一発の銃声、それで平和は崩された。 信じられないような光景だが、柏木耕一はそれを受け入れなければいけなかった。 すぐさま隣で呆けている長岡志保の腕をとり、こちらに向けられた敵意を避けるべく横に転がる。 瞬間、彼らのいた場所には数発の銃弾が撃ち込また。 突如現れた襲撃者は、静かに語った。 「・・・大人しくしてちょうだい、時間がないの」 彼女の足元には住井護だったモノが沈んでいた。 突然の来襲の犠牲者一号目、しっかりと眉間を銃弾で撃ち抜かれた彼が再び動き出す気配は皆無。 まさかの不意打ちに、耕一の背中を冷や汗が走る。 眠っていたはずの川澄舞や吉岡チエも、何事かと起きてきた。 耕一は彼女等を庇うようにし、一端近くの森林地帯へ逃げ込む。 慌てた様子を見せることなく、襲撃者・・・柚原春夏は、四人を追い詰めるよう歩を進めるのであった。 平瀬村の民家にて水を補充した耕一等は、一端そのまま村を出た。 ・・・民家の近くに、死体が転がっていたからだ。 いつ頃に犠牲が出たものかは分からない、けれど今もまだ近くに犯人が潜んでいた場合この場所はあまりにも危険であった。 次に夜を越すのに五人が選んだのは、森林地帯であった。 身を隠すにはもってこいの場所、視界も悪くゲームに乗った者にも見つかりづらいだろう。 だが。 「・・・これ、あんま意味ないんじゃ・・・」 「俺もそう思ってたところだ・・・」 今、五人はその森林地帯を抜けた広い平原上の広場にいた。 何故こうなったかというと。 「なーによ、あんな湿った場所じゃ志保ちゃん寝れないものっ。」 そんな彼女の一言で、だ。 舞やチエといった牛丼覇者初期メンバーは既に眠っている、男性陣が先に見張りをしてその次に女性陣と交替することになっていた。 だが、事の元凶の志保の目が冴えてしまっているらしく、彼女は寝付こうとせずこうして耕一や護と共に雑談をしている訳で。 「長岡さんも休んどいた方がいいよ、明日も何があるか分からないんだから」 「平気よ〜、志保ちゃんの体力を甘くみんじゃないわよ?」 「ははは・・・」 思わず出てしまう苦笑い。それでも、和やかなムードだった。 ここまでは。 ガサッという物音、そこから現れた一人の女性。 全てはそれで、狂う。 元々姫百合姉妹を殺害した後、春夏は平瀬村に向かうつもりであった。 ただ、迷いを拭えず足を逆方向に動かしてしまっただけで。 貴明のおかげで進路が決まった今、彼女はとにかくタイムリミットまでに参加者を一定数殺害しなければいけないという枠に捕らわれることになる。 闇雲に参加者を探そうとしても、時間ばかりの浪費になってしまう可能性を春夏は恐れた。 だから、彼女は人が絶対いるであろう場所を求め歩き出す。 目安はついていた。 そう、あの姫百合姉妹を殺した場所付近には、確かに人の気配があった。 春夏はそれを求め、今一度その場所へと向かうことにする。 ・・・殺してしまった少女達の遺体を再び見るのは非常に心苦しかったが、全てはこのみのため。覚悟はできていた。 あれから数時間経ったあの場所、戻ってきてみたものの気配は当に消えていた。 そこにあったのは戦闘の後、既に決着はついていて血溜まりの中にある一つの死体がそれを物語っていた。 遅かったか、とショックを受けるものの、春夏はここでもう一つ気づいたことがあった。 ・・・どうにも、山頂の方が騒がしいのだ。 近くに神社があったのでそこもチェックしておきたい思いもあったが、それより確実に人がいる場所を突き止めたかった。 春夏は迷わず、頂上付近への移動を決意したのだった。 「川澄さん、二人を連れて逃げて」 「耕一?」 魔の手は迫ってくる、四人には一刻の猶予もなかった。 「俺が足止めるから。長持ちするかは分からないけど・・・」 「そんな、危ないっスよっ!」 「このまま皆で蜂の巣になるわけにはいかないだろ。 ・・・もし、あの人に対抗できそうな人がいたら、連れてきてもらえるとありがたいけどね」 「分かった」 「ちょ、ちょっと!川澄さん?!」 まだ渋る志保とチエの腕を掴み、舞は移動する準備をする。 「・・・耕一、死なないで」 「簡単には死なないさ、常人よりは丈夫にできてるからね」 「二人を安全な場所に届けたら、戻る」 「いいよ、別に」 「・・・」 「そんな目で見ないでくれよ・・・ほら、来るよ」 これ以上の問答し続ける時間はない、耕一は今一度目の前の敵に意識を集中させるのだった。 手にしたハンマーに力を込める。相手は銃だ、余程の策を練らない限り耕一に勝ち目はない。 ・・・だが、そんなことを考える時間すら、彼には与えられなかった。 「3,2,1・・・」 小さな掛け声、それに合わせて間を整える。 よーい、どん。合図と同時に耕一は春夏へ、舞達は鎌石村方面へ向かい駆け込んだ。 「・・・っ、逃がさないわよ」 「悪いけど、こっちも犬死するわけにはいかないんでね!」 逃げようとする舞の背中を狙おうとする春夏、耕一はそんな彼女に向ってハンマーを振り下ろした。 「くっ!」 どうしてもスイングは大きくなってしまう。春夏はバックステップを踏みながら軽くかわし、よろけた体勢のままS&Wを放ってきた。 銃弾を避けるべく、耕一はまたも平原を転がる、彼女もまだまだ撃ち慣れてはいないのだろうか照準がめちゃくちゃだったことに運を感じる。 一分にも満たない時間だが、春夏を引きつけることはできた。 その間で舞達が平原を離脱することもでき、とりあえずの目標は達成となる。 (さて、どうするか・・・) 耕一にとっては、ここからが問題であったが。 【時間:2日目午前2時15分】 【場所:F−5・神塚山】 柚原 春夏 【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】 【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】 【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/Remington M870(残弾数4/4)予備弾×24/34徳ナイフ(スイス製)】 【状態:このみのためにゲームに乗る】 【残り時間/殺害数:11時間04分/4人(残り6人)】 柏木耕一 【所持品:大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】 【状態:春夏と対峙、柏木姉妹を探す】 川澄舞 【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】 【状態:志保、チエを連れ逃亡、祐一と佐祐理を探す】 長岡志保 【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・他支給品一式(水補充済み)】 【状態:舞と逃亡、足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】 吉岡チエ 【所持品:支給品一式(水補充済み)】 【状態:舞と逃亡、このみとミチルを探す】 住井護 死亡 住井の支給品(投げナイフ×2含)は放置 - BACK