平瀬村に秋生達が留まっている可能性は低い。 秋生ならきっとゲームに乗っていない人間……るーこも助けようとした筈。 そして一度離脱した後でも現場の近くにいたのならば、様子を伺いに戻ってくる筈。 にも関わらずるーこが取り残されていたという事は、即ち秋生には余裕が全く無かったという事。 恐らくは平瀬村から離脱したのだろう。 そう考えた朋也達は平瀬村を後にし、鎌石村を訪れていた。 「どうだ由真、何か見えるか?」 「うーん、見える範囲では人影みたいなものないわね」 朋也達はいきなり村を歩き回る事はしなかった。 るーこに分けて貰った武器を仲間内で配りはしたが、正直な所戦力に不安が大きすぎる。 それならばリスクは極力抑えたい。 由真は村の外れから双眼鏡で村の様子を窺っていたが、いかんせん遮蔽物が多すぎて視認出来る範囲が限られてしまっていた。 民家の屋根のような高い場所に登れば見渡しやすくなるが、それではこちらも目立ってしまい本末転等である。 「くそ、歩き回ってみるしかないか……。出来ればあまり目立ちたくはないんだけどな」 「にゃはは、岡崎朋也の怖がり〜」 「…………」 悩んでいる所をみちるに茶化された朋也は、いつものようにゲンコツを降らせるべくみちるに近付く。 しかし今回だけはそれは叶わなかった。 『――みなさん……聞こえているでしょうか。これから第2回放送を始めます。』 「―――!」 その一声で全員が黙りこくり、ただ耳を澄ました。 …… …… …… 72 長瀬源蔵 …… …… 『72 長瀬源蔵』 その名前を聞いた瞬間、十波由真は力なくその場に座り込んだ。 自分の祖父の名を呼んだ声が何度も頭の中で響き渡る。 由真の顔からは血の気が引いて、目は生気を失っていた。 ・ ・ ・ ・ この島では怖い目に遭った事はあるけれど、知り合いはまだ誰も死んでいなかった。 だからあたしは頭の中のどこかで楽観的な考えを持っていた。 きっと何とかなると。きっと皆で生きて帰れると。 しかしそれが甘い考えだと思い知らされた。 最愛の祖父―――長瀬源蔵が死んだ。 とても優しかったおじいちゃん。とても頼もしかったおじいちゃん。 おじいちゃんはあたしの誇りだった。来栖川家を影で支えてきた執事。 かつてその姿に憧れ、同じ道に進みたいと思った事もあった。 おじいちゃんはそんなあたしを見て心底嬉しそうにしてくれていた。 年を取って成長するにつれて準備されたレールの上を歩くだけの人生に疑問を持つようになり、あたしはその道を拒絶した。 おじいちゃんは強引にあたしを執事の道へと引き戻そうとしたけれど、それもあたしを思っての事。 あたしの将来の安泰を考えての事だった。 最後にはあたしの意思を尊重し、あたし自身が選んだ道で生きる事を認め、応援してくれた。 本当に大好きだった。そのおじいちゃんが、死んだ。 頭の中で途切れる事なくおじいちゃんの姿が、おじいちゃんとの思い出が、浮かび上がり続ける。 あたしの瞳は当分の間、現実を映せそうに無かった。 ・ ・ ・ ・ 放送が終わってもずっと由真は放心状態でその場に座り込んだままだった。 「由真……」 朋也が由真の顔を覗き込んだが、その瞳は何も捉えてはいない。 何度か話しかけてはみたが返事どころか反応すら全く無い。 どう元気付ければ良いか朋也には分からなかった。 もし渚が死んでしまったら、きっと今の由真と同じ状態になる。 それどころか完全に壊れてしまうかもしれない。 何にせよ今の由真にはどんな言葉も届かないだろう。 それに自分だってショックは受けている。 まるで聖母のように優しかった早苗さん。 健気に兄の事を慕い続けていた芽衣ちゃん。 その二人が死んでしまった。 今は由真達を守らなければならないという責任があるからこそ涙を堪えられているだけだ。 ここで自分がしっかりしなければ誰がこの少女達を守るいうのか。 とにかく休養が必要だ。由真にも、自分にも。 後は時間が解決してくれる事に期待するしかない。 そう結論付けた朋也は、優しく由真の手を取った。 「ほら、立てるか?」 「…………」 由真の返事は無い。 元より返事を貰えると期待してもいなかったので腰に手を回して強引に、しかし由真の体を傷つけないよう注意を払いながら立ち上がらせた。 「取り敢えずどこか家の中に入ろう。このまま外にいたら良い的だからな。風子、手伝ってくれ」 「はいっ」 風子も由真を支えるのを手伝い、朋也達は近くにある民家へと向けて歩き始めた。 だが、その近くで朋也達の隙を窺う影が存在した。 (男は一人だけで女の子が3人……銃を持っているようにも見えない。それに何かあったみたいで隙だらけだ。 まさしく絶好の機会……この機会を逃しちゃ駄目だ!) ゲームに乗っていない人間を殺す事に対して七瀬彰はいまだに抵抗を感じていた。 しかし覚悟はもう決めてある。 銃を持たず怪我も負っている彰でも物にしうる数少ない好機が、目の前にはあった。 【時間:二日目午前7時20分】 【場所:C−03】 七瀬彰 【所持品:鍬】 【状態:右腕負傷(マシにはなっている)。マーダー】 岡崎朋也 【所持品:クラッカー残り一個、薙刀、他支給品一式】 【状態:由真を支えながら近くの民家に移動中。目標は渚・知人の捜索】 みちる 【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】 【状態:朋也に同行、現在の目標は美凪の捜索】 十波由真 【所持品:双眼鏡、トンカチ、他支給品一式】 【状態:呆然自失】 伊吹風子 【所持品:三角帽、殺虫剤、スペツナズナイフの柄、他支給品一式】 【状態:由真を支えている、朋也に同行】 ※不明だったみちるの支給品はセイカクハンテンダケ×2に設定 - BACK