虚 〜うつろ〜




「太田さん、沙織ちゃん………瑠璃子さん………」
2度目の死者を発表する放送。それには瑠璃子さんたちの名前があった。
親戚の一人である源蔵さんの名もあった。
溢れだしてくる怒りで近くの壁を殴りそうになったが、なんとか耐えた。
怒りは次第に治まってきたが、その代わりとばかりに今度は虚無感が僕を満たしていった。

「長瀬さん…」
「祐介お兄ちゃん…」
一緒に放送を聞いていた初音ちゃんたちがそんな僕を心配そうに見つめる。
「――ごめん。大丈夫。大丈夫だから……」
口ではそう言ったが、実際は大丈夫な気分ではなかった。体にあまり力が入らない。
「――悪いけど、少し外に出てもいいかな? 外の空気が吸いたいんだ……」
そう言って僕は半勝手に家を出た。
初音ちゃんたちはそんな僕を止めなかった。多分気遣ってくれているんだと勝手に思う。


外に出た僕を迎えたのは辺りを包む妙な空気だった。
今は殺し合いの真っ最中だと嫌でも思い出させてくれる。

――少し歩いてみる。すると見覚えのある服を着た人を見つけた。僕の学校の女子制服を着た人だ。
いや――人というのは間違いだ。
だって『それ』はもう人ではなかったのだから。

「太田さん……」
かつて太田さんだったモノとその下に見知らぬ少年の亡骸があった。
2人とも銃で射たれて死んでいた。
さらにその近くには太田さんを殺した凶器と思われる弾切れのショットガンと太田さんたちのものであろうデイパックがふたつ落ちていた。
「………」
あまり墓荒らしみたいなことはしたくなかったが、今は少しでも役立ちそうなものが必要だ。だからデイパックとショットガンはもらっていくことにした。
弾切れの銃でも威嚇や鈍器の代わりくらいにはなるはずだ。それに、もしかしたらそのうち弾が手に入るかもしれないしね……


そうして僕はその場を去り、初音ちゃんたちが待つ家へ戻ることにした。もちろん去る前に太田さんと見知らぬその少年の冥福を祈るのも忘れない。

歩きながらふと空を見る。こっちは殺人ゲームの真っ只中だというのに空は何も知らずにいい天気――青い空であった。
――こういう日は高いところに行けば電波がよく集まるんだっけ?
でも、その電波を僕に教えてくれたあの人はもうこの世にはいない。
そういえば、さっきあのウサギがパソコンの画面に出てきて言ってたな、『優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる』って………
それはつまり、死んだ人を生き返らせるのも可能なのだろうか?
ならいっそのことかつての自分――大量殺戮に憧れに近い妄想をしていたころの自分に戻って……狂気に溺れてゲームに乗ってしまっても……
いやいや。なにを考えているんだ。そんなことしたら初音ちゃんたちはどうなるんだ。
恐ろしい考えを全力で否定する。
―――結果、虚無感だけが残った。

「――ねえ、瑠璃子さん。僕はこれから先どうすればいいかな……?」




【時間:2日目・午前6:30】

 長瀬祐介
 【場所:I−5、6境界】
 【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
 【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
 【状態:瑠璃子たちの死でやや自信喪失。少し惑いが生じている】

 宮沢有紀寧
 【場所:I−6上部】
 【所持品:スイッチ(5/6)、ゴルフクラブ、支給品一式】
 【状態:前腕軽傷(治療済み)、強い駒を隷属させる、祐介の帰りを待つ】

 柏木初音
 【場所:I−6上部】
 【所持品:鋸、支給品一式】
 【状態:祐介の帰りを待つ。目標は姉、耕一を探すこと】

【備考】
・祐介の他の荷物(コルト・パイソン(6/6)、予備弾×19、包帯、消毒液、支給品一式)はデイパックごと初音たちのいる家に置いてきている
・ベネリM3は貴明、北川の持つ散弾銃と同じ弾を使用する
-


BACK