やっとこさ脱出




「さて、で。これからどうするかだが・・・」
「どうもこうもねぇだろ、降ーろーせっ!クソチビ戻ってこーい!!」

国崎往人と高槻は、ただただ時間を食い潰すしかなかった。
ブラーンと間抜けな醜態をさらし続け早十分。
頭に血が上ってしまうので適度に揺れてみたりするが、事態が良い方向に転がりそうな気配はない。

「ぴっこり」
「そうだポテトよ、俺様を助けろ!」
「ぴこ〜・・・」

無茶言うな、という眼差しが返ってくる。ガックリ。

「・・・ん、待てよ」
「どうした、何かいい考えでもあるか?!」
「いや、ちょっと失礼・・・よっと」

横に勢いをつけ、そのまま高槻の腰に往人はガバっと抱きついた。

「ギャー!俺様にその趣味はない、離せ離せ離せっ」
「ちょっと落ち着けって・・・よいしょ」

そのまま這う様にして、往人は高槻ごとロープを登っていった。

「ぐぁ、いて、いてて!足蹴にすんな、コラッ」
「うるせえな・・・よっと」
「ああ?」

高槻の視線の先には、木の枝に跨る往人の姿が映っていた。
つまり、彼がしたことはというと。

「ふむ。括られたロープが思ったよりも長かったようだな。
 もう少し短かったら、俺の股関節様が脱臼する所だった」

そういって固結びされた縄を解く往人の姿は、正に救世主。

「よくやった!は、早く俺も助け・・・」

高槻が叫ぶ。
ノイズの走った放送が響いたのは、ほぼ同時であった・・・。




(さすがにあの連中が、こんな早くくたばる訳はないか)
放送には、高槻の見知った名前は一つも上げられなかった。
特に何とも思わない連中ばかりだが、それでも安心のようなものはする。
・・・一方、往人の表情は固かった。

「悪い、俺急ぐわ」
「何だ、今の放送に知り合いでもいたのか?」
「・・・・・」
「・・・図星か」

今はもう地上に戻っていた往人の様子は、明らかに焦りを含んでいる。
無言で荷物をまとめだした彼の背中を、高槻は黙って見送・・・

「いや待ておい、俺様を助けてはくれないのか」
「悪い、時間を無駄にしたくない」
「ちょ、おまっ!そんな理由で・・・」
「ポテト、お前が何とかしてろ」
「・・・ぴっこり」

往人の離脱は早かった、残されたのは高槻と・・・ポテト。
乗りかかった船というやつだろう。気絶していた拓也を担ぎなおす律儀な往人の背中を見送りながら、高槻は溜息をついた。
・・・それなら俺だって降ろしてくれてもいいじゃないか。そんなむさしさでいっぱいである。
何て非情なヤツだとイライラしてきた時・・・高槻は、ポテトの様子がおかしいことに気がついた。

「どうした、ポテト」
「・・・」

返事がかえってこない。その項垂れた様子で、さすがの間の読めない男もポテトの心情に気がついた。

「そうか、腹が減ったか・・・俺が降りられたら何か食わせてやるからな」
「・・・」

だが、その食料も往人によって持ち出されているのを知るのは、また後のことである。






拓也を抱えているので速度は遅いが、往人は着実にあの場所から離れていた。
が。やはりマナのテリトリーだけあって、罠に対しては警戒していかないといけない。

「・・・そこ、落とし穴あるわよ」

聞き覚えのある少女の声、顔を動かし周囲を見やると・・・小さく体育座りをする観月マナが目に入る。

「何だ、脱走の罪は問わないのか」
「いいのよ、もう。・・・どうでも」

やさぐれているというより、諦めにも似たその様子。
・・・思うところは同じなのだろう。

「放送か」
「まあね。大事なお姉ちゃんが死んだわ」
「そうか・・・」

会話終了。
往人自身、今は他者と和気藹々に話を弾ませる気には到底なれなかった。

「気が向いたら、吊られてるあいつも助けてやってくれ。俺は先を行く」
「そう・・・考えとくわ」

マナは最後まで、往人と目を合わせることはなかった。
往人も気にせず歩き出す。
まだ一日目、まだ一回目の放送。
・・・次の日を考えるだけで、憂鬱になりそうだった。




国崎往人
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:トカレフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状態:先を急ぐ】

月島拓也
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:支給品一式(往人持ち)】
【状態:気絶中】

観月マナ
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
【状態:消沈】

高槻
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:無し】
【状態:宙吊り】

備考:高槻の食料以外の支給品一式は傍に放置
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