鬼、その身を灼いて




その声を、柏木千鶴は静かに聞いていた。
静かに、握り締めた拳から、噛み締めた唇から鮮血を滴らせながら、聞いていた。

『―――ターゲット、柏木梓の殺害に成功したのは、芳野祐介さん。
 同じく柏木初音殺害に成功したのは、来栖川綾香さん―――』

梓の死は仕方ないと、自分に言い聞かせることもできた。
力量を読み誤り、無謀な相手に挑んだ結果だと。
荒れ狂う感情を、狩猟民族の血、そして家長としての責任で押し潰すこともできた。
しかし。

瞼を閉じれば、浮かんでくる。
小さな初音。いつも笑顔を絶やさなかった、優しい初音。
まだ可能性に溢れていた。望めば叶わぬ夢などないと、信じていられる歳だった。
恋も知らずに、死んでいった。

来栖川。
来栖川、来栖川、来栖川、来栖川来栖川来栖川。

千遍引き裂いてもまだ足りぬ。
万遍断ち割ってもまだ足りぬ。
三界に遍く苦しみという苦しみを、久遠に続く絶望という絶望を、味わい尽くして死ね。

流す涙が、雨に混じって地に落ちる。
見開かれた目をそのままに、鮮血滴る真紅の爪を打ち振って、千鶴は叫ぶ。

「―――出て来なさい……ッ!! どうせ見ているんでしょう……!!」

びりびりと、周囲の大気が震える。

と。
爪の一撃に薙ぎ倒された倒木の陰から、ひとりの少女がまろび出た。
白いワンピースを纏った少女は、しかしその幼い顔に似つかわしくない笑みを湛えている。

「気が、変わったみたいね?」

気の弱い者であればそれだけで縮み上がるような夜叉の双眸に睨まれながら、少女は平然と笑い返してみせた。

「―――いいわ。あなたに、力をあげる」

誰にも負けないくらいの力を、ね。
少女はそう言って、艶然と微笑んだ。




【時間:2日目午前6時】
【場所:G−5】

柏木千鶴
 【所持品:支給品一式】
 【状態:復讐鬼】

みずか
 【状態:目的不明】
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