Faith




周りの景色が薄ら明るく色づきはじめ、橘敬介の身体を差していた。
肩には気絶したままの上月澪を背負い、自身の乱れる呼吸を気にも留めない。
何度もふらつきながらも彼は休むことも無く夜通し歩き続けた。
追ってくるかもしれないであろう来栖川綾香や水瀬秋子の追撃をかわす為なのも合った。
だが彼にはどうしても確かめなければいけないことが合ったのだ。
平瀬村での惨劇の最中、古河秋生と言う男に告げられた言葉。
『テメェから命辛々逃げ延びたっていう天野美汐にな……!!』
どうしても美汐に会って真意を尋ねたかった。
もしかしたら彼女もゲームに乗っていて、人を陥れることで自身の手を下さずに人を殺していく算段なのだろうか。
自分がされたように他の人間にも同じようなことをしているのではないか。そう考える。
そして逆に、秋生が出会った人間が天野美汐の名前を語りデマを告げ、彼女を陥れようとした可能性も浮かび上がる。
だが結局は本人に聞くしかわからないのだ。
勿論聞いたところで本当に乗っていて自分を騙したのだとしたら『はいそうです』などと答えるわけは無いだろう。
歩きながら堂々巡りな考えを繰り返す。それでも敬介は猜疑心を捨て払いたかった。

元々荷物は美汐の所に置きっぱなしだ。
なによりも氷川村には診療所がある。自身の怪我と、そして背負った澪の応急処置をしておきたかった。
歩くたびに腹部に激痛が走り、気力も体力も著しく奪われていた。
その歩みを止めることは無く敬介は痛みをこらえゆっくりとだが進み続けた。
倒れそうになるたびに理緒の間際の笑顔が脳裏によぎり、自身を奮い立たせてくれていたのだった。



――どれくらい歩いたのだろうか。
敬介の意識は限界に近づいていた。
腹部から流れ落ちる血は激しさを増し、視界は白く霞んでしまっていた。
民家がチラホラと見え始め、氷川村に入っているのだろうと言う事だけは認識できた。
それでも美汐のいた家から平瀬村に向かった時の景色を思い出すことが出来なかった。
果たして自分はここを通ったのだろうか? 考える気力さえ沸かなかった。
絶え絶えに息を吐きながら、道を、家を、草木を、全ての景色を見渡す。
そして彼の瞳が捉えたものは一軒の家の前に座り込む人影らしきものだった。
ボンヤリとした視界が状況判断をさせてはくれなかったが、それでも警戒は怠らず身を隠すように歩を進めた。
……そこが彼の限界だった。
全身から力が抜け、澪の身体がずり落ちそうになるのを必死に支えるものの
重力に預けるように地面へと落下していく澪の身体を受け止めきるだけの体力は残されておらず、大きな音と共にその場に敬介は倒れんこんだ。
「――!?」
その音に気付いたのか、遠くの人影が何かを叫びながらこちらへ近づいているのがわかった。
(くそ……)
その叫びは敬介には何を言っているのか認識することはできず、動かない身体を憎む声も口に出すことは出来ず
敬介の意識は抗うことも出来ずに闇へと落ちていった。

倒れた敬介と気絶している澪に慌てて駆け寄り現れたのは――NastyBoy、那須宗一だった。
その傷だらけの身体に驚き、眉をしかめながらしばらく考えた後二人を背負い診療所の中へと入っていった。




橘敬介
 【所持品:H&K VP70(残弾数2)支給品一式(誰のものかは不明)花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
 【状態:普通。左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷・気絶。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
上月澪
 【所持品:なし】
 【状態:精神不安定。頭部軽症・気絶中。目的不明】
那須宗一
 【所持品:FNFive-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
 【状態:健康】

 【時間:2日目第二回放送前】
 【場所:I-7診療所周辺】
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