから水を取り出し少し飲んだ。喉や体が生き返っていく感じがした。 (――あの子、何も持っていなかったみたいだけど……大丈夫かな?) 脱水症状とかにならなければいいけど…、と思いながら貴明はペットボトルをしまい、立ち上がった。 「とりあえず鎌石村の先輩たちのところへ戻ろう……」 貴明が村へと引き返そうとしたその時であった。 「―――もうマラソンはお終いか?」 「!?」 先ほど貴明たちが走ってきた方からかなり殺気がこもった声がした。 貴明は急いで振り返ろうとしたが、それよりも先に身体が動いていた。 ぱららら……! 銃声……それもマシンガンの類が連続で弾を撃つ音がする。 銃声が聞こえる直前に貴明は大地を転がっていた。 その際、貴明の左足に何かがかすった。もちろんかすったものは木の枝などではない。銃弾である。 「っ!?」 若干左足に痛みが生じたが、そんなことはお構いなしで体勢を立て直すと貴明はすぐさま近くの木々や茂みの中に身を隠した。 (皮肉な話だよな――俺よりも年下のガキがこんな殺人ゲームに乗るなんて……!) 貴明が身を隠した方を睨みながら藤井冬弥は再びP90を構えた。 「お前みたいな奴がいるから由綺たちやみんなが死んじゃうんだろーーーーーーっ!!」 そして次の瞬間には冬弥は貴明が隠れていそうな場所に問答無用で銃を撃ちまくった。 銃声とともに木が草が周辺に木片と葉っぱを撒き散らしていく。 「な…なにを!?」 わけが判らない貴明は木陰に身を隠しながらレミントンを構えた。 「人を殺そうとしているのはあんたのほうじゃないか!」 「!?」 そして貴明も銃弾が飛んでくる方へレミントンを1発放った。 ドンという音とともに散弾が冬弥の方へと飛んでいく。 しかし、貴明の銃は近距離ではその威力を発揮する代物であるが今回のような中距離以降からなる銃撃戦にはあまり向いていない。 結果として貴明が放った弾はとっさに回避運動をとっていた冬弥の近くをかすめていくだけで終わった。 「ちっ!」 すぐさま冬弥も弾が飛んできた方にP90を撃つ。 「こいつ!」 さらにお返しに貴明も1発。 もはややったりやられたり、やられたらやり返すな状況である。 「う…あ……」 名雪はただ走り続けていた。 もう意識も朦朧として目もかすんできた。 それに喉も水分不足により息をするたびにひゅーひゅーと音を鳴らしていた。 ―――逃げなきゃ殺される。ただその一心で足を動かしていた。 だが、その足もついに限界が来た。 「あうっ……!?」 突然名雪の足ががくんと膝を折り、名雪は地面に倒れ付す。 (そ…そんな………) さらに自分の意識も急激に遠のいていくのが名雪には判った。 (いや…いやだよ……死ぬのは怖いよ………お母さん……おかあ…さん………) そして名雪は意識を失った。 最後に自分に心配そうに駆け寄ってくる誰かの姿をうっすらと確認しながら。 「先生、この子……」 「ふむ……軽い脱水症状だな。それと、疲労によりやや衰弱している」 名雪の様子を見ながら聖はデイパックからタオルを取り出すとそれを水で塗らして名雪の額に置いた。 「恐らく少し休ませれば問題ないだろう。ことみ君、たしかこの近くにはお堂があったな?」 「うん。観音堂っていうお堂があったの」 「よし。来た道を戻ることになってしまうが、この子をそこまで運ぼう。さすがに路上で休ませるのは危険すぎる」 「わかったの」 聖が名雪を抱き上げようとしたその時、銃声が2人の耳に聞こえてきた。 それはちょうど自分たちが引き返そうとしていた観音堂の方から聞こえてきた。 「先生……今の……」 「―――私が先に行って様子を見てくる。ことみ君はその子を頼むぞ」 「あっ…」 それはいくらなんでも危ない、とことみが聖に言おうとした時には既に聖は自分のデイパックを持って先ほどまで歩いてきた道へと駆け出していた。 (これいじょう人が傷つく姿も――死んでいくのも私は見たくない………ふ…佳乃。どうやらお姉ちゃんはこんな時でも医者のようだ………) 職業病だな、と呟いてふっと苦笑すると聖は銃声が聞こえる方へとどんどん足を進めていく。 銃声はどんどん近くで聞こえてくる。それと同時に、かすかに若い――まだ少年くらいの男の人の声も聞こえてきた。 銃撃戦かと聖は思った。そして、そう思った次の瞬間には 「――その争い、ちょっと待った!!」 気がつけば銃撃戦をしているであろう者たちに聞こえるくらいの大きな声を茂みの方に叫んでいた。 【時間:2日目6:40】 霧島聖 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】 【状態:一度観音堂へ引き返す。が、今は貴明たちの争いを止める】 河野貴明 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【所持品:Remington M870(残弾数2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、左足にかすり傷、冬弥をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】 藤井冬弥 【場所:C−6(観音堂周辺)】 【所持品:FN P90(残弾24/50)、ほか支給品一式】 【状態:貴明をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】 一ノ瀬ことみ 【場所:C−6】 【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】 【状態:聖が心配。今は名雪の看病】 水瀬名雪 【場所:C−6】 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り、起動後1時間で爆発)、青酸カリ入り青いマニキュア】 【状態:気絶中】 【備考】 ・冬弥の投げた十円玉の出た面は不明 ・名雪の携帯の時限爆弾は手動による起動後1時間で爆発するように設定。起動方法は後続の書き手さんにおまかせします - BACK