一方、朗らか




コン、コン。それはノック音。
扉の前で構えていた水瀬秋子に緊張が走る、突然の客人は自分達に危害を加えるものなのかどうか。

・・・コン、コン。もう一度響く。
秋子は手にしたジェリコ941を構え、今一度相手の出方を窺った。

ゲームに乗った者がこのような愚行を起こすわけはないと思う、これなら中にいる人間に自分の存在をアピールするようなものであるから。
だが、この家の中に人がいるかを確かめるためにやっているとしたら。
また、この行為で特に自分に影響が出ないような支給品を持っていたとしたら。

油断は禁物だった・・・が。

「すみません、誰かいませんかね」

声。扉越しのそれに、秋子は聞き覚えがあった。

「え?あら、あなたは・・・」
「その声!秋子さんですか?!」

急いで扉を開ける、そこから現れたのは見知った顔--------名雪や祐一の友人である、北川潤であった。

「よかった〜、何かあそこの窓から湯気が出てたんで、ここなら人がいると思ったんすよ!
 まさか秋子さんだったなんてね、自分の運気に惚れそうだぜっ」

明るい笑顔、知人が無事であったことに対し秋子も安堵の笑みを浮かべる

「上がってください、一人では大変でしたでしょう。ここには名雪もいますから安心してくださいね」

快く向かい入れた潤の存在に対し、秋子の中の警戒心は一気に消え去っていた。



「おおっと!何やら見知らぬ顔がちらほらといらっしゃいますが、秋子さん」

居間らしき部屋に通された潤の目の前には、三人の少年少女がいた。

「ふふっ、みんないい子ですよ」
「うーあき、この男はなんだ?」
「名雪のお友達です、仲良くしてあげてくださいね」
「・・・ふむ」
「どうもっす、僕は春原陽平っす」
「いやはや初めまして、北川潤と申しますよ」

おしゃべりな潤が加入したせいか、場の雰囲気はさらに明るくなったようだ。
そんな光景を微笑ましそうに見つめた後、秋子は一人寝室の方へ向う。
・・・いまだ目覚めぬ名雪の容態が気になった、このまま目覚めないのでは、という不安も消えなかった。
だが、そんな現状を潤は知らない。
秋子の姿が見えなくなると、彼はそのことを陽平らに聞いてみることにした。

「あの、水瀬はどこにいるの?秋子さんがここにいるって言ってたんだけど・・・」

しん、と。和やかな雰囲気が一変する。
言葉を濁すように黙る陽平、潤には訳が分からなかった。
くい、くいっとブレザーの端を引かれたので目を向けると、スケッチブックを手に上月澪が名雪の状態のことを説明してくれた。

「そっか、そんなことが・・・」
「きっと大丈夫だって!目が覚めたらさ、元気な姿見せてくれるよ」
「そうだな・・・そうだよな」

励ましてくれているのであろう陽平に笑みを返す、さて。
とりあえず夜の越せる安全な場所は手に入ったのだ、ここからどうするかを潤は考えねばならない。

(水瀬がどうなってるかで、変わるかな)

とりあえずは彼女の目覚めを待つ、それが潤の出した結論だった。




一方、寝室。
秋子はまだその中に、なかなか足を踏み込めないでいた。
不安。あれだけ取り乱していた名雪が、目覚めてもいつものあの子でいてくれるかどうか。
・・・万が一、消せない傷を負ってしまっていたとしたら。
心が痛む、守ってやれなかったことに対する悔いが消えることなんてない。
秋子が立ち往生していた時だった、部屋の中から小さな囁きが聞こえてきたのは。

『・・・おか・・・さん?』
「名雪っ」

声、聞き間違えるはずのない娘の声。
秋子は瞬時にドアノブを掴み、急いで扉を開けた。
そこには、上半身を起こしてこちらを見つめる名雪の姿があり。
駆け寄る、傍まで近づき様子を窺おうとする秋子に対し、名雪はゆっくりと笑顔を作るのだった。

「お母さん、どこ行ってたの?寂しかったよ〜」

朗らかな声だった。
近寄ってきた秋子の腰にぎゅっと抱きつき、名雪は甘えるように頭を摺り寄せる。

「な、ゆき・・・大丈夫なの?どこか、変だったりしない?」
「うーん、ちょっと肩が痛いかな。でも平気だよ、だってお母さんが手当てしてくれたんだもん」
「名雪・・・よかった、よかった・・・」
「え?お母さん??」

ぎゅっと抱きしめる。世界で一番大切な存在を、もう絶対離したりはしたくなかった。
いたいよ〜という、のんびりとした声が嬉しかった。
それでも腰にまわした手を離さない、甘えん坊な所が愛おしかった。
いつもの名雪がいつもの名雪でいてくれたことに対し、最大限の感謝をする。

「よかった、よかった・・・あなたが、あなたでいてくれて・・・」
「もう、お母さんってば・・・心配性だな〜」

名雪の言葉ごと包み込むように、秋子は一筋の涙を流しながら彼女を抱き続けるのだった。




【時間:2日目午前1時】
【場所:F−02】

水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、
 支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
 ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】

春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:普通】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:普通・疲労回復。服の着替え完了】

上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:普通・浩平やみさきたちを探す】

水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
 赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:普通・肩に刺し傷(治療済み)】

北川潤
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:考え中】
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