いい加減誰か突っ込んでくれよ。俺様の方向性はこれで本当に良いのか? なし崩し的にどんどん他人と関ってる気がするんだが気のせいじゃないよなこれは。 今回の件もそうだ。助けるまではいい、武器も手に入りそこそこの活躍も出来たしな。 だがなんで俺様は今こんな全力で走ってるんだ。 郁乃のところに戻る必要はあるのか? そして久寿川と合流する必要も本当にあるのか? あの麻亜子とか言ったクソガキに対しての怒りは確かにあるが、ぶっ殺したい衝動まではなくなっていた。 貴明って奴の言葉のせいか、久寿川のあの泣きそうなツラのせいか、そんなことは知ったこっちゃねえが なんだかんだで俺様は無事に生きてるんだからほおっておいていいじゃねえか。 このままトンズラこいて、今度こそ当初の目的を果たせばいい。 そう考えてるのに身体は止まろうとしやしねえ。 いったいぜんたいどうしちまったんだろうな俺様は。 「あううーー、待ってよぉ」 後ろから聞こえた叫びに俺様は思わず足を止めた。 振り返ると沢渡が息を荒げながら必死に後を追いかけていた。 その顔には傍目からもわかるほどの大量の汗を流し、それでも離されまいと走っているのがわかった。 「チッ」 俺様は足を止めると、沢渡のそばに駆け寄る。 「早すぎるーっ!」 「おめえがおせえんだよ、ったく」 その言葉に頬を膨らませるも、ヨロヨロと力なく俺様の身体にもたれかかる沢渡。 「チンタラしてる時間はねーんだが……少し休むか?」 言うや否や、疲れのほうが勝っていた沢渡はコクリと頷いた。 思うように動かせない沢渡の身体を支えながら、沢渡を道脇に生えていた木の根元に座らせバックを開く。 「ほらよ」 取り出した水をゴクゴク一気に飲み干す沢渡を見て、何故か笑みが浮かんできた。 本当になんでだ。普段の俺様ならこんな奴気にせず置いていっただろうに。 瞬く間に空になってしまい、出てこない水を惜しむように水筒の傾けて舐めている。 やれやれ、しょうがねーな……。 「ほらよ」 自分で飲んでいた水筒を沢渡の前にかざす。 「え?」 その行動にたいしてキョトンとした顔で俺様を見つめてきた。 「足りないんだろ、飲んでおけ」 「いいの!?」 そう言って俺様の手から奪うように水筒を取ると一気にそれをも飲み干した。 大きく息をつくと満足そうに笑うと空になった水筒を俺様に戻すと「ありがとう」と小さく呟く。 なんだ、生意気なだけかと思ってたが素直なところもあるんじゃねーか。 「ねえ……高槻はこれからどうするの?」 「ああ?」 呼び捨てにされたことに思わずムッとしながら沢渡を睨みつけていた。 剣幕に怯えたように肩を震わせていた沢渡を見て思いなおす。 こんなガキに凄んでどうすんだ、ハードボイルドだろ俺様は。 「さっき久寿川と話したこと忘れたのか? 郁乃達を連れて久寿川たちのところへ行くさ」 「そうじゃなくて」 「あ?」 「最初は何をしようとしてたのかなって。探したい人とかいないの?」 「ああ……別にいねえな。逆に会いたくねえ奴らばっかりだ」 FARGOの連中の顔を思い浮かべる。間違いなく襲い掛かってくるんだろうな、めんどくせえ。 「お前はどうなんだ?」 「……祐一」 「ん?」 「祐一に会いたい」 「なんだ、お前のコレか?」 親指を立ててやるも意味がわかっていないようで「男か?」と言い直してやった。 小さく首を振るも少なくとも祐一って奴がこいつにとっての一番大事な奴には違いないことはわかった。 特に何かしてやろうって気はさらさらなかったが、結局こいつもコブつきかと思うと妙に苛立った。 久寿川もそうだったし、これから出会う奴みんな男持ちじゃねーよな……。 「そろそろ行くぞ」 俺様が立ち上がるのを見て沢渡も慌てて立ち上がろうとするも、身体をふらつかせながらその場に倒れこんだ。 「あれ?」 再び身体を起こすも、足がプルプルと震え俺様にのしかかってきた。 「……なにやってんだ?」 「あ、あれ……?」 おぼついて無い足で必死にしがみついてくる沢渡。 疲れがたまってるのか。それとも体調でも崩したのか。 沢渡の額に手を当ててみるも特に熱があるわけでも無い。 風邪を引いたってわけでもなさそうだし恐らく前者だろうな。 仕方なく溜め息をつきながら俺様は沢渡の身体を背中に担ぎ上げた。 「時間がねーんだ、このまま行くぞ」 このくらいの重さなら苦にはならんだろう。 そう思ってバックを持った俺様だったが、沢渡はジタバタと暴れながら頭をぽかぽかと叩いてくる。 「いててっ! なんだよっ!!」 「違うのーっ!」 「何が違うんだよ!」 「こう言う時って、前で抱きかかえてくれるんじゃないの!?」 言ってる意味が一瞬わからなかったが、冷静に考えてみる。 あー、何だ、前で抱える。つまりあれだろ? 俺様が? なんで? そんな傍目に見て恥ずかしいことを? その間も口を尖らせてブーブー文句を続ける沢渡。 実は演技じゃねーだろうなこの野郎。 ええいめんどくせえ。俺は意を決して沢渡の背中と足を抱えて走り出した。 そう、俗に言うお姫様抱っこ。あまりにも俺様のキャラにあわな過ぎて顔から火が出そうだ。 こんなところ誰かにでも見られようものなら立ち直れないかもしれん。 そう思った俺様は一心不乱に走り続けた。 たまに下を向くと満面の笑みで笑っている沢渡の顔があり、俺の腕を握り締めていた。 悪い気はしない、しないんだが良い気もしない。 ジレンマに耐え切れずますますスピードを上げ、気が付くと特に何事もなく数時間前にくぐった無学寺の門が眼前に見えていた。 ハードボイルド高槻 【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】 【状況:無学寺で郁乃達と合流、その後鎌石村に向かいささら達と合流予定。真琴をお姫様抱っこ】 沢渡真琴 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】 【状況:同上、お姫様抱っこでご機嫌。体がうまく動かない、原因不明】 【時間:二日目4:00頃】 【場所:無学寺到着】 - BACK