無題




「レミィ……来栖川先輩………理緒ちゃん………」
第2回の放送を聞いたあかりは友人・知人たちの死にショックを隠せないでいた。
次は自分が死ぬのではないかという恐怖や悲しみに押しつぶされそうになったが、それは何とか耐え抜いた。
なぜなら前回の放送の時はそれが原因で結果としては美坂香里をしなせてしまったのだ。同じ過ちは繰り返せない
「……」
往人はただ黙ってそんなあかりを見ているだけだった。いや。見ていることしかできなかった。
(晴子……佳乃………)
先ほどの放送には自身の知り合いであり探していた人間たちの1人だった神尾晴子と霧島佳乃の名前があった。
だから彼は今のあかりの気持ちが少なくとも理解できないということはなかった。
何かを失ってしまったことによる虚無感―――とでも言えばいいのだろうか?
とにかく往人にもそのような感情が確かに生まれていた。

(――まあ、俺の方はともかく、問題は観鈴のほうだな……)
自身の母親の死――それを知った観鈴は今頃どうしているのだろうか?
おそらく優しい観鈴のことだ。母だけでなく見ず知らずの人間の死にも泣いている可能性はある。
問題は今回の件で感情に流されて暴走しないかであった。
そんなことを考えているとあかりが往人に声をかけた。
「―――国崎さん。先を急ぎましょう」
「もう大丈夫なのか?」
「はい。それにこうしている間にも他の人たちの身に危険が迫っているかもしれませんから」
「――そうだな。先を急ぐとするか」
「はい」
往人たちが再び歩き出そうとしたその時であった。
「ん?」
ガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえてきた。



「はっ…はっ…はっ…」
水瀬秋子は腹部の痛みに耐えながら草木を掻き分け走り続けていた。
その手には上月澪の所持品であったスケッチブックがあった。
(名雪……澪ちゃん……)
名雪の行方は未だに判らない。しかし澪の行方は判っている。
橘敬介―――素性を偽り、隙を見て他の参加者を殺害していく極悪非道なマーダー。その敬介に澪は連れて行かれた。
しかし、なぜあの時澪を殺さずに連れて行ったのか。それ以前に、なぜ自分に止めを刺さなかったのかなど疑問はいろいろある。
(―――ですが今は関係ありません)
敬介が向かった方向からして彼は氷川村に向かったのだろう。
あそこには診療所もある。自身の怪我の治療も出来るし、何より人が集まりやすい場所だ。ゲームに乗った人間が一番集まる場所だろう。
「真琴……」
秋子はぼそりとその名前を口にした。
先ほどの放送に真琴の名前があったのだ。
最初の放送で名前があった月宮あゆに続いてまたしても大切な家族を――未来ある者を1人失ってしまった。
(あの子たちは……この島にいる参加者の人たちには何も罪はない……それなのに何故あゆさんや真琴が殺されなければならないの!?)
秋子の内には主催者に対する怒りがますます膨れ上がっていた。

先ほどの放送であった『優勝者にはどんな願いも叶えてやる』というあの忌まわしいウサギの言葉は間違いなく参加者に殺し合いをさらに強制させるための罠だろう。
だれが乗るものか、と秋子はさらにペースを上げようとした。その時だった。


「おい。そこのあんた」
「!?」
ふいに声をかけられた秋子はすぐさま足を止め振り返った。もちろん警戒は怠らない。スカートにねじ込んである銃に手をやりいつでも取り出せる状態にしておく。
振り返った先には国崎往人と神岸あかりの姿があった。




 【時間:2日目6時30分】
 【場所:I−4】

 国崎往人
 【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
 【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
 【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子と遭遇】

 神岸あかり
 【所持品:水と食料以外の支給品一式】
 【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子と遭遇】

 水瀬秋子
 【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い氷川村へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
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