「―――あいつは無事だったみたいだな」 2回目の放送を聞いた秋生はそう呟いた。 死者発表で呼ばれた中に橘敬介の名前は無かった。 卑劣極まりないという噂が立っている、しかし死に物狂いで自分達を逃がしてくれた男。 橘敬介が悪人かどうか秋生は判別出来ないでいたが、とにもかくにも敬介はあの後無事に生き延びたという事だろう。 だが敬介を仲間扱いしていた晴子という女は死んでしまったようだ。 彼女は間違いなくゲームに乗っていると断言出来るが、それでも人が死んだという事は良い気がしない。 出来ればあの場に残って争いを止めたかった。だが、しかしである。 隣で眠っている渚に目をやる。 あの後渚を抱えて鎌石村の外れまで逃亡し、民家に入って彼女の足の手当を済ませた。 その怪我は決して軽いと言えるものでは無い。当分は安静にする必要があるだろう。 岡崎朋也もこの場には居らず、早苗はもう死んでしまった。 唯一渚の傍にいる自分は、例え他人を見捨ててでも渚を守り続けなければならないのだ。 「まあ考えてもしゃあねえか……」 深みにはまる思考を中断し、まずは家を中をくまなく物色する事にした。 支給品セットは一人分しか持ってきていない。食料を調達する必要がある。 それに何か役立つ道具もあるかもしれない。まずはキッチンの方を探してみる。 すると冷蔵庫でそれなりの量の食料を発見する事が出来た。包丁も何かの役に立つかもしれないので持っていく事にする。 次に客間やトイレ、風呂や寝室などを探索してみたが、そこでは大きな収穫は無かった。 最後に奥にある書斎へと足を踏み入れる。すると机の上に一つのノートパソコンが置いてあった。 「こいつは……壊れてはいなさそうだな」 ロワちゃんねるに何か新しい書き込みがないか気になる。 今すぐにでも調べてみたい衝動に駆られたが、同じ家の中とは言え渚をあまり一人にはしておきたくない。 まずは渚が眠るリビングへとノートパソコンを運びこんだ。 手頃なテーブルの上にパソコンを置き、電源をつけて参加者の方へと書かれたファイルをクリックする。 しかし、ロワちゃんねるの中に書かれていた内容を見て秋生は驚愕した。 「あ……あの馬鹿、何やってやがんだ!」 そこには岡崎朋也の名の書き込みがあったが、その書き込みの内容が大問題だ。 朋也は誰が見るか分からない掲示板上で、堂々と落ち合う場所と時間を宣言してしまっている。 それは自殺行為に等しいという事が、秋生にはすぐ分かった。 ゲームに乗った者にこの事が知られれば間違いなく狙われるだろう。 これを書いたのが朋也本人だとすれば、朋也の命は風前の灯といっても差し支えない状態だった。 まずは朋也がもう一度ロワちゃんねるを見てくれる可能性に期待し、新たな書き込みをする。 5:レインボー:二日目 06:53:41 ID:JRstJ5Ip 馬鹿野郎! 誰がこの掲示板を見てるか分からないんだぞ……。 言ってる事は分からなくもねえが、状況を考えろ! こんな無茶はすぐに止めて、自分の身を守る事に集中しやがれ! 一抹の期待と共に大きな不安を抱きつつもパソコンの電源を落とす。 朋也はもうこの掲示板をチェック出来ないと書いている。この書き込みを見て貰える可能性は高くなかった。 幸い指定されている場所はここからそう遠くないので、秋生一人でなら朋也を救出しに向かうのは難しくない。 しかし、自分は渚を守らなければならない。怪我を負っている娘を置いていくのも連れて行くのもリスクが大き過ぎる。 だからといって朋也を見捨てたくはない。時間はまだまだあるがどうすれば良いか答えは出そうにもない。 あまりにも重い取捨選択を前に、秋生は苦悩し頭を抱えるばかりだった。 【時間:2日目午前7時頃】 【場所:B−3】 古河渚 【所持品:無し】 【状態:睡眠中。右太腿貫通(手当て済み)】 古河秋生 【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・包丁・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】 【状態:苦悩。左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】 - BACK