おともだち。




初めまして、神尾観鈴といいます。
私は無事です、友達もたくさんできました。
今、藤林杏さんのパソコンを借りて書き込みをさせていただいてます。
えっと、上で書いてある橘敬介というのは私の父です。
お父さん、もしこれを見てくれているなら、もう人を傷つけて欲しくはないです。
また、父に会う人がいらっしゃるようでしたら、この書き込みのことを伝えてください。
お母さんの神尾晴子という人に会った人も、伝えてもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。




「えっと、こんな感じで良かったのかな」
「いいんじゃない?」
「まぁ、あなたのご両親にあまり負担のかかるようなことも書けないしね・・・」

ロワちゃんねるへの書き込みを終え、神尾観鈴は一つ小さな溜息をついた。
・・・自分のために敬介はともかく晴子が手を汚しているという事実を、彼女は知らない。
藤林杏と向坂環が後ろからのアドバイスを入れながら書いたそれが、どうか二人に届きますように。
そう願うしか、なかった。

「いや、アドバイスもクソもないぞ、その長さ」
「五月蝿・・・」
「それはもういいから」

黒い銃器などに屈するしかなかった柊勝平は、ムスっと後ろからその様子を眺めていた。
他の面々は食事の支度をしている。少しばかり食料もあるらしく、調理場からは良い匂いが漂ってきていた。

「英二さん、お塩取っていただけます?」
「はい、これかな?」
「違いますっ、これは胡椒ですよ」
「あはは、ごめんごめん」
「もう、英二さんってば〜・・・」
(お前等二人でどっか行けよ・・・)

その後ナチュラルに共に食事をとり、各自休憩をすることになる。
余りにもナチュラル過ぎて、もう最初から仲間だったような気さえしてくる。

「いや、それはない」
「柊、何につっこんでるんだ?」

ターゲットは目の前にいるというのに。
相沢祐一ののほほんとした物腰に苛立つ、ボクがバズーカーでも持ってたらお前の頭目掛けて迷わず撃ち込むね!っていう気分であった。

(今ボクにできることか・・・しいて言うなら、あの掲示板かな)

杏の持ち物らしいが、特に彼女が管理している訳でもない。
さっきは環が何か書き込みがないかとチェックしているようだった。今は、誰も使っていない。
・・・今のうちにあいつらの暴言でもブチまけてやろうか。

「にはは。IDでばれちゃうから、小細工は無理だよ」
「うわ!お前、いたのかよ」
「最初の見張りは観鈴ちんと勝平さんになりました〜ぱちぱち」
「待て、何だそれはいきなりっ!!」

気がつけば、わらわらと部屋から出て行こうとするメンバーと目が合う。

「ははっ、少年。こういうのは新参者からってね」
「おい柊、お前やきそばパン買ってこい」
「何この扱い?!」
「今は九時か・・・うん、三時間後に交代しよう」

手を振って去っていく緒方英二、彼を最後にこの部屋には勝平と観鈴の二人が取り残される形になる。

「っていうか・・・あいつら、マジでボクのこと放っておくつもりかよ・・・」

あまりのお人よし加減に呆れてしまう。
そんな勝平の様子に気にも留めず、観鈴は懐っこく彼に寄って行った。

「勝平さん、勝平さん」
「気安く呼ばないでくれる?」
「が、がお・・・」
「がお言うな」
「がおーん」
「吼えるな」

・・・面倒くさい、こいつだけなら始末することは簡単だろうに。六対一でなければ、本当にすぐ手にかけてやりたかった。
勝平の中でイライラとした感情が膨れ上がっていく、だがそれ以上に観鈴は懐っこかった。

「あのね、勝平さん」
「・・・何?」
「勝平さんは、誰か守りたい人とかっている?」

くだらない、質問。
人のために戦ってどうする、最後は自分が生き残らなければ帰れないというのに。
・・・だが、それを口にしようとした時。頭の中に一人の少女の笑顔が浮かんだ。
藤林諒。大事な、恋人。

ここにきて、彼はその恋人を守るという思いがなかったことに、自身で気づいた。
勿論大切である、勝平を支えてくれるかけがえのない存在で、ある。
けれど。それなのに。
また、勝平が島に来て最初に起こした行動というのも、諒を探すわけでもなく目の前にいた藍原瑞穂を殺し、弄んだことで。

(・・・あれ?そういえばボクは、どうしてあんなことを、したんだっけ?)

冷静になっている今だからこそ、勝平の中で過去の自分が犯した件についての疑問が沸く。
祐一と杏に関しては、あの時の無念さを晴らしてやりたいという憎しみがあった。それは今も続いている、が。
目の前でちょこんと座っている観鈴に目を向ける。
・・・どうして自分は、彼女を殺さなくては、いけないのだっけ?

勝平にとって、ゲームの中で人と触れ合うのは初めてであった。
いや、実際は覚えていないだけで過去の世界ではもっと人と交わりのある「ルート」があったのかもしれない。
だが、今の彼にそんな記憶はない。
だからだろうか。彼は観鈴の世間話程度の話に、答えることができないでいた。
混乱する頭の中、それでも「人を殺すこと」に対しためらいのない自分があることには気づいていて。
何故自分がそのようになってしまっているのか。それは答えの出ない疑問であった。


いくら話しかけても勝平からの返事がなかったからか、以降観鈴が彼にちょっかいを出すことはなかった。
時間は刻々と過ぎていく。
そろそろ交代の時間、勝平は未だ自分の身の置き方について考えがまとめられず、これからどうすればいいかという展望を全く築けないでいた。
そんな時であった。部屋の隅に置かれた電話が、いきなり鳴り出したのは。




柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:電話に気づく】

神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:電話に気づく】

相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:休憩中、男性二人は同じ部屋】

向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:20)・支給品一式(食料少し消費)】
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費)】
【状態:休憩中、女性三人は同じ部屋】

【時間:1日目午後11時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】
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