(・・・気を抜かないで、正解でした) 篠塚弥生は、じっと目の前で起こる惨劇を見守っていた。 最初は少女同士が争っていた。お互い銃器を持っていたらしく、場は頓着した状態になる。 物陰に潜み、弥生はじっとチャンスを狙っていた。 二組の争いに決着がついた頃、漁夫の利のような形で自分が乗り込むつもりであったのだ。 だが、実際その場に乱入したのは一人の少年で。 ・・・目の前で起こる現場は、信じられないものであった。 誰の目から見ても分かる。・・・彼の動きは、慣れ過ぎていた。 この世界、閉鎖された殺し合いを目的とする空間に、余りにも馴染んでいた。 おかしい。その不自然さに対する違和感が、弥生は拭えなかった。 一部始終を覗いた後は、早急に鎌石村から離脱する。 いくらゲームに乗ったといえど、命を無駄にする気はない。 だが・・・もし、あの少年が由綺を殺したとしたならば。いや、それでなくとも、だ。 世界に復讐すると決めた彼女にとって、他人は全て排除すべき存在である。 あの少年とだって、いつかは対峙しなければいけなくなるであろう。 ・・・その時もまた、このように逃げ出すことはできない。してはいけない。 それが、彼女の誓いであったから。 ・・・今一度、自分の持ち物を確かめてみる。 レミントンにワルサーといった銃器二丁。これは大きい。 だが、まだ試し撃ちすらもしていない。 それできちんと相手に当たるのだろうか?疑問だった。 今まで彼女がこのような物を手にすることは無かった、普通の女性ならば当たり前である。 すっ・・・と、手にしっくりと馴染んだワルサーを構えてみる。 震えなどは起こらない、覚悟はできているのだから。 ・・・一発、試しに撃ってみようか?だがワルサーの予備弾はない、弾の無駄遣いは禁物だ。 そんなことを考えていた時であった。目の前の地味な建物から、人の声が聞こえてきたのは。 「このみはやっぱりじっとしてられないよ!ごめんなさい、行かせてっ」 「馬鹿馬鹿しい。いい加減にしないと殴ってでも黙らせるわよ?」 「で、でもっ」 「本気でここから離れたいなら銃を置いていくことね。それなら見逃してあげるけど?」 「だから、それはイヤだってば・・・!」 そんな問答を繰り返す。 柚原このみにとって、何もせず時間を浪費するという行為に対するストレスは限界まで膨れ上がっていた。 冷静に考えれば、朝までここでやり過ごそうという湯浅皐月の言い分の正しさにも心から納得できたはず。 ここ、菅原神社に来るまでは、このみにだってそれくらい考える余裕は確かにあった。 ・・・だが、もうそんなものは消え失せていた。全て。 同行している皐月にも良い感情を抱いていないというのもある、それが不協和音を生み出しているというのも強い。 何もかもがイヤだった、何もかもが彼女を苛立たせた。 自由にならないのがイヤだった、自由に動けないのがイヤだった! 「このみにはこのみのやり方があるもん!」 「それで何か好転するとでも思うのなら、あんた死んだ方がマシよ。この島にいる価値ないわ」 「・・・!ひどいよ、ひどすぎるよ・・・何で、なんで簡単にそんなこと言うの?!このみのこと、そんな嫌いなの?!!」 「ちょっと、声を落としたらどうなの?あんたの声、響きすぎ。マーダーが寄ってきたらどうするつもりよ」 「うるさいうるさい!うるさいのはあなたの方だもんっ!」 下腹の底から吐かれた声、その迫力に皐月の眉間がいっそう険しい皺を作った。 今の彼女は、もう足手まといとしか言いようが無い。 皐月は無言でこのみに詰め寄る、その怒りを表情に込め。 このみは彼女のプレッシャーに潰されないよう、ひたすら耐えた。震える足を堪え、支給された拳銃を彼女に向ける。 「そうやって、また人を傷つけようとするの?あんたの軽さに反吐が出るわ」 「来ないでっ、撃っちゃうから・・・本当に撃っちゃうから!お願いだから、もうこのみの邪魔をしないで・・・っ」 このみの言葉は無視される、皐月は彼女の宣言お構いなしに距離をどんどん狭めていった。 「来ないで、来ないでってばぁ・・・」 「馬鹿」 それが、このみの手から拳銃が叩き落とされた瞬間であった。 ・・・平手打ちされた手が痛かった、でもそれ以上にこちらを見つめる皐月の冷ややかな眼差しがつらかった。 そして。さらにそれ以上に、どうしても・・・彼女が、皐月の何もかもが、このみにとって許せなかった。 「やっぱり口だけじゃな・・・?!」 皐月の言葉は最後まで紡がれなかった。 即座に感じた背中の痛み、小さいながらも人一人がのしかかってきたそれは皐月の呼吸を軽く乱す。 「なっ・・・」 「嫌いだよ・・・あなたなんて、大嫌いだもん!!」 油断をしていなかったと言えば嘘になる、だがこのみ相手に簡単にマウントポジションを取られたという事実に皐月は冷静に驚いた。 「やってくれる、じゃない」 「きゃっ!」 それからは、ひたすら殴り合いのようなものが続いた。 所詮このみのような体格的にも幼い少女に勝ち目などないようにも見えたが、彼女も精一杯応戦していた。 お互いの髪をつかみ合い、空いた手で頬を引っぱたいたり引っかきあったり。 宗一・・・はともかく、貴明が見たら卒倒しそうな場面だった。 「ガキが!そんなんで誰かを守るとか言うあんたの戯言、反吐が出るわ!」 「死んじゃった友達のために涙も流さない、そんな人に言われたくないもんっ」 気がついたら二人とも、髪留めやリボンといった装飾具は全て吹き飛んでいて。 女の意地や根性、それらの類を全力でかけるかの如く罵りあい、叩きあい。 もうしっちゃかめっちゃか、セイカクハンテンダケを食べているにも関わらず皐月もかなり熱くなっているようだった。 「う〜〜、えいっ!」 「ぐっ?!」 その時、このみの放った拳が皐月の鳩尾に見事に決まる。 偶然と言えば偶然だが、それはクリーンヒットであった。その証拠に。 「げ、ゲェ・・・」 「きゃああ!き、汚いよ〜」 「ぐっ・・・あんたね、自分でやっといてっ、はぁ・・・それは、ないでしょ・・・」 「あう、ごめんなさい・・・」 転がりあっていた二人が動きを止めた瞬間、外から境内の中を覗いていた弥生は手にしたワルサーの照準をすっ・・・と合わせた。 二人が騒ぎながら喧嘩を始めた所を一部始終覗き見し、チャンスを窺っていた彼女にとってそれは絶好のタイミングであった。 ・・・鎌石村の時のような、イレギュラーはいない。 彼女は自信をもって、引き金に当てた指に力を込めるのだった-----------------------。 篠塚弥生 【時間:1日目午後9時】 【場所:E−02・菅原神社】 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)・ワルサー(P5)装弾数(8/8)・支給品一式】 【状態:ゲームに乗っている、皐月とこのみを狙う】 湯浅皐月 【時間:1日目午後9時】 【場所:E−02・菅原神社】 【所持品:セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式】 【状態:このみと喧嘩中・反転中につき、クールで冷酷無常な性格に(効力:残り十五時間程度)】 柚原このみ 【時間:1日目午後9時】 【場所:E−02・菅原神社】 【所持品:予備弾薬80発・金属製ヌンチャク・支給品一式】 【状態:皐月に対する不満爆発・貴明達を探すのが目的】 38口径ダブルアクション式拳銃 残弾数(8/10)はその辺に落ちてます。 - BACK