「その話詳しく聞かせてもらうぞ」 そう言いながらいきなり現れた男の顔に私は驚きを隠せなかった。 ロープで吊るしたままだったのにどうやって降りたのかしら……しぶといわね。 あたしが睨みつけているのに気付いたのか、元吊るされた男は苛立ちを見せながらあたしを睨み返してきた。 でもそう思ったのも束の間、あたしの事を思い出したらしく苦虫を潰したような顔になる。 それにしてもこの男が言ってるのが本当なら、目の前の女に殺された仲間の敵討ちってところ? どう見ても悪役一直線って顔をしてるのに、あたしの目も曇ったのかしら。 男の言葉にまーりゃんって人が小さく笑いながら言った。 「さてね。いつ誰を殺したとか忘れたよ。大事なのはたかりゃんやさーりゃん達が生きていること。私にとってはそれだけだからな」 あたしと貴明、目の前にいるまーりゃん先輩って呼ばれてる殺人者。そしていきなり現れた男の間には奇妙な間が広がっていた。 銃口はそれぞれが向けたままで、張り詰めた緊張だけが漂う。 誰かが動いたらどうなるかなんて考えたくもなかった。 ・ ・ ・ (……やっかいな事になったなあ) 麻亜子は貴明とマナ、そして高槻を目の前に自分の失敗を悔いていた。 高槻の言葉にあった心当たりは3人。 時間と、彼が横に犬を連れていることから先ほど殺した女性のことを言ってるんだろうと簡単に想像は付いた。 ゲームに乗ってないとはお世辞にも言えない高槻の風貌に、銃を握る手に力が篭る。 それでもすぐ行動に移せなかったのは、貴明が麻亜子から銃口を放してはいなかった事だった。 自分が銃を向けたこの男に何かしたらすぐさま貴明は飛び掛ってくるだろう。そう考える。 かと言って躊躇していても逆にその前にこの男に自分は撃たれるかもしれない。 今のところ高槻は貴明のことを歯牙にもかけてないようで麻亜子に狙いを絞っていた。 (はてさてどうするかね……) 悩んでいる時間は――無い。 ・ ・ ・ 「高槻さんどうしたのかしら……」 職員室から少し離れた場所でささらと真琴は高槻の言葉どおりに彼を待っていた。 だが暗い校舎がささらの不安を募らせていた。 隣では先ほどまでの威勢はどこへいったのやら、真琴が震えながらささらの袖を掴んで離そうとしない。 レミィの死に加え、今しがた岸田に襲われ、そしてずっと近くにいた大人の男性が消えたのだ。 彼女ではなくとも恐怖に駆られても仕方ないのかもしれない。ささらも事実恐ろしかった。 だが隣にいる少女のか細い姿が、自分がしっかりとしなくてはと言う気持ちを奮い立たせてくれた。 その想いをあざ笑うように、校内に銃声が響き渡る。 我を忘れささらは高槻の向かった方向へと走っていた。 ・ ・ ・ 膠着を破ったのは麻亜子の手から放たれた銃弾。それは高槻の頬をかすめるように壁を貫いていた。 すぐさま発射されようとした二発目を止めたのは、貴明とポテトだった。 銃声と同時に飛び出したポテトの身体が麻亜子の鳩尾をえぐり、ひるんだ麻亜子の腕を貴明が必死に掴み上げ銃が離れ落ちる。 高槻は一瞬呆気に取られたように呆然とするが、自身に起こったことを認識すると顔を真っ赤にして吼えた。 「このくそガキがっ!」 動きを止められた麻亜子に今にも発砲しそうな高槻の形相をマナの銃口が制する。 「銃を降ろしなさい!」 「ざけんな! 見てなかったのか!? 俺様は今撃たれたんだ! 殺されかけたんだぞっ!!」 「それでも……よ」 憎々しげにマナに言い返す言葉も聞かず、マナは高槻から銃口を降ろそうとはしない。 「高槻さんっ!?」 廊下の向こうから、足音と共にささらの呼ぶ声が聞こえてきた。 「久寿川来るな! 宮内を殺した奴がいるんだ!」 高槻が言い終わる前にささらはその場に現れてしまった。 「「「えっ?」」」 暴れていた麻亜子の身体がピタリと止まり、高槻の出した名前と目の前に現れたささらの姿に呆然と立ち尽くした。 ささらから。貴明から。麻亜子から。彼らの口から発せられた疑問の声だけが、静かに校舎に木霊する――。 金田一高槻 【所持品:食料以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】 【状況:お怒り中】 久寿川ささら 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】 【状態:呆然】 沢渡真琴 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】 【状態:ささらの隣に、状況理解できていない】 河野貴明 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】 【状態:呆然】 観月マナ 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】 【状態:足にやや深い切り傷。高槻に銃口を向けたまま三人の様子を見ている】 朝霧麻亜子 【所持品1:ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除。スネが痛い。呆然】 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】 【備考2:制服はバックの中へ、SIG(P232)残弾数(2/7)は床へ】 【時間:2日目02:05頃】 【場所:D-06鎌石小中学校職員室前廊下】 【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】 (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風) カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み) 荷物一式、破けた由依の制服 - BACK