―――ドン! 「ん!?」 ―――近くで銃声がした。それを聞いた月島拓也はすぐさま持っていたナイフを構えた。 だが、どうやら自分を狙ったものではないようだった。 「―――近いな……」 一度構えを解いて拓也は考える。 今自分がしようとしていること、それは主催者の皆殺しだ。 そのためには今持っているナイフだけではいくらなんでも武装が貧弱すぎる。 「………漁夫の利を狙うというのは僕の性分じゃあないが……しかたないか?」 拓也は銃声がした方へと駆け出した。目標は銃など強力な武器を確保することだ。 「さてさて……行くとしますか?」 朝霧麻亜子はそう言うと自分が着ていた制服を片方のデイパックに着せた。 またしても麻亜子の格好は上はスクール水着1丁になった。 「―――よーし……うおおおおお! ムロフシ吠えたあああああ!!」 そして次の瞬間、麻亜子はそのデイパックをハンマー投げのような方法で思いっきり芳野たちの方へ放り投げた。 「――ッ!」 少し離れた茂みの中から1つの影が躍り出た。 (間違いない、敵だ) そう確信した芳野祐介はすぐさま飛び出した陰に向かって持っていたデザート・イーグルを撃った。 ドン! 銃声と共に飛び出した影には風穴が開き、勢い良く水を噴出させる。 (―――なに? 水? ―――しまっ……) 「まーりゃんキーック!」 「ぐはっ!?」 「芳野さん!?」 芳野が罠に気づいたときには彼の近くの茂みから麻亜子が飛び出し、次の瞬間には芳野のわき腹にご自慢のとび蹴りを食らわせていた。 芳野は1メートルは後方に吹っ飛び、持っていたデザート・イーグルも地面に転がった。 そう。芳野が撃ったのは今麻亜子が放り投げたデイパックだったのだ。 噴出した水はその中に入っていたペットボトルに穴が開いたからである。 「ぐっ…長森、お前は逃げろ! こいつは手馴れだ! ――ッ!?」 追撃とばかりに麻亜子は芳野の頭めがけてナイフを投擲した。 「ちっ。そう簡単にやられるかっ!」 すぐさま芳野は左腕でナイフを防ぐ。 もちろん左腕にはナイフが突き刺さり、激しい痛みが芳野を襲った。 「ぐうっ!?」 麻亜子の追撃はまだ終わらない。今度は左手に持っていたバタフライナイフを右手に持ち替え、芳野に突進してくる。 「ちっ!」 芳野は左腕の痛みに耐えながら右手で刺さったナイフを引き抜き、右足でハイキックをかまし麻亜子の接近を防ぐ。 麻亜子はそれをしゃがんで回避すると次の瞬間にはナイフで芳野の左ふくらはぎを切り裂いた。 「があっ!?」 自身を支えていた左足を切られた芳野はそのままバランスを崩し大地に倒れてていく。 「―――悪いけどこれで終わりだねっ」 とどめを刺そうと倒れていく芳野の胸めがけて麻亜子のナイフが吸い込まれていく。 ―――ドン! 「!」 「むむっ!?」 ―――麻亜子のナイフは芳野の胸に突き刺さる数ミリ前のところでその刃を止めた。 次の瞬間には芳野もどさりと大地に崩れ落ちる。 1発の銃声――それにより芳野の命は首の皮1枚繋がった。 すぐさま芳野と麻亜子は銃声のした方へと目を向ける。 そこには―――芳野のデザート・イーグルを構えた長森瑞佳の姿があった。 「おまえっ、なんで逃げなかった!?」 「――芳野さんを見殺しになんてできません………! あなた……なんで人殺しなんてできるんですか!?」 「あたし……? ん〜……やっぱり罪を一心に背負う覚悟があるからかな?」 「――芳野さんから離れて……どこか行ってください………行かないと……その……撃ちますよ!」 「馬鹿! 俺なんかいいから早く逃げやがれ!!」 「………はあ。やれやれ……しょうがないにゃ〜……」 「えっ?」 「なに!?」 「さーりゃんたちのために、あたしもまだこんなところで死ぬつもりはないしねえ……」 そう言うと麻亜子は持っていたナイフを肩に掛けていたデイパックにしまった。 「――見逃すっていうのか?」 「んー? 今回だけはなー」 芳野の問いに麻亜子は大人に対してぶーぶー文句を言う子供のような顔をして答えた。 (よかった………) 瑞佳がほっと肩をなでおろし、構えていた銃を下ろしたその時であった―――― ―――バスッ! 「え―――?」 突然、瑞佳のわき腹に激痛が走った。 痛みのする方へ目を向けると、そこには1本の矢が生えていた。 その矢を中心に制服がじわじわと赤く染まっていく。 「あ……あれ?」 そのまま体中の力が抜け、瑞佳は大地に崩れ落ちた。 瑞佳の意識が闇に落ちる前に最後に見たもの。それは右手をデイパックに突っ込んだまま笑顔でこちらを見つめる麻亜子の姿だった。 「ふっ。この距離なら鞄ごしでも矢ぐらい当たるのだよ」 デイパックから出てきた麻亜子の右手にはボウガンが握られていた。 「き……貴様あああああああああ!!」 芳野はまだ動く右手で腰に挿していたサバイバルナイフを引き抜き、麻亜子に切りかかろうとした。 しかし、それよりも早く麻亜子は芳野の胸に矢を放っていた。 バスッ! 「がはっ………」 芳野の体がビクンと一瞬痙攣する。 そしてそのまま芳野の意識も深い闇に落ちていった。 (公子……すまない……俺も…今そっちに逝く…………) 芳野が動かなくなったのを確認すると麻亜子はゆっくりと口を開いた。 「――言ったはずだよ。『もう躊躇はしない』ってね―――ああ、君たちには聞こえていなかったか?」 そう言うと麻亜子は開いていた芳野の目を閉じさせ、彼のサバイバルナイフと瑞佳の近くに転がっていたデザート・イーグル、そして先ほど芳野に使用した投げナイフを拾った。 「弾はあと2発か……さっきの銃声と弾丸からして前持ってた銃より強力なやつなんだろうね。大事に使わせてもらうとしますか。あとは……」 次に麻亜子は芳野と瑞佳、先ほど自分が放り投げたもうひとつのデイパックを回収した。 「うひゃ〜。あきりゃんにせっかくクリーニングしてもらった制服が水浸しだよー……まあ、しばらくしたら乾くかー」 そう言うと麻亜子は水に塗れたままの制服を軽く絞った後デイパックにしまった。 「あとは……塗れた鞄の変わりにあの子の鞄を貰っていきますか〜。パンだけこっちに移し変えて……あ。そういやあの子は何貰っていたんだ?」 瑞佳のデイパックを開くと中から出てきたのはもちろんどこか見覚えのある3着のファミレス衣装である。 「おお。グットタイミングじゃん! スク水一丁だとさすがに寒いもんねー。さ〜て…どれを着ようかな? ―――よし、こいつだ!」 そう言うと麻亜子は3着のうちの1つ『フローラルミントタイプ』という札がついた緑色の服を選び、早速スク水の上に着用した。 「ややっ!? さっすがP●aキャロの制服! ロリなあたしが着てもぴったりではないかーっ!」 上機嫌になった麻亜子は残り2着をデイパックに戻すと、荷物を持ってその場を後にした。 「さあ、修羅の道を歩く1人の女、まーりゃん様の復活だー。さーりゃん、たかりゃん、ゆーりゃん、そして今は天国にいるこのみん、待っててくれたまえ」 「―――ふむ。どうやら遅かったようだね……」 麻亜子が去って数分後。銃声を聞きつけやって来た月島拓也は倒れている芳野と瑞佳の姿をちらりと見た後、近くに転がっていた2つのデイパックに手を伸ばした。 「片方は穴が開いてずぶ濡れだな……やれやれ、こっちは使えないな……」 そう言うと拓也は塗れていたデイパックを地面に放り投げた。 「……………う…ん……」 「ん?」 ふと声が聞こえた気がしたので拓也は振り返った。 その視線の先にいたのは矢が刺さり血の水溜りを形成していた長森瑞佳がいた。 当初は死んでいると思ったが、よく見ると彼女は微かに生きをしていた。 ―――そう。瑞佳はまだ生きていたのだ。 近づいて瑞佳の様子をもっとよく見てみる。 (――まだ息はしているが……出血が酷いな。まあ放っておけば次期に死ぬか………) 拓也はそのまま見捨ててこの場を立ち去ろうとした。 ――が、なぜか瑞佳が気になってその場から離れられなかった。 「…………ああ、もう!」 そう言うと拓也は瑞佳に刺さっていた矢を引き抜き、自身のYシャツを脱いでそれで止血をするとそのまま瑞佳をお姫様抱っこで抱き上げた。 「くそっ…なんで僕がこんなことをしなくちゃならないんだ!?」 長瀬祐介や数時間前に別れた国崎とかいう奴のお人よしなところでも映ったか、などと毒づきながらその場を後にする。 「………」 去り際、芳野祐介の亡骸の方を見て拓也は呟いた。 「フン。見るからにお人よしなツラしているよあんた。どうせこいつを助けようとして返り討ちにでもあったんだろ? 馬鹿な奴め。 ――まあ安心するがいいさ。こいつは僕が特別にあんたに代わって面倒見てやるよ。勘違いするなよ。情が移ったなんてことはないからな。本当だぞ……」 まずは着替えと瑞佳の手当てをするための救急用品を探そうと拓也は歩き出した。 「―――ここからだと鎌石村のほうが近いかな?」 【時間:2日目・午前6:45】 【場所:F−7】 朝霧麻亜子 【所持品1:デザート・イーグル .50AE(4/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】 【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】 【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている。既に別の場所に移動】 月島拓也 【所持品1:8徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】 【所持品2:支給品一式】 【状態:救急用品、自身の着替えを求めて気絶した瑞佳を連れて鎌石村へ。目標は瑠璃子の敵を討ち、最終的には主催者を皆殺しにする(ただしゲームの破壊が目的ではない)。上着はアンダーシャツ1枚】 長森瑞佳 【所持品:なし】 【状態:気絶中、出血多量(止血済み)、傷口には包帯の変わりに拓也のYシャツが巻いてある】 118番 芳野祐介 死亡 【備考】 ・塗れたデイパック(中身は水・食料以外の支給品一式・ただし塗れている)は芳野の死体の近くに放置されている - BACK