―――午前六時。 祐一達は氷川村にほど近い場所で第2回放送に聞き入っていた。 …… …… 24 神尾晴子 …… 「か、神尾晴子さんって、観鈴の―――」 「ああ。観鈴君の母親だろうね」 「くそっ、やっぱり……」 祐一は不安気味に、英二の背中で眠っている観鈴に視線を寄せていた。 今は眠っているが後でこの事実を知ったらどういう反応をするのだろうか。 きっと心にまで大きな傷を受ける事になるだろう。 だが放送はそんな祐一達の不安を意にも介さないように続けられていく。 …… 52 沢渡真琴 …… …… …… 99 美坂香里 …… (―――タカ坊や雄二は無事だったみたいね) 向坂雄二や河野貴明、朝霧麻亜子の番号が呼ばれる事は無く既に死者発表はそれ以降の番号へと移っている。 学校での揉め事のその後の顛末は分からないが貴明と麻亜子は共に命を落とさずに済んだという事だろう。 その事は環にとっては間違いなく喜ぶべき事であった。だが今回は前の放送の時とは違い仲間の身内が死んでいる。 神尾晴子は自分にとっては突然襲い掛かってきた敵に過ぎないが、観鈴にとっては唯一無二の大切な母親だったのだ。 環はとても安堵の息を漏らす気にはなれなかった。 「真琴……香里……」 呼ばれた同居人と級友の名に、祐一は唖然としていた。また一つ、彼にとっての"日常"が欠けてしまった。 だが同時に、あゆや芽衣の死を知った時ほど自分が動揺していないとも思った。 祐一は僅か1日で何度も大切な人や仲間の死を経験している。きっと、慣れてしまったのだ。 だが悲しみまでもが無くなるわけではない。祐一はもう二度と見れぬ香里の少し冷めた笑顔と、残された栞の事を思って。 真琴との楽しかった日々を思って。静かに目を閉じた。 しかし得てして不幸は連続で訪れるものである。これで終わりでは無かった。 …… 115 柚原このみ 116 柚原春夏 「う……嘘……でしょ……?」 大切な幼馴染の死に、環はがくんと膝から崩れ落ちた。 このみが死んだなんて信じたくない……しかしこの島ではいつ誰が死んでもなんら不思議ではない。 その事を十分に思い知っている環には、受け入れがたい現実を否定する事も出来ずただ両の瞳から涙を零す事しか出来ない。 英二も祐一も大切な者をなくした時の辛さは既に味わっている。環に対してなんと声を掛ければ良いか分からなかった。 ・ ・ ・ このみの死を知った環は心が張り裂けそうな痛みを感じていた。 彼女の"日常"が音をたてて崩れていく。傍に居て当然の存在が理不尽な形で奪われてしまったのだ。 環はこの結果を予想していなかった訳ではない。 貴明や雄二ならそう簡単に死ぬ事は無いだろうと思っていた。だがこのみだけは別だった。 このみはどう考えても殺し合いには不向きであり、一番危ない事は分かっていた――――分かっていたのに何もしてあげれなかった。 環の心は悲しみと後悔の念で覆いつくされていた。 だが今は感傷に浸っている余裕など欠片も無いのだ。貴明も雄二もまだ生きている。 きっと二人共今の放送で相当なショックを受けているだろう。 こんな時こそ彼らの姉として生きてきた自分がしっかりしなくてどうする。 環は涙を拭き、少しふらつきながらもしっかりと立ち上がっていた。 まだ笑顔を作る余裕は無かったけれど、それでも凛とした表情を取り戻していた。 まだ大切な存在は残っているから―――確かな強さを環は持つ事が出来た。 ・ ・ ・ 「すいません……もう大丈夫です。診療所はもう遠くない筈ですし急ぎましょう」 「環くん……良いのか?」 放送から少し時間が経過した後口火を切ったのは環だった。 英二が心配そうに尋ねるが環は静かに首を横に振った。 「観鈴が危ないんです……こんな所でゆっくりとはしていられません。 それに私達が無事にここまで来れたのはタカ坊が頑張ってくれたおかげです。 それを無駄にするような真似なんて出来ません」 「――分かった。もう明るくなったし奇襲される心配は少ないだろう……ペースを上げていこう。 それと、神尾晴子さんの事は暫く観鈴君には秘密にしておこう。今これ以上の負担をかけるべきじゃない」 「そうですね……。それじゃ向坂、英二さん、次は俺が観鈴を背負います。診療所へ急ぎましょう」 英二が先頭を歩き、環と観鈴を背負った祐一がその後に続く。 全員何かに耐えるような表情をしながらも前へ向かって歩いていく。 これまでのゲームの中での彼らの道のりは苦難の連続で、体も心も傷付きながらも彼らは生きてきた。 どうやらそれはこれから先も同じようで。 「―――あれは?」 診療所まで後数百メートルの所まで迫った時、彼らは二つの人影を発見した。 それは遠目には何の異常も見られない向坂雄二とマルチの姿だった。 【時間:2日目午前7:00】 【場所:I-07】 向坂環 【所持品:支給品一式】 【状態:疲労、後頭部に殴られた跡(行動に支障は無い)】 緒方英二 【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】 【状態:疲労】 相沢祐一 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】 【状態:観鈴を背負っている、疲労】 神尾観鈴 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】 【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】 向坂雄二 【所持品:金属バット・支給品一式】 【状態:マーダー、精神異常 服は普段着に着替えている】 マルチ 【所持品:歪なフライパン・支給品一式】 【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている】 ※雄二とマルチの血まみれの制服・死神のノートは雅史の死体がある家(I-7)に放置。武器に付着した血は拭き取ってある - BACK