折原浩平が無学寺を訪れる少し前のこと… あれからそこそこ時間が経っているというのに、アイツときたら全然戻ってきやしない。まったく、待たされるほうの身にもなってみなさいって感じよ。 アイツから手渡された回転式拳銃を見ながら、私は頭の中で文句を言っていた。いや、実際は文句でも言ってなければ不安で仕方ないのよね。拳銃があっても車椅子だからみんなを守れるかというと…とてもじゃないけど自信がない。 べ、別にアイツを頼りにしてるとかそんなんじゃないからね。いないよりはマシってやつよ。 「小牧さん、さっきからぶつぶつ言ってますけどどうかしたのですか?」 「な、何でもないわよ…」 どうやら口に出していたらしく、私は慌てて言い訳する。ああもう、何でかアイツのことばかり意識してしまう。こんなことがお姉ちゃんに知られたらどうなることか… 「ねえ、ゆめみ」 だから私は考えを反らすためにゆめみに話しかけた。七海のことばかり気にかけていたせいであまり彼女とはロクに話をしていなかった。 「はい、何でしょう?」 「あなた、コンパニオンロボットとか言ってたようだけど…具体的に、どんな仕事をするの?」 するとゆめみははきはきとした朗らかな声で答える。 「はいっ、わたしはプラネタリウムの解説員をする予定です。本日はわたしの試験運用としてここへ来たのですが…」 「それで巻きこまれたってワケ?」 「はい、そうです」 災難なものねぇ…念願の初仕事が殺し合いとは。私以上に根性が悪いわね、主催者って。 それにしても…プラネタリウムか。私は行った事がない。目が悪かったからなぁ。 「プラネタリウムって…どんな所?」 「プラネタリウムですか? そうですね…」 ゆめみは私から少し離れると両手を広げて優雅に語った。 「わたしたちを取り巻く、無数の星の数々。その星々には、たくさんのひと達が遥かな昔から夢を抱き続けてきました。今宵は、そんな夢の世界をわたしと一緒に旅をしてみましょう」 ゆめみはそこで一呼吸置くと、口調を元の感じに戻して、 「…とまあ、そんな感じでわたしが語り手になって天井に映し出された季節の星座をお客様に説明していくんです。たまに特別上映を行ったりもしますが」 「へぇ…星座のこととか、全部分かるの?」 「はい。わたしの情報データベースには星座にまつわる伝説、星そのものの情報、そして画像データなどがインストールされています。ホログラフ機能を使って映し出すことも出来ますよ」 便利なものね。それでも試験用ということで最低限の機能しかないのよね。事実、運動機能なんかは見る限りかなり頼りないと言わざるを得ないし… ふと、私は気になったことを尋ねてみる。 「ね、フラッシュメモリとかって、読み取れたりする?」 「あ、はい。わたしの頭部にはUSBポートも備わっていますので情報を読みとってスクリーンに映すこともできますが」 やった! 私は思わず似合わないガッツポーズをした。前々から気になっていたこのメモリ。どんな情報が入っているか分からないけど支給品である以上有益なものには違いない。 「それ、使わせてくれないかしら? 私達の支給品にメモリがあって」 「分かりました。…ですが、少し恥ずかしいので接続する時にはちょっと後ろを向いててもらえませんか?」 恥ずかしい? 私は首を傾げたけど、まあロボットにとっては見られたくない部分なのかもしれないわね。 私は頷くとゆめみから目を反らした。ありがとうございます、という声が聞こえた後数秒たって完了しました、という声が聞こえたのを確認して私はゆめみに寄って行った。 「で、どう? なにかある?」 「はい、少しお待ち下さい。ファイルをホログラフに映しだしますので」 パッ、と寺の壁に映し出される映像。パソコンと大差ない映像だった。いくつかのファイルがあるようだけど… 「色々種類がありますね…どのファイルを見られますか?」 「う〜ん、もうちょっと拡大できない? 少し見づらいんだけど」 言った直後に拡大された。流石はロボット、といったところか。私は一番最初のファイルを見る。 「『今ロワイアル支給武器情報』…これ、選べる?」 こんな機能があるのだったらもっと早くに言ってほしかった。とは言ってもメモリがあるなんてゆめみは知らなかったんだし、私だって同じなんだけど… ゆめみは頷くとファイルを開く。そこには参加者のものと思しき支給武器の画像があった。 「すごいわね…どうやって集めたのよ、コレ」 呆れるくらいに感心する。それから先に進めていくと、実に色々な武器があることが判明した。拳銃は元より、ウォプタルという奇怪な動物、首輪を作動させるリモコン、古河パン…あ、アイツの武器ってやっぱあのポテトだったのね。 死んでしまったレミィの所持品はゆめみだった。レミィの名前を見て、ゆめみが落ちこんだ表情をする。もちろん、私も同様だった。 「ゆめみ、もうコレはいいわよ。閉じて」 わかりました、と言ってゆめみがファイルを閉じる。ざっと流し読みしてみて、気になるものはいくつかあった。 武器もそうだが、もう一つフラッシュメモリがあること、そしてささらの支給品であった謎のスイッチだ。 一度見せてもらったときには何が何やらさっぱり分からなかったがこのファイルには別のことが書かれてあった。 最後の行には『cancellation』、つまり『解除』と書いてあった。それ以外には何も書かれてない。ならば何を『解除』できるかということだが、首輪と考えるのは早計だろう。 そんなことをしたらまず間違いなく参加者は主催者に歯向かうだろうし、主催者にとってはデメリットしかないのよね…それに、戦闘中にスイッチはいつでも損壊する恐れがあるし。 だったら、主催者に『解除』されてもメリットがありなおかつ壊れてもどうでもいい…それは一体何なのかしら? テキストとのギャップも気になる。説明書には『充電式で何度でも使える、すぐ楽になれるもの』とあったが…全くのデタラメという可能性もなくはないけど… 結局のところ、まだ何も分かりそうになかったのでそれについては後回しにすることにした。 「小牧さん、他のファイルも調べてみますか?」 「ううん、今はもういいわ。残りはみんなが戻ってきてからにする」 ゆめみは分かりました、といってホログラフを消し、メモリを抜き取って私に返した。 私がそれを仕舞ったとき、床で寝ていた七海から呻き声が聞こえた。 「あっ、立田さんが目を覚ましたようですね。行きましょう小牧さん」 ええ、と言って私とゆめみは七海の側まで行った。 「うん…?」 「気がつかれましたか?」 「うわぁ!?」 目を覚ました七海は自身の目の前にいたゆめみに対して思わずすっとんきょうな声をあげた―― 【時間:2日目AM3:30】 【場所:無学寺】 小牧郁乃 【所持品:S&W 500マグナム(残弾13発中予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】 立田七海 【所持品:フラッシュメモリ、他支給品】 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】 ほしのゆめみ 【所持品:忍者セット、他支給品】 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】 - BACK