再会(柳川さん的に)




「ユーヤーフラッーシュッ!」

バリバリバリッっと、掛け声と共に裂けていくスーツ。
散りゆく布の向こうから現れたのは、一匹の鬼。
唸り声を上げるそれに対し、天沢郁未等三人は身構えた。

「来るわよ」
「どんと来いです」
「はは、僕関係ないよね?もう行ってもいいかな」

鬼の低い鳴き声は怒りの大きさを表している、知らないうちに郁未の頬を汗がつたっていた。
・・・強い。こいつは冗談抜き、で本当の実力者だ。

「るーは鬼に賭けよう。男の鬼は最強、これは絶対だ」
「うーん、じゃあ私は不可視の人たち一向に3ちー賭けるよ。人数とコミュニケーションで応戦してくれるよ、きっと」
「あー、だるくなってきた。寝ていいか?」
「あんた達余裕ね・・・」

そんな応戦間際な光景を、見守る集団がいた。

「わ、凄い。鬼さん鳴いてるね、私も見てみたかったよ〜」
「こら、みさき!身を乗り出さないで、危ないんだから・・・」
「うーゆき、静かにしてくれ。集中できないじゃないか」
「いや、あなた達のやってることでこっちにまで火花が飛んできたら洒落になんないのよっ?!」
「・・・ちょっと外野、黙っててくれるかしら。こっちは命かかってんだから」

呑気に傍観するのは川名みさき率いる聖闘士軍団であった。
対峙している鬼と郁未等から後方数十メートル、そこで支給されたパンを啄ばみながら観戦している。

「うーさきの3ちーは頂いたな。さあ鬼よ、存分に暴れるがいい」
「何不吉なこと言ってんのよ?!」
「私は遊戯の王と対決するまで死ねませんので、郁未さん先にどうぞ」
「わ、私だって前回フラグ立てたわよ!駒田、あんた突っ込みなさいっ」
「無茶言わないでよ・・・って、何かあの人こっち見てないけど」

え?と視線を鬼に戻すと、確かに彼は体だけこちらに向け顔は全然別の場所に固定されていた。
鬼の目線を追う。その先には、あのうるさい連中が。

「わっ、もしかして鬼さんこっち見てる?」
「悪いがるーの趣味ではない。そんな熱い眼差しを送らないでくれ」
「いえ、見てるの藤田君みたいだけど・・・」
「俺?」

興味無さげに欠伸をしていただけの浩之、今一度目の前の鬼に目を向けてみる。

「げ。マジだ」
「きゃあっ!こっち来るわよっ」

どすん、どすん。一歩一歩に重量感を感じさせるそれをアピールするかのように、鬼は近づいてきた。
そして、止まる。

「・・・・・」
「・・・・・」

見つめ合う。

「・・・・垂レ、目・・・」
「あ、ああ。確かに俺は垂れ目だが」
「眠そうだよね」
「前髪・・・分ケ、テル・・・」
「ああ、子供の頃からそんな感じだ」
「子供の頃からそんな擦れてたの?」
「・・・・」

間。何か考えているようだった。

「・・・学、ラン?」
「ああ、高校生だからな」
「あれ?じゃあPC版では・・・モガモガ」
「しっ!みさき、いい加減黙りなさいっ」
「・・・・・・・・」

間。また何か考えているのだろうか。

「・・・タカ、ユキ?」
「いや、俺は浩之だ」
「学ラン・・・ノ、タカユキ?」
「浩之だ」
「・・・・・・高校生タカユキ!!タカユキ若返ッタ!!!」

その時、鬼・・・いや、柳川さんの胸に広がったのは、一筋の希望であった。
貴之、大好きな貴之。
いつも楽しそうに自分の夢を語ってくれていた貴之。
ギターを弾き、気持ち良さそうに歌っていた貴之。
・・・そして、ヤクザに身を売っていた、貴之。

貴之、大好きな貴之。
でも、壊れてしまった貴之。
壊れてしまった貴之は、最後の理性を振り絞りその銃身をこちらに向けて---------------

それは、悲しい記憶であった。
あのルートなら柳川さんも死んでるじゃないかとかそういうのは置いといて、とにかくせつなさでいっぱいだった。
大好きな貴之を守りたかった、ただそれなのに。柳川さんの思いは幸せな形で成就することはなかった。

でも、目の前の貴之(違)はあの貴之ではなかった。
高校生。ヤクザも何も関係ない、明るい世代の彼。
まだ、心の底から幸せを体感できたであろう貴之が・・・目の前に、いる。
自然と柳川さんの目からは、涙が溢れていた。
これは一つのチャンスであったから。

「タカ、ユキ・・・俺達、ヤリナオセル、ノカナ・・・」
「いや、だから浩之だってば」

気がついたら、柳川さんは浩之のすぐ目の前まで辿り着けていた。
その容貌の恐ろしさから、婦女子三人は既に少し後ろの方に逃走済みである。だが、浩之は動かない。
柳川さんがあまりにも悲しそうな表情を浮かべ、こちらを見つめ続けていたから。

地べたに腰掛けていた浩之に合わせるよう、柳川さんも低い姿勢をとる。
手を伸ばすが、浩之は特に抵抗をしなかった。
そのまま彼の無防備な右手に手を伸ばす柳川さん。
普通に握り締めたら骨は粉々になっていただろうが、それは要らぬ心配で。
柳川さんは優しく浩之の手を包み、そして泣き崩れた。

目の前の、失ってしまったはずの温もりが、たまらなく愛おしかったから。

その時、辺りに澄んだ音色が流れる。
そう、まるでロスでレコーディングをしたかのようなBGM。
それは物語を告げるオープニングだった。
浩之の手を握り締めたまま、柳川さんは声を張り上げる。

これが、柳川さんの物語の幕開けだった。




         「貴之の詩」  
 作詞&歌 柳川祐也 作曲 折戸伸治 編曲 高瀬一矢

      壊れてく心 僕のすぐ傍で
     悲しくて逃げた いつだって弱くて 
あの日から  変われず いつまでも変わられずに
  いられなかったこと くやしくて指を離す

  あの時はまだ幸せだったけど いつかは今に辿り着く
 届かない場所に思い馳せるけど  願いは砕け砂に混ざる

     二人だけで 夏の日差し浴びる
     開けた窓 流れるラブソング
      僕らは覚えている 歌を
       貴之の 抱えた希望を

    あどけない笑顔 癒してくれたそれを
      失ってからは 世界は反転し
     僕はまだ 捕らわれ 貴之の幻想に
  弾かれないギター それでも待ってるよ ずっと




柳川祐也
【持ち物:出刃包丁、ハンガー、支給品一式】
【状態:最後はどうか、幸せな記憶を】
藤田浩之
【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:浩之なんだけどなー(鳳凰星座の青銅聖闘士)】

川名みさき
【所持品:支給品一式(食料無し)】
【状態:あ、気がついたらパン全部食べちゃった(女神)】
深山雪見
【所持品:支給品一式】
【状態:つっこみきれません(牡牛座の黄金聖闘士)】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:支給品一式】
【状態:む?うーへいがいないではないか(ペルセウス星座のるー)】

天沢郁未
【所持品:薙刀、支給品一式】
【状態:今のうちに爪切らせてもらおうかしら】
鹿沼葉子
【所持品:鉈、支給品一式】
【状態:止めといた方がいいですよ、邪魔したら殺されます】
少年
【持ち物:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、レーション3つ、支給品一式】
【状態:むしろこれだけ人集まったなら、Bルートみたいに僕が先陣切って行くべきなのかな?】

【時間:1日目午後10時】
【場所:G−6】
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