深夜の奇襲2




「うわっ!」
「ちぃっ」

すんでの所でまたかわす、逃げ回る柏木耕一の様子に柚原春夏も苛立ちを隠せなくなっていた。
所詮素人の射撃では、動いている的を射止めることは難しいらしい。
いい加減銃を持つ手も痺れてきた、思ったよりも良くない状況に春夏は何か策を出せないかと思案しだす。

一方耕一も、奇跡的にだがまだ一発も弾が当たっていない状態でここまで時間を稼ぐことができていた。
舞達も充分遠くへ行けたであろう、今度は自分の番だ。

(正直、ここで止めを刺しとかないと危ないかもしれないんだけどな・・・)

だが、この状況でそれは無謀というものである。
今、二人はあの平原から森に少し下った所で尚争いを続けていた。
春夏がしかけ、耕一がかわし。その連続である。

・・・そんなある意味頓着しているとも言えるような場に向かって、駆けて来る少女がいた。
息を弾ませ山頂に向かっているであろう少女は、ちょうど身構える二人の間を通り抜けようとする道を選んでいて。
耕一がはっと気づいたように春夏に視線を戻すと、やはり彼女も少女のことを見つめていた。
無防備なその姿、勿論春夏が逃すはずはない。
耕一の方に合わせていたマグナムの照準をずらし、春夏は容赦なく少女を狙う。

「逃げろ、こっちに来るな!!」
「え?!」

耕一の叫び、少女の疑問符。それと同時に、少女の体は後方に吹っ飛ぶ。
耕一が身を乗り出した時には既に後の祭り、・・・弾は少女の腹部にしっかりと抉りこんだ。

「あんたって人は・・・!」

睨み据える耕一に向かい、春夏はまた銃を構える。

「何とでも言って頂戴、私はあの子だけは死なせるわけにはいかないのよ」

覚悟を決めたその強い眼差しに耕一が怯んだ時・・・別の場所から、銃声が鳴った。

「「?!」」

耕一も春夏も、対応が遅れる。
銃声は二発連続で鳴り響き、それは二発とも春夏の防弾アーマーへと吸い込まれた。
衝撃は抑え切れなかったのだろう、思わず尻餅をつく春夏に向かって放たれた声。

「痛いじゃないの、おばさん・・・」

半身を起こした状態で射撃してきたのは・・・他でもない、先ほど腹を撃ちぬかれたはずの来栖川綾香であった。
防弾チョッキ、服の下に仕込んだそれで難なく危機を越えた綾香は、そのまま耕一達の方へ駆け寄ってくる。
分が悪いと悟ったか、一端場の離脱を図ろうとする春夏の様子を耕一の目が捕らえるがもう遅い。

「ま、待て・・・っ!」

耕一の言葉は届かない、あっという間に春夏の姿は森の中に消えてしまった。
深夜で見通しの悪い状態、追う手間をかけても体力の無駄になってしまうであろう。
場に残ったのは綾香と耕一の二人だけ、どうするか・・・と綾香に向き直り、耕一はまたぎょっとすることになる。

「聞きたいことがあるの。答えてくれないようなら一発お見舞いすることになるけど?」

先ほど春夏を捕らえたS&Wの銃身は、しっかりと耕一に向かって構えられていた。
・・・彼女は協力を求めている訳ではない、これは脅しである。
それを理解した耕一は、バンザイポーズで彼女に対する服従を表した。

「そうそう、素直な方がいいわよ。・・・で、聞きたいんだけど、あなたこの先の頂上に登ったかしら?」
「ああ、さっきまでいた」
「そう。・・・そこに、大勢のグループとかって、いた?」
「大勢?」

少し悩むように視線を斜めにずらし、耕一は答えた。

「俺達以外はいなかったはずだけど・・・さっきの人に襲われた時も、他の人は出てこなかったし。
 ああ、それとも俺達のことだった?」

綾香の視線がすっと細まる。チャラけた雰囲気が抜け真剣さの増した視線に、耕一は少しだじろいだ。

「人を探しているの、川澄舞って子よ。・・・一緒に、いなかった?」
「ああ、彼女なら・・・って、うわぁ!!」

耕一が話そうとした時だった、また思わぬ所から銃弾が飛んでくる。
射撃自体は的外れであったがそれでも脅威である、すかさず身を低め綾香も反撃をした。

「しつっこいわねっ、逃げてなかったんじゃないっ!」

少し距離があるだろうけれど、それは確かにさっきも聞いたマグナムの銃声。
春夏は、まだ近くにいる。そして、今も二人を狙っていた。
不慣れな手つきで弾をこめ直し、綾香は春夏の出方を窺いながらも耕一への詰問を続けた。

「で、川澄舞は?本当に一緒だったの?!」
「一緒だったけど、あの人に襲われた時別れたんだ」
「どこ?!あいつはどっちに向かったの?!!!」
「えっと、北の方に逃げたはずだけど・・・君、川澄さんの知り合い?」

耕一の疑問に対し、少し間を空けてから綾香は答えた。

「・・・会わなくちゃいけないヤツなのよ、絶対」

何かが含まれた、言葉であった。
場はまた頓着する、迂闊には動けない状態だ。
だが綾香にとっては一刻を争う状況である、ここで「川澄舞」を逃したら再び見つけられるチャンスはないかもしれない。
道を塞ぐのは春夏の存在・・・どうするか、思案した結果。

「これ、貸してあげる」
「え!?どういうことだよ」
「悪いけど、あいつは頼んだわ。私は、まーりゃんを追わなくちゃいけなから」

綾香は自分の鞄から乱暴にトカレフを取り出し、それを耕一に押し付けた。

「足止めよろしく」
「ちょ、ちょっと・・・」
「お願い、私は川澄舞に・・・まーりゃんに、会わなくちゃいけないのよ」

それは冷徹に見えた少女が、初めて年相応の焦りを顔に出した瞬間であった。
・・・綾香の必死な様子に、耕一も腹を括るしかない。
彼女に何があったかは分からない、だが余程の理由があるということだけは分かったから。

「はぁ・・・仕方ないな、分かったよ。ほら、あっちの方だから。行きな」
「頼もしい言葉ね。感謝するわ」

そう言って駆け出す綾香の背を守るよう、耕一は春夏がいるであろう方向に向かって発砲した。
・・・耕一は彼女の目的を知らない、また綾香も自分の向かう先にいるであろう人物が誰だか分かっていない。
ここに存在するすれ違いに気づく者はいないが、状況だけはどんどん加速していくのだった。




柚原春夏
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/Remington M870(残弾数4/4)予備弾×24/34徳ナイフ(スイス製)】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【残り時間/殺害数:10時間49分/4人(残り6人)】

柏木耕一
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(5/8)・大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:春夏と対峙、柏木姉妹を探す】

来栖川綾香
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:S&W M1076 残弾数(6/6)予備弾丸22・防弾チョッキ・支給品一式】
【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】
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