「くぅっ!」 「きゃあ!さ、皐月さんっ?!」 予想だにしない場所から放たれた銃弾は、湯浅皐月の左腕を掠る。 すぐさま近くに落ちていた38口径ダブルアクション式拳銃を手に取り、皐月は弾の飛んできた方向に向かい発砲した。 ・・・反撃はない、逃げ出したのだろうか? それでも油断はできない状況である、皐月は集中して気配を探ろうとする。 そんな、突然の襲撃にも冷静に対処する彼女。一方柚原このみは呆けてしまっていて使い物にならない状態である。 本当に足手まとい、下手したら彼女はほんの些細なことで命を落としてしまうかもしれない。 「行って」 「へ・・・」 声をかける、返ってきたのはやはり予想通りの間抜けな声。 「さっさとどっか行って、今ならまだ逃げられるでしょ」 「で、でも皐月さんはっ・・・」 「悪いけど、あんた邪魔。これなら一人で相手した方がマシなのよ」 「でもでも、怪我してるし・・・」 「いいから、あんたのことまで気を回す余裕ないのよ!無駄死にしたくなかったらさっさと逃げなさい」 でも、とまだこのみが粘ろうとした時だった。 今度は部屋の入り口の方面から弾が飛んでくる、中に入り込んでくるつもりであろう。 牽制しながら部屋の隅に移動する皐月。ここは境内である、隠れられる場所というのも多くはない。 何とか彼女についていこうと、このみも後を追った。そして再び声をかける。 「な、なら一緒に逃げようよっ」 「馬鹿、目の前にせまってんのに逃げ切れるわけないでしょ」 「そんなぁ」 「・・・いいか、らっ!!」 「きゃあっ?!」 最初に弾の飛んできた方向とは逆方面の窓、空気を入れ替えるためにのみ存在しているであろうそこに皐月はこのみを押し入れようとする。 軋んだと思ったら窓枠ごと外れてしまうが気にしない、その小さな猫の勝手口のような場所は小柄なこのみだから通ったとも言えるだろう。 とにかく、皐月の力業によりこのみは外に放られた。彼女の意思とは関係なく。 「さ、皐月さんっ!!」 このみが叫んだ時だった、どちらのものか分からない銃声が次々と鳴り響いてくる。 ・・・今、このみにできることは、ない。 このまま突っ立てるだけでは何にもならない、せっかく皐月が作ってくれたチャンスを無駄にすることほどおこがましいものはないだろう。 だが、このみはそれでも動けないでいた。 (何も・・・できないの?このみには、何もできないの?) あせる彼女。そんなこのみの肩には、喧嘩していた最中もかけっぱなしであった支給品の入ったバッグがかかっていた。 一方、入り口から狙い打つように篠塚弥生は皐月を追い詰めようとしていた。 だが皐月も負けてはいられない。走りこみながら弥生に近づき、そのままハイキックを決め彼女の手からワルサーを落とす。 思ったよりも身のこなしの軽い相手に弥生も戸惑う、だがやられるだけというのも彼女の性には合わない。 (・・・ワルサーではなくレミントンを構えていれば、急所を仕留められたかもしれませんね) 試し撃ちをするかどうか考えていた彼女の前に現れたのが、このみと皐月の喧嘩をする情景であった。 そこからさらに近づき狙っていたという状態だったので、自分の構えていた銃の向き不向きなど考える余裕もなかったということだろう。 だが、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ない。今はできる限りのベストを尽くすだけ。 ワルサーを飛ばされた弥生は、それに執着することなくまず皐月の拳銃を塞ぐための行動を起こした。 冷静に彼女の右手を払いのけ銃を叩き落し、そのまま押し倒してマウントポジションを確保しようとする。 「あぐっ?!」 皐月の左腕、血の滲む銃弾の掠った箇所を押さえ込む。 傷自体は大した事ないのであろうが、それと痛みとは別である。皐月の反抗はすぐに止んだ。 「ふぅ、手こずらせてくれましたね」 「いい気にならないでよ、おばさん・・・」 「口だけは達者のようですが、状況を見てものを言った方がいいかと」 「ふざけ・・・ぐぅ?!」 「?」 両手を自らの手で縛りつけて、動きを封じていた皐月の様子が一変する。 「ぐ・・・ああああぁぁぁぁ!!」 「?!」 少女のものとは思えない動き、苦しむように全身使っていきなりもがき出した皐月に手が出せない。 拘束を外すためのものかと思った、だから弥生は一端引き様子を窺おうとする。 彼女の異変自体はすぐ収まった。 「・・・あれ?ここどこ、あたしってば一体・・・ぇ?」 まるで今目覚めたかのように言葉を発した瞬間、皐月の体は側面に吹っ飛ばされる。 躊躇いなく放たれた弥生の裏拳は、しっかりと皐月のこめかみにヒットした。 強く頭を打ったのだろうか、そのまま気絶してしまう皐月・・・弥生にも、彼女の変貌については理解できなかったであろう。 それはセイカクハンテンダケの効果が切れたということ、ただそれだけのこと。 本来は後十数時間もつはずだったであろうが、このみと争っていた際に吐き出したことが関係したのであろうか。 効果は予想だにできないほど突然消え失せた、それは最悪のタイミング。 「何にせよ、これでお終・・・がはっ?!」 弥生にとっては最大のチャンスであった、だから彼女は余裕を持って皐月に止めを刺せるはずであった。 しかし、言葉は最後まで紡がれない。 ガンッ!ギャンッ!!!グァンッ!!!! 瞬間、ひたすらモノを叩き潰そうとする嫌な音が場に響いた。 「さつきっ、さんにっ、何するのぉっ!」 弥生が振り返る間もなく、打撃の嵐が降り注いでくる。 頭を集中して狙われたためか、意識はあっという飛んでいった。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 もう弥生が再び動き出さないということを確認したうえで手を止めると、彼女はへなへなとその場に座り込んでしまう。 両手で握り締めた金属製のヌンチャクには、錆びてしまうとも思えるくらいの血がついていて。 同じくらい、それはこのみの制服にも飛び散っていて。 目の前には頭のひしゃげた女性の死体。ここにきて、このみの体を震えが走り抜ける。 ・・・皐月を守るためとはいえ、本当にやってしまった。この手で人を殺してしまった。 その事実はこのみの心を引き裂いていく・・・涙が、気がついたら溢れてしまったそれがこのみの顔中を濡らしていく。 「あ・・・うぁ、うああああぁぁぁぁんっ!!!」 やっぱり皐月を置いて逃げ出すなんてことは彼女にはできなかった、だからこのみはずっと機会を窺っていた。 皐月を助ける瞬間を、でもそのために弥生を殺すつもりなんてなかった。 ・・・ただ、加減が分からなかったから。それがこの結果を引き起こす。 境内に響くのはこのみの泣き声だけ、皐月が目を覚ます様子は、まだない。 湯浅皐月 【時間:1日目午後9時30分】 【場所:E−02・菅原神社】 【所持品:セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式】 【状態:気絶】 柚原このみ 【時間:1日目午後9時30分】 【場所:E−02・菅原神社】 【所持品:予備弾薬80発・金属製ヌンチャク・支給品一式】 【状態:号泣・貴明達を探すのが目的】 篠塚弥生 死亡 38口径ダブルアクション式拳銃 残弾数(6/10)、ワルサー(P5)装弾数(4/8)はそこら辺に落ちてます 弥生の支給品(レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)含む)は放置 - BACK