「ん……あれ? ここどこ?」 懐中電灯が照らす鷹野神社の境内で神岸あかりは目を覚ました。 現在部屋に人はあかりしかいなかったが、自分のもの以外のデイパックが部屋にあったので自分の他にも誰か人がいることを理解した。 「……そういえば、どうして私学ランなんて着てるんだろう?」 「お。やっと起きたか」 「あ……」 あかりが学ランを着ていることに疑問を抱いたのと国崎往人が部屋に戻ってきたのはほぼ同時だった。 「傷の具合はどうだ? まだ痛むか?」 「――傷?」 何を聞いているんだろうと思ったあかりだったが、刹那、あの時の記憶が少しずつ蘇ってきた。 (そうだった。私、あの時――) 「どうした? もしかしてまだ痛むのか?」 「――あ。いえ。もうそれほど痛くはありません。大丈夫です」 「そうか。そりゃあよかった」 「あの……助けてくれてありがとうございます。私、神岸あかりといいます」 「国崎往人だ。まあ、そのことは気にするな。俺もここに来る途中にたまたま傷だらけのおまえを見つけただけだからな」 そう言って往人はあかりの近くに腰を下ろす。 近くではっきりと往人の顔を見たあかりは彼の顔(特に目つき)が少し悪者っぽかったので一瞬ビクッと反応してしまった。 しかし、数秒後には往人は外見こそワルっぽく見えるが悪い人ではなさそうだと思い安堵した。そして、安心したところで一番聞きたかった疑問を尋ねてみる。 「あの……この学ランって国崎さんが?」 「ん? ……あ、ああ。おまえの学制服とその……下着は…あ〜……なんだ? ビリビリに破けていたから代わりにそいつをな…… ――あ。か、勘違いするなよ! 決してやらしいことをしようとして脱がしたわけじゃないからな!」 あわてて弁解する往人。 やむを得ずとはいえ男の人に服を脱がされた――すなわち自身の裸体を見られたということは少しアレだが、そんな往人の様子を見ていたあかりは不思議と笑みが零れてしまった。 「な…なぜ笑う?」 「さて……神岸はこれからどうするんだ? 俺は一刻も早く知り合いを探しだして合流しようと思っているんだが……」 「私も早く浩之ちゃんたちと合流したいと思っています。でも………」 「―――それなら俺と一緒に行くか? 生憎、俺には戦える武器は持ってはいないが、1人よりも2人のほうが安全だと思うぞ?」 「いいんですか? 私――絶対足手纏いになっちゃいますよ?」 「構わないさ。それに……おまえ俺が探してる奴の1人にどこか似てるんだよな。なんか放っておけないところとか……」 「はぁ……そうなんですか?」 いったいどんな人なんだろうと、あかりはその往人の探しているという人の姿を想像してみる。 「――で。どうする? 時間が惜しいから俺はすぐにここを発つが……」 「――――私も行きます。いつまでも待っているだけじゃいけませんから」 「よし。それじゃあ荷物をまとめてすぐに出発するぞ神岸」 そう言うと往人は立ち上がり自分の荷物をまとめはじめた。 「はい」 あかりも頷くとすぐさま自分の荷物を手に取った。 ―――先程よりやけに軽くなっている気がした。 「あれ? なんか軽くなっているような……」 ――ギクッ あかりのその言葉に一瞬妙な反応をする往人。 あかりは不思議に思い、デイパックを開いてみた。 すると…… 「ああーーーっ! パンと水が全部なくなってるーー!!」 そう。デイパックに入っていたはずの自分の食料と水が全て空になっていたのだ。軽いはずである。 「ま…まさか…国崎さん……」 「あ……あ〜…腹が減ったから…ついな……」 「ひどいですよー! 自分のがあるじゃないですか!」 「ほ、ほら、アレだ。助けてやった礼の代わりと思って我慢してくれ」 「そ、そんな〜…私これからどうすればいいんですか〜……?」 「と、とにかく。早く行くぞ神岸!」 そう言って往人は懐中電灯を拾うと外へ飛び出した。 ――いや、こういう場合『逃げた』というほうが正しい。 「ああっ!? 逃げ…じゃなくて。待ってください、国崎さん!」 それを追うように(いや、実際追っているのだが)あかりも境内から再び月明かりが照らす外へと飛び出した。 【時間:2日目・午前3時】 【場所:鷹野神社外(F−6)】 国崎往人 【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】 【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】 【状態:満腹。あかりと知り合いを探す】 神岸あかり 【所持品:水と食料以外の支給品一式】 【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)】 【備考】 ・あかりの破れた制服と下着は境内に放置 - BACK