民家を虱潰しに探してタ−ゲットを探すかどうか。 そんな体力の消耗の仕方を、来栖川綾香は望まなかった。 それにまず求めたかったのは休憩場所だ、いい加減精神的にも肉体的にもつらい面がでてきていたから。 ・・・ダニエルを撃ったことに対する後悔の念はもうない、とにかく自分はゲームに乗ると決めたのだから。 S&Wを片手に歩く、綾香は平瀬村を出て森に身を潜めるつもりだった。 一人で身を隠すのであらば、村という集客性の高い場所はそぐわない。 周りに充分気を配りながら、誰にも見つからないようにと綾香は細心の注意を払った。 だが、それは無残にも無意味と化す。 「そこの人〜、おーいそこの黒髪美人〜」 「え?」 呑気な声、まさか自分へのものだとは思わなかった。 呆然。何の警戒心もなく、一人の少年がこちらに向かって駆け寄ってくる・・・何故か割烹着というのも含め、あまりのインパクトに綾香の思考が一瞬止まる。 「はいはいはい、どうもこんにちは。夜道の一人歩きは無用心ですよ、何ならボディガードでもいりませんかね?」 「・・・あなた、凄いわね」 「はい?」 容赦なくS&Wの銃口を突きつける、返ってきたのはやっぱりどこまでも間抜けな声。 「少しは身の危険を感じたら?私達、殺し合いをさせられているはずだけど」 「え、ちょ・・・そんな、いきなりっ?!」 「いきなりもクソもないでしょ。自分の馬鹿さ加減に後悔でもすれば?」 嫌味なくらい意地悪な笑みを浮かべた。その、つもりだった。 だが目の前の少年はそれ以上慌てた様子を見せず、今度はニヤニヤと笑い出してきて。 ・・・気味の悪さに綾香の中で不信感が増す、これはどういうことだ? 答えは、少年の口から語られた。 「ああ、でも大丈夫。ほら、だってその銃安全装置ついたまんま」 「え?」 勿論、そんな訳はない。綾香は確かに手にするこれで、自分の家で働く執事を殺したのだから。 ・・・だが、それで彼女が隙を作ってしまったのは事実であった。 一瞬のうちに目の前の少年は懐からショットガンを出し、自分と同じようにそれを水平に構えてくる。 図られた、と気づいた時は既に後の祭りだった。 「はーいはいはい、これで五分と五分っつー訳で」 「・・・ただの馬鹿、じゃあないってワケね」 「怒んないでくださいって、用件だけ済ませてさっさと立ち去るからさ。人探ししてんの、協力してくれよ」 ふぅ、と一つ溜息をつき、綾香は今一度少年の目を見やる。 油断はできない。銃を引く気にもとてもなれない。 ・・・だが、この話の流れは、綾香にとっても都合は良かった。 あの女、「まーりゃん」の情報を得られるかもしれない。・・・話が終わるまでは下手に出る、それが綾香の出した結論だった。 「いいわよ。ついでに、私も探してる子がいるのよ。質問させてもらっていいかしら?」 「オッケーオッケー、じゃあ、まずこっちからでいいかな?・・・相沢祐一と美坂香里。聞き覚えあります?」 「ないわ」 「こう、タートルネックのインナーの制服の男子と、ケープつけた赤い制服の女子は?同じ学校なんすけど」 「分からないわね。そういう服装の子は、本当に見たことがないわ。・・・次、私の方いいかしら」 「ええ、どうぞどうぞ」 「まーりゃんっていう女の子を探しているの。一緒にいたんだけど、はぐれちゃって・・・」 「まーりゃん?」 本名は分からなかった。だから、このような言い回しにした。 「ええ、そうよ。服装は・・・今は着物を着ていたと思うの。知らないかしら」 「うーん。もしかして、まーりゃん先輩のことですかね?」 「?!知ってるのっ」 「ええ、学校の先輩です。ぶっちゃけ口聞いたこと無いんで面識は皆無ですけど。有名人ですから」 「・・・彼女の本名、教えてくれる?」 「いいですよ。『川澄舞』です、っていうか先輩ならあっち歩いてましたけど」 「嘘っ!!!」 少年の話に鼓動が早まる、思わず声を荒げてしまう綾香。 いきなりの展開に興奮が抑えられなかった。 ・・・探していたあの少女の名前が分かったならまだしも、居所を知る機会がこんなにも早く与えられるなんて、と。 腸の煮え返る感触が蘇ってくる。そんな綾香の様子を気にも留めず、少年は話を続けた。 「あっちの山の方、何か楽しそうに大人数で固まってた気が。ただ、見かけたのちょっと前だったもので、急いだ方がいいかも?」 「どっち、どっちの方なの?!!」 「えーっと、ちょうどここを真っ直ぐ行った・・・って、ちょっと?!」 少年の言葉を最後まで待たず、綾香は駆け出していた。 ・・・晴香をあんな目に合わせといて、自分は仲間を作ってるということ。それは絶対に、許せない行為。 綾香の中で膨らんでいた怒りが臨界点を突破する・・・その仲間ごと、目の前で皆殺しにしてやる。 決意は瞬時に固まった。 「ああそうそう、俺は・・・『春原陽平』です!金パツの春原!よろしくお願いしますよ〜」 後ろから響く少年の声、だが気にしてなんかいられない。 綾香は彼の指し示した方向へ、とにかく全力疾走するのだった。 「おーおー、頑張れよーっと」 勢いよく走り去っていく綾香の背を、北川潤は頭に被っていた頭巾をハンカチのように振りながら見送った。 ・・・正直もうちょっとつっこまれるかなーと思ったが、どうやらそれは杞憂のようで。 あそこまで熱くなりやすいっていうのもどうかと。彼女の先行きが不安になるが、まぁ潤には関係のないことだ。 短い時間で一人を混乱させることができたという結果には満足している。 ・・・ただ、少々強引な面が強いので、化けの皮というのもすぐ剥がれるだろう。 自分の知り合いを祐一、香里と語ったことからいつかは彼女も潤の存在を突き止める。 でも、それでいいのだ。 嘘で固めるより、ある程度の本当のことを混ぜた方が人は躍起になって真実を求めようとするのだから。 その「ある程度の本当」を頼りに綾香が潤のことに気づくのは、まだきっと先のこと。 「それまで充分、踊っといてくださいな」 そう言って、潤は綾香とは逆方面・・・平瀬村へと、歩を進めるのだった。 来栖川綾香 【時間:1日目午後11時】 【場所:F−2】 【所持品:S&W M1076 残弾数(6/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】 【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】 北川潤 【時間:1日目午後11時】 【場所:F−2】 【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】 【状況:新しいターゲットを探す】 - BACK