「まーりゃん先輩、本当にどこに行っちゃったんだ?」 あれから貴明、マナ、ささらの3人は麻亜子を探すため鎌石村を訪れていた。 しかし、いくら探しても麻亜子の姿も彼女がいたという痕跡すら見つけられなかった。 そして今、3人は村はずれの民家で休憩を取っていた。少し休んだら再び捜索を開始するつもりである。 「もしかしたら、この村には来てないんじゃない?」 「う〜ん…そうかもしれないな……」 そう言うと貴明はデイパックを開け、中からあるものを取り出した。 「貴明さんそれって……」 「ああ。高槻さんと別れた後もう一度職員室やその周辺を調べただろ? その時に使えそうだと思って持ってきたんだ……」 貴明が取り出したもの―――それは名倉由依が持っていた携帯電話と麻亜子が落としていったSIGと鉄扇だった。 「……銃に弾はあと2発しか残ってなかったけど入ってた、だからこれは先輩が持っていたほうがいいと思う」 そう言って貴明はSIGをささらに渡した。 ………しかし、ささらは無言で首を横に振りそれを貴明に返した。 「先輩?」 「………それは貴明さんが持っていてください」 「どうして?」 「貴明さんにはまーりゃん先輩を止める他にもやるべきことがあるはずですから」 「…………そうだな。わかった。これは俺が持っておくよ」 「はい」 「じゃあ、あとは……携帯は観月さんが持っててくれないかな? 銃と鉄扇は俺が持っとくから」 「うん、判った」 (―――そうだ。この島で俺がするべきことは山ほどある。 まーりゃん先輩を止めて。このみや春夏さん、小牧さんやるーこたちを見つけだして。 そして雄二やタマ姉たちと合流して……最後に、1人でも多くの仲間たちを集めてこの島を脱出する………) 貴明が自身の決心を確認すると同時に玄関の扉がゆっくりと開く音がした。 「!?」 すぐさま貴明とマナは互いの銃を握り警戒体制を取る。 「久寿川先輩は俺と観月さんの後ろに……!」 「は、はい…!」 「さっきの高槻とかいう奴らかゲームに乗っていない奴だったらいいけど……」 マナの言うことは最もだと貴明は思った。いくら時に生き残るためには必要とはいえ、人に銃なんてあまり撃ちたいなんて思わない。 しかし、もし相手が出会った人間を見境なく殺していく殺戮者であったなら、そのときは容赦しないという覚悟も貴明にはあった。 (これ以上、草壁さんのような罪も無い人たちを殺されてたまるか……!) 貴明は構えているSIGをぎゅっと握り締めた。 足音がゆっくりと貴明たちのいる部屋に近づいてくる。 それに伴い貴明たちの緊張も高まってくる。それぞれの心臓の音が聞こえるのではないかというくらいの緊張感が部屋に充満していく。 そして、足音が自分たちの部屋の入り口の前で止まった。 閉めていた部屋の扉が開いた。 同時に貴明とマナは銃を開いた扉に銃を向けた。 「動かないで!」 「ひっ!」 「………え? 女の子?」 部屋に入ってきたのは今から5時間以上前に平瀬村で起きた激戦から命からがら逃れてきた水瀬名雪だった。 「ねえ、あなた………」 「いや……いやぁ! こないでぇぇぇ!」 「あ……」 ささらが一歩前に出ると名雪は泣き叫ぶように大きな声を発しながら一歩一歩後ろに下がっていく。 貴明とマナは銃を下ろし名雪を見た。 見るからに名雪は怯えている。それに肩には既に治療済みだが刺し傷があった。 (そうか……ゲームに乗った奴に襲われたんだな………) そう確信した貴明はマナとささらに「任せてくれ」と目で合図した。 マナとささらもそれに気づき黙って頷いた。 「お母さん、助けてよ……お母さん、お母さん……!」 貴明が顔を先ほど向いていた方へ戻す。 名雪は頭を抱えながら部屋の隅で震えていた。 「ねえ君……」 「ひっ!」 名雪が恐る恐る振り返る。その顔は涙と鼻水、そしてここまで走って逃げてきたことによる疲労でぐしゃぐしゃになっていた。 「……ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ……俺たちも生き残るために必死だから…… 俺たちは殺し合いには乗っていないし、君に危害を加えるつもりは無いよ。だから落ち着いて話を聞いてくれないかな?」 貴明は銃を床に捨て、両手を上げながら名雪に近づく。 ――普通の人間ならこれで騒ぎは終わっていた。だが、貴明のこの行動は今の名雪には貴明が自身を殺そうと近づいてきているようにしか見えなかった。 それほどまで名雪の精神はズタズタになっていたのだ。 「く……来るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 次の瞬間、名雪は恐ろしい形相でポケットから取り出したソレを貴明に向けた。 ―――支給品のルージュ型拳銃だ。 「!? 貴明さん!!」 「えっ!?」 刹那、危険を察知したささらが貴明を突き飛ばし、それと同時に…… ドン! ―――1発の銃声が民家に響き渡った。 ―――もちろん、名雪は自身に支給されたルージュが実は拳銃だったなんて気づいてはいなかった。 ただ恐怖心により、藁にもすがる思いで持っていたルージュを貴明に向け、偶然トリガーを引いてしまっただけだ。 「っ……」 僅かな呻き声を発し、ささらが床に崩れ落ちた。 「久寿川先輩!?」 「久寿川さん!?」 すぐに貴明とマナがささらに駆け寄る。 「だ…大丈夫………です…………」 ささらは左手で右肩を押さえていた。そこに弾が当たったんだなとすぐに貴明とマナは理解した。 それと同時に、ささらの制服の右肩部と床はみるみるうちに鮮血で真っ赤に染まっていった。 「すぐに止血をしないと………弾は……貫通してる…のか?」 ささらの背中を見ると制服の背中にも穴があったので、弾は貫通したと貴明は判断した。 「あなた……なんてことを………!」 マナはキッと名雪を睨みつける。名雪は先ほど以上に怯えていた。 「違う……違うもん………私………わたし……ワタシ……い…嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 そう叫ぶと名雪はルージュを投げ捨て、民家を飛び出していった。 「あっ……待ちなさい!」 「観月さん。それよりも今は先輩を……!」 「たかあきさん……マナ…さん……彼女を追ってください………」 「なっ……何言ってんだよ先輩!?」 「そうよ。このままじゃ久寿川さんが………」 「私は本当に大丈夫ですから………だから………」 貴明はささらの目を見た。間違いなくささらのその目は貴明に何かを伝えていた。 (―――! そうか……そういうことなんだな………先輩!) ささらが伝えたかったことを自分なりに理解した貴明はほんの少し、ほんの数秒の間口を閉ざしたが、やがてゆっくりと口を開いて言った。 「………悪いけど、それは無理だよ先輩……」 「そう…ですか……」 「そうよ。当たり前じゃ……」 「――追うのは俺だけだ。観月さんには残って先輩を見てもらう」 「はぁ!?」 「………はい……」 それを聞いたささらは右肩の激痛に苦しみながらもにっこりと微笑んだ。 「観月さん。先輩を頼むよ!」 貴明はそう言うと自分の武器とデイパックを持って家を飛び出していた。 「ちょ……ちょっと………あ〜もう!!」 取り残されたマナはそう叫ぶと仕方なくささらの応急処置を始めた。 「これは借りにしとくからね………絶対にあの子を連れて戻ってきなさいよ………」 「大丈夫…ですよ………たかあき……さん…なら……」 ささらはまた微笑んでマナに言った。 【時間:2日目5:45】 河野貴明 【場所:C−4・5境界(移動済み)】 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、名雪を追う(もちろん殺すつもりはない)】 観月マナ 【場所:C−4・5境界】 【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、支給品一式】 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、ささらの応急処置中】 久寿川ささら 【場所:C−4・5境界】 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】 【状態:右肩負傷(重症・出血多量・弾は貫通)、マナに応急処置をしてもらっている】 水瀬名雪 【場所:C−4・5境界(移動済み)】 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、青酸カリ入り青いマニキュア】 【状態:かなり錯乱している、観音堂(C−6)方面に逃亡(貴明が追ってきていることには気づいていない)】 【備考】 ・赤いルージュ型拳銃(弾残り0発)はマナたちのいる民家に放置 - BACK