ピクニックに行こう




―――事の始まりは智代の一言だった。

「―――茜、神塚山へ行こう」
「……え?」

唐突に言われ茜はキョトンとしていた。
すぐに疑問が浮かび上がり、それを口にする。

「仲間を集めるんじゃないんですか?山には人が少ないと思います」
「それはその通りだがな、実は仲間を集める以外にもう一つ作戦を思いついたんだ」
「作戦?その作戦とはどんな内容なんですか?」
「この首輪を操作して爆発させれる範囲はどれくらいだと思う?」
「………?」

話が噛み合ってない気がして茜は僅かに顔を顰めた。
さっきから智代の話は過程が飛び過ぎている。
しかしゲーム開始以来ずっと行動を共にして分かった事だが、智代は馬鹿ではない。
この話にも何かしらの意味がある筈だった。
この場は大人しく話を合わせる事にする。

「―――分かりません、特別機械に詳しいという訳ではありませんから。智代は分かるんですか?」
「いや、私にも分からない。でもそこまで広くはないと思う。例えば携帯電話は山奥などでは圏外になるだろう?」
「私は持っていないですけど、そういう物だとは聞いています―――もしかして山に行けば首輪が爆破されないとでも考えているのですか?
だとしたらそれはあまりにも軽率な考えです」

これだけ大規模な事をやってのける主催者がそのようなイージーミスを犯すとは考え難い。
そもそも首輪が無ければ殺し合いが成立しない。首輪は参加者を律す為の、いわば鎖のような物だ。
この島内で首輪の操作が出来ない場所があるとは思えなかった。


「違う、そんな甘い考えは持っていない。首輪の管理は徹底されている筈だ。
だがそれにはある物が必要なんだ」
「ある物?」
「首輪を操作する電波を中継する為の施設―――基地局やアンテナのような物がどこかにある筈だ」
「成る程……ですがそれが分かった所でどうすると言うのですか?」
「基地局を破壊して、首輪を無効化させる。上手く行けば一時的にでもこのゲームを止められる」
「――――!?」

智代は自信満々に言い切っていた。その顔には微笑みすら見て取れる。
それに対して茜は呆気にとられたような表情をしていた。感情を顔に出す事は滅多にないが、この時ばかりは別だった。
このような展開は全く想像していなかったからだ。
確かに智代の言う通り、首輪を無効化出来ればゲームは止められるだろう。
後は主催者達が首輪の操作システムを復旧させる前に島から脱出するなり、参加者全員で徒党を組んで主催者に攻撃を仕掛ければ良い。
だが言うは易し、行なうは難しという言葉もある。そう簡単に出来る事とは思えなかった。

「ですが、基地局の場所は分かるのですか?地図には載っていないし、目立つような場所に建てられているとも思えません」
「場所は予測が付く。地図を見る限りではこの島の中央部に山がある。ここなら目立たない。
それに端に建てるより中央の、しかも高度が高い場所に建てた方が島中に電波が届きやすいのは自明の理だ」
「……確かにそうかもしれませんね。ですがそのような重要な施設ならば警備員が配置されているでしょう。
私達の武器では分が悪すぎます」
「そうだな。警備が手薄なようなら奇襲を仕掛けても良いが、そうでない場合は一旦引く事になる。
だがそれでも問題無いんだ。基地局の正確な場所と存在さえ確かめれれば、仲間も集めやすくなると思う。
具体的なプランがあれば、信用はかなり得られやすくなるだろうからな」
「………」

茜は頭の中で今までの話の整理を行なった。
智代の話の要点は以下の3つだ。
・首輪の操作には基地局のような物が必要である
・その基地局は島の中央にある神塚山のどこかにある可能性が高い
・まずは基地局を探して、可能ならその施設の破壊。無理な場合は一旦引いて仲間を集める
この事をよく吟味した上で、茜は智代に問い掛けようとした。



――――だがその時第2回放送が流れ、茜と智代の作戦会議は中断を余儀なくされた。
放送には茜達と親しい人間の名前は無かった。しかし犠牲者は着実と増えている。
第1回放送の時の倍近い数の名前が呼ばれたのだ。
放送が終わった時、智代はすっかり項垂れてしまっていた。
智代は無力感に苛まれていた。自分は理想を唱えているだけでまだ誰一人として救えていない。
出会った中で唯一の知人である春原ですら、茜がいなければ立ち直らせれていたか分からなかった。

「くそっ!結局私はまだ何もしていない……何も出来ていないじゃないか……」
「顔を上げてください、智代。何度も激励するつもりはありません。それよりも、尋ねたい事があります」
「……そうだな、すまない。尋ねたい事とは何だ?」
「―――単刀直入に聞きます。貴女の作戦の成功確率はどれくらいだと思いますか?」
「この首輪が電波で作動するという保障も無いし、山に基地局があるというのも予測に過ぎない。
成功確率は楽観的に見積っても2割程度だと思う。だが現状でこのプランよりマシな手は無いと思うぞ?」
「そうですね……。私のような非力な女が優勝する確率に賭けるよりは遥かに分の良い話です。
私はその作戦に賭けてみる事にします」
「よし、決まりだな。では早速神塚山に向かおう……これ以上の犠牲者を出さない為にもな」

そう、元より確実に脱出出来るような美味しい話などある筈も無いのだ。
それがどんなに低い確率でも、他に道は用意されていない。
智代達は進路を変え、神塚山を目指して歩き始めた。
その先にどんな困難が待ち構えていようとも、今はそうするしかなかった。




【時間:2日目06:20頃】
【場所:f-3】

里村茜
 【所持品:フォーク、他支給品一式】
 【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】

坂上智代
 【所持品:手斧、他支給品一式】
 【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】
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