あの男に一杯食わされてから僕は農家の納屋に隠れていた。 疲れていた所為かいつの間にか眠り込んでしまっていたみたいで、気付くと外はもう明るくなっていた。 (くそ、何をやってるんだ僕は!) 急いで武器を探したけれど、使えそうな物は農作業用の鍬くらいしか無かった。 それでも素手よりは幾分かマシだ、とにかく早く美咲さんを探さないと! そう考え納屋を飛び出そうとした矢先に、二回目の放送が始まった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ――――美咲さんが死んだ。 その事を知った僕は全身から力が抜けていく感覚に襲われた。 守れなかった。それどころか探し出す事さえ出来なかった。 結局僕は何も出来なかったのだ。ただ悪戯に時間を浪費しただけだった。 犯人は憎かったが、復讐を考える気力は残されてはいなかった。 美咲さんが死んだ事への悲しみに、自分の不甲斐なさへの怒りに、ただただ涙が溢れ続けてくる……。 だがその場に崩れこむ僕に対して、容赦無く悪魔の囁きが呟かれた。 そう、主催者はまさに悪魔だ。巧妙な手法で人の心の隙間に付け込む悪魔だ。 『どんな願いでも叶えられる』 つまり、優勝すれば美咲さんを生き返らせる事も可能という事。 話の真偽は定かでは無い………多分、嘘だと思う。僕のような境遇の人間の道を踏み外させる為の。 だがこれだけの規模の事をやってのける連中だ。話が本当である可能性もまた、完全には否定出来ない。 冬弥はあの放送を聞いてどうするだろうか。 アイツならきっとゲームに乗ると思う。そしてゲームに乗る以上は、殺される事も覚悟の上の筈だ。 もし僕が冬弥と会う事があっても、容赦なく"やれる"と思う。 元々ゲームに乗った人間を殺す覚悟はあった。だが今は以前とは少々事情が異なる。 ゲームに乗っていない人間――――折原のような奴でさえも殺さないといけない。 これはとてもタチの悪い椅子取りゲームなのだ。椅子は一つしか用意されていない。 だがそれでも。それでも可能性が僅かにでもあるのなら。 他に選択肢は考えられない。 「美咲さん、折原――――すまない」 最後の懺悔の言葉と一筋の涙と共に、僕は人間として一番大切なモノを捨て去った。 七瀬彰 【時間:二日目午前6時10分】 【場所:C−05、農家の納屋】 【所持品:鍬】 【状態:右腕負傷(マシにはなっている)。マーダー化】 - BACK