「医者を探すといっても何処に行けば良いんだ……」 祐一は学校の正門を出た所で足を止め、頭を抱えていた。 祐一達は観鈴の治療の為に霧島聖を探さねばならなかったが、聖の居場所に見当がついている訳ではないのだ。 この広い島の中を手当たり次第に探し回ったのでまず発見出来ないだろう。 歩き出す前にある程度行き先を絞っておく必要があった。 「ふむ……」 英二は少し考えた後口を開いた。 「まずは診療所に向かってみよう。医者ならそこにいる可能性が一番高い筈だ」 「そうね……もしいなかったとしても治療に役立つ道具はあるでしょうしね」 診療所までは距離があったが、他に良い選択肢はない。 今は診療所へ向かうしか無かった。 行き先が決まった所で、英二は校舎の方へと振り返った。 (芽衣ちゃん……埋葬もしてあげられなくてすまない。でもきっと君なら観鈴君を救う事を望むと思うから……) 祐一にも環にも聞こえないくらいの小さな声で、 「芽衣ちゃん、行ってくるよ」 英二は最後にそう呟いた。 こうして彼らは診療所へ向けて歩き始めた。 ・ ・ ・ 「英二さん、次は私が背負いますよ」 「いや、女の子に背負わせる訳には……」 「大丈夫ですよ、これでも力には自信がありますから」 これまでずっと英二と祐一が交代で観鈴を背負っていたが、流石に二人とも疲れが見え始めていた。 それを心配した環は気丈な笑みを浮かべながらそう言ったが、別段彼女は筋肉質な体型には見えない。 「まるで男みたいな台詞だな」 英二がどうするか迷っている間に横から祐一が茶化す。 その時どこかでピキッという音が聞こえ、周りの気温が数度下がった気がした。 すいっ、と環の手が祐一の顔に向けて伸びる。 「ん、どうした向坂?」 「だ〜れが、男みたいですって?」 祐一の顔を掴む環の手に渾身の力が籠められた。 メキメキメキという嫌な音があがりそうな程の握力で祐一の頭を締め付ける。 「あだだだだっ!!割れる割れる割れる!!」 たちまち祐一の悲鳴が辺りに響き渡る。 ぱっと手を離すと、祐一は地面に崩れ落ちた。 祐一は暫くの間頭を抑えて呻いていた。 「…………」 「こういう訳ですから、私に任せてください」 環が呆然としている英二の方へ振り向き、にっこりと笑みを形作りる。 その笑みが今の英二には何よりも恐ろしく感じられた。 「あ……ああ、それじゃよろしく頼むよ」 英二は引き攣った笑いを浮かべながら、観鈴を環に託した。 すると環は軽々と観鈴を背負い歩き出した。 その後ろを祐一と英二が続く。 「……少年、最近の女性は怖いな」 「全くですね。古き良き時代はもう過ぎ去ったのか……」 祐一はまだ痛む頭を手で抑えている。 彼らは環に聞こえないような小声で話しながら、うんうんと頷きあっていた。 【時間:2日目午前4:00】 【場所:F-09街道】 向坂環 【所持品:支給品一式】 【状態:健康、観鈴を背負っている】 緒方英二 【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】 【状態:祐一と共に古き良き時代の思い出に浸っている。疲労】 相沢祐一 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】 【状態:英二と共に古き良き時代の思い出に浸っている。疲労】 神尾観鈴 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】 【状態:脇腹を撃たれ重症、環に担がれている】 - BACK