フラグをつかめ




 天沢郁未と鹿沼葉子、現在パンの材料を探す大冒険中である。
「タイムリミットはおそらく凸システムが発動する明日正午ごろ。
それまでにこのイベントをクリアしなければなりません」
「いるかどうかもわからないのに、時間足りるの?
というか、なんで葉子さんはそんなこと知ってるのよ!?」
「不可視の力です」
「いや、絶対違うだろ!」

「ともかく、のんびりしてると時間切れで脇役として殺されます。
効率的に獲物を探さないといけません。タイムアタックです」
「何? 葉子さん、ゲーマー?」
「レベル1キャラ3人でラスボスが倒せます。
だいたい私をゲームに嵌めたのは郁未さんじゃないですか」
そう言えばFARGOに隠し持っていった携帯ゲーム貸したんだったなあと、郁未は思い出した。
返してもらったときには電池が切れていた。

「これで私は、新たに遊戯の王と対決フラグを入手しました。当分死にません」
「何それ?」
「だから過去ログを読んで下さい」
「どうやって過去ログ読むのよ?」
「不可視の力です」
「嘘つくな!」
「嘘ではありません。そもそも原作自体描写不足なので、これぐらい出来ても不思議はないです」
「そうですか……」
そもそもあれはカードゲームがメインなんじゃないかと思いつつ、
郁未はこれ以上訊いても無駄だと悟った。

 二人は診療所を出てから、適当に雑談しつつ西北西に向かっている。
「鬼の爪、ヘタレの尻子玉、白虎の毛皮、魔犬の尻尾……
まずはどれから探すのよ?」
「私の予想が確かならば、この先に鬼が向かってくるはずです」
「ほんとにいるのね。で、その根拠は?」
内心そんなのあてにならねえよと思いつつ、郁未は尋ねる。

「「不可視の力です」」
二人の声がはもる。
「真似しましたね」
「もうその返答飽きた」
「郁未さんも、何かフラグ立てたらどうですか」
「フラグねえ……」
「ほら、郁未さんにはあれがあるじゃないですか」
「何よ?」
「机の角に擦り付けたりとか、陸上部の先輩のものを美味しそうにしゃぶったりとかです」

 郁未の脳内に嫌な記憶が甦る。
「何でそんなこと知ってるのよ……」
「不可視の力です」
「……もういい」

「この島には凄いヤリマンがいるんですよ」
「ああ、椋ね……」
郁未は大きく溜息をついた。

「お知り合いですか?」
「昔ちょっとね……
私程度じゃあいつには太刀打ちできないわよ。
あいつに出会って、私はこの道を引退したの」
もう思い出したくないというように、郁未は頭を振った。

「やりましたね。性神様の元ライバルという美味しい役が手に入ったじゃないですか」
「ライバルなんかじゃない……私の完敗だった……」
らしくない言い方に、葉子は郁未の顔を見つめる。
「何が……あったんですか?」
「頼むから思い出させないで」
どうやら凄いトラウマらしい。

 しばらくして開けた道に出たとき、郁未は見知った顔に出会った。
「あ、郁未」
出来ればこいつには会いたくなかった。
「鬼って、もしかしてこいつ?」
「いえ、違います」
「そうだよね。こんなのどうみても鬼に見えないし」
「なんか酷い言われようだね……」
「大体名前が無くて呼びにくいのよ」
「だったら駒田とでも呼んでくれればいいよ」
「何その名前?」
「お姫様に付けてもらったんだ」
「こうしてまた、不可視の力で暴走する人間が一人増えるわけね……」
「なんか、凄い勘違いをされた気がする……」

 そんな二人のやりとりをどうでもよさげに眺めていた葉子は、
もう一人の人物が走ってくるのに気付いた。
「本命の鬼が、来たみたいですよ」
「え?」

「貴之が死んだなんて嘘だ! 貴之が死んだなんて嘘だ!」
走ってきた人物、柳川裕也はそんなことを大声で叫んでいた。
「貴之って誰?」
「おそらく参加者の一人、河野貴明の間違いでしょう」
「誰それ?」
「参加者名簿ぐらいちゃんと見て下さい。ちなみにもう死んでいます」
「何だと!? お前らが貴之を殺したのか!」
「僕じゃなくてこの二人だよ」
「あんたなんてこと言うのよ!」
「面白そうだったから」
柳川の姿が鬼のそれに変わっていく。
「俺、貴之の仇討つ!!」
「あれが……鬼?」
「そうみたいですね」
「いくわよ、葉子さん、駒田」
「えっ!? 僕も?」
なんだかんだ言いつつも、郁未はわりと楽しんでいた。




 天沢郁未
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【所持品:薙刀、支給品一式】
 【状態:材料求めて三千里】

 鹿沼葉子
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【所持品:鉈、支給品一式】
 【状態:ゲーマー】

 少年
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【持ち物:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、レーション3つ、支給品一式】
 【状態:郁未ってこんなキャラだったかな?】

 柳川祐也
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【持ち物:出刃包丁、ハンガー、支給品一式】
 【状態:俺、貴之の仇討つ!(鬼)】
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