発動




「お疲れ様です、交替にきました」
「Oh、ササラ!」
「こっちは異常ないですよ」

寺の入り口付近にて談笑していた折原浩平と宮内レミィ、二人のもとへやってきたのは久寿川ささらであった。
あれからきっちり一時間、見張りを変わるために訪れたのであろう。
だが、一時間という短い間でで本当に休めたのだろうか、浩平の中で疑問が沸く。
・・・ほとんど眠っていないのではないか、そのような憶測も容易くついた。

「お二人とも、どうぞ休んでください。お疲れ様です」
「Ok!よろしくネッ」
「俺はもうちょっとここにいるよ。まだまだ目が冴えてるし」
「いいんですか・・・?」

遠慮深げなささらの視線に笑みを返す。
実際気絶していたとはいえ、体を充分に休めることのできた浩平にはまだまだ余力ができていた。

「頑張ってネッ!ワタシはRest roomに寄ってから戻るヨ」
「じゃあな、レミィ」
「おやすみなさい」
「また明日ネッ!!」

終始明るいレミィが去ると、場は一気に静まりかえった気がする。
たった一時間ではあるが浩平も彼女とは随分と打ち解けることができていた、レミィのテンションは嫌いじゃない。
しゃべり続けて一時間経ってしまったようなもの、それは非常に楽しい時間であった。
同じクラスにいたら絶対楽しかっただろう、そんな気さえしてくる。
すっかり意気投合した二人の様子に、ささらも微笑ましそうな視線を送ってきた。

「随分仲良くなられたんですね」
「おうよ。あいつ面白いヤツでさ、話してたらこっちまで乗せられちまったって感じだ」

まぁ、と可愛らしく笑うささらの笑顔に、これまた浩平も笑って答え。
・・・ゲームが始まってから、こんなにも朗らかな気持ちでいられるのは初めてであったから。
浩平は今いる仲間達の存在のありがたみに、心から感謝するしかなかった。

「それにしても、ボロっちいからもうちょっと過ごしづらいと思ったんだが。意外と頑丈にできてるな、この建物」
「そうですね。宮内さんと折原さんが話していらっしゃっていた際の声というのも、特に中には届いてませんでしたし・・・」
「マジか。・・・そういえば、それは?」

隣に腰掛けるささらの手には、何やら物騒なものが握られていて。
浩平にとってはどこか見覚えのあるそれを構えながら、ささらは彼の問いに答えた。

「真琴さんに借りたんです。護身にと思いまして」
「ああ、あのクソチビのか」
「・・・そういう言い方は可哀想ですよ」
「いきなり殴りかかってきた上に、人の荷物勝手に漁るようなのはクソチビで充分だ」




一方、その頃のクソチビこと沢渡真琴は。

「あうー、お腹がすいたのよ〜・・・なんで真琴がこんな窮屈な思いしなくちゃいけないのよ〜」

空腹を訴えるお腹を押さえながら、彼女は小牧郁乃と立田七海と同じ部屋にて休んでいた。
ほしのゆめみは電源のある部屋にて、バッテリーの切れたイルファの様子を見ていることになっている。
ささらもいなくなりますます寂しくなったその部屋で、真琴は一人もがいていた。
別に全く食事を摂っていないわけではない、だが見境なく支給されたパンに食いついている所を止められたため不満が残ってしまったということで。
おかげで彼女の空腹中枢は中途半端な所までしか満たされず、今も眠れず夜を過ごしているという訳だ。

「あれ、美味しかったなー」

思い出すのはつまみ食いしたダンゴの味。
可愛らしくつけられた表情に対する罪悪感など沸くはずもなく、真琴は甘いダンゴの感触を思い出し酔いしれていた。

「まだまだいっぱいあったわよね・・・ちょっとくらい貰っちゃっても、バレないわよね?」

すっかり熟睡してしまっている七海と郁乃を尻目に、真琴は一人こっそりと一箇所にまとめられた荷物の山に近づいた。
そして重なり合う荷物を片っ端から開け、中に手をつっこみだす。
部屋は暗く見通しは非常に悪い、手の感触でしか中身は特定できないような状態であったが真琴は気にせず荷物を引っ掻き回した。
・・・それ以前に、ダンゴの入っていた浩平の荷物は彼が持参して見張りについているのでここにはないのだが。
そんなことを真琴が覚えているわけもなく、彼女はひたすらひたすらダンゴを探し続けた。

カチッ。だが、場に響いたのは予想外の音であった。

「え?」

何かを押した音、そう・・・例えば、ボタンやスイッチのようなもの。
手を中に入れた勢いで当たってしまったらしい、真琴は恐る恐る指に触れるそれを取り出した。

「げっ」

見覚えのある物、それはささらに支給された正体不明のスイッチ。
・・・何が何だか分からないから保留と決めていたそれは、真琴の手によりしっかりと凹んでいた。
戻そうとしても戻らない、開閉式の鍵のようかと思いカチカチと連打しても変わらない。

「み、見なかったことにしましょ」

こっそりささらの鞄に戻し、真琴は荷物の山から遠ざかっていく。
・・・とりあえず、爆弾の類ではなくて良かったと、思った。





すぐ隣の部屋、充電をするイルファを見守る形でほしのゆめみは座っていた。
特にやることはない。むしろ彼女を見張りにおけば、他のメンバーは一晩ゆっくり休むことができただろう。
だが万が一、目が覚めたイルファに何かあった時対処できるような人材は彼女だけであった。
ゆめみはぼーっと無駄な時間を過ごし続けていた、それがいつまでも続くと思っていた
何かを特別意識することなく、虚空を見つめるその姿。
だがそれは、彼女の意識を乗っ取る存在が現れるまで。

『---------認証完了、プログラム2起動します』

紡がれたものは彼女の声だが、決して彼女の言葉ではないもの。
これが、彼らの平和な時間が終わりを迎える時であった。




【時間:2日目午前0時】
【場所:F−9・無学寺】

折原浩平
【所持品:だんご大家族(だんご残り95人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:見張り】

久寿川ささら
【所持品:日本刀】
【状態:見張り】

宮内レミィ
【所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、他支給品一式】
【状態:トイレへ】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:スイッチ押した】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:睡眠中、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:睡眠中、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)、他支給品一式×2】
【状態:充電中・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:異変】

【備考:食料少し消費】
-


BACK