「あ…う…」 呻き声を出しながら床にどさり、と倒れ込む観鈴。それを見ていた祐一の頭は真っ白になっていた。 (おい、どうしてだ? どうして神尾が倒れてんだよ…撃った? あの女が? どうして? たまちゃんに何をした? 知るかよ…何だよ、何なんだよアイツはっ!) 気がつけば祐一は憎しみのままに麻亜子にレミントンを構えていた。 「お…お前ぇぇぇーーっ!」 気付いた環が必死の思いで祐一の手を止める。 「何すんだよ! こいつが、こいつが神尾をっ!」 「手を出さないで! この人は…私の知り合いなの」 知り合い? ならどうしてあの女は手を出した? 祐一の疑問は加速する。頭が熱すぎて整理できない。 「関係…ないだろ。こいつは、神尾を撃ったんだぞ」 「ええ。…だから、真偽を確かめるのよ。誤射かどうかってことをね」 誤射って、何を今更…そう言いかけた祐一の口がつぐむ。環の顔は、恐ろしいほど険しいものになっていた。祐一にも勝らぬとも劣らぬ表情。 「…分かった、好きにしてくれ」 レミントンの銃口が床に落ちるのを確認して、環は麻亜子と向かい合った。 「一体何のつもりですか、まーりゃん先輩」 低く、重たい声で麻亜子に語りかける環。目が覚めたと思ったら観鈴が麻亜子に撃たれていた。 環にも訳がわからなかったが、英二は精神的に戦えるかどうか分からない。祐一は見ての通り頭に血が上りきっている。 芽衣は先程殺されてしまった。自分の判断ミスで。どうして首輪が外れていたのか、まずそこを疑うべきだったのだ。 普通、首輪が外せたらまずは知り合い等そういう人間の安全を確保すべきである。しかし七瀬彰とか言う男は何を考えているかも分からない赤の他人に気安く話しかけてきた。 せっかく首輪を外せてもゲームに乗ってしまった連中に問答無用で撃たれたら何の意味もない。 結局は自分の焦りがこの事態を生み出してしまった。だから、もう判断ミスはしない。これ以上自分の失策で人が傷ついていくのは耐えられない。 皮肉なことに、周りの皆が冷静でないことが、かえって環を冷静にさせた。 「何って…あたしはたまちゃんを助けようとしただけだぞ? 現に、たまちゃんは頭から血を流し、倒れていたじゃあないか?」 しかし麻亜子は別段焦った様子も無くあっさりと言った。それどころか麻亜子は拳銃を構えて環に言い放った。 「さて、たまちゃんをいぢめたその他大勢の諸君には消えてもらおうではないか。たまちゃん、そこをどきなさい。このあたしがお掃除してあげよう」 環は絶句する。あろうことか、麻亜子はこのゲームに乗っていたというのだ。だとすれば、先程のは誤射でも何でもなく…本気だったというのか。 「な、何をしてるんですか! まーりゃん先輩!」 すぐ横にいた貴明が麻亜子の銃を押さえようとする。 「ぬわっ! 何をするったかりゃん! これはたかりゃんとさーりゃんとたまちゃんと…ええい、ともかく生徒会の諸君のためなのだぞっ」 まるで子供のように銃の取り合いをする二人を、祐一が怒りに満ちた声で環に言う。 「向坂…決まったな、誤射でも何でもない、あいつらは殺人者だ。俺はやるぞ」 再びレミントンを構えようとする祐一を環は必死に説得する。 「待って! もう少しだけ…」 「うるさいっ! 神尾が死んじまったんだぞ! カタキを取って何が悪い…」 「う…」 聞こえてきた小さな声に二人が頭を返す。観鈴が小さく動いたのだ。 「神尾!」「神尾さん!?」 二人が駆け寄る。観鈴は二人の方を向き、苦痛に満ちた表情ながらも無理矢理笑って言った。 「にはは…う、撃たれちゃった」 「撃たれた、じゃないだろう! クソッ、傷は! 傷はどうなんだ!」 乱暴に体を揺らす祐一を、もう一つの手が止める。先程まで呆然としていた英二だった。何かがふっきれたように冷静になっていた。 「…乱暴に動かすな、少年。焦ってもいいことは無い」 英二は「失礼」と言って観鈴の出血箇所を調べる。どうやら、肺などの主要器官には命中していないようだったが脇腹を貫通している。重症には違いなかった。 「くっ…これは…医者でもいないと…放っておいたら致命傷になりかねん」 「医者って…んなもんがこの島にいるわけないだろっ!」 祐一が叫ぶのを、観鈴が「そんなことないよ…」と弱々しく言う。 「霧島…霧島聖、っていうお医者さんが…いるの」 「霧島? どういう人なの!」 「えっと…髪の長くて…つっ!!」 痛みに苦しむ観鈴を、英二が落ちつかせる。 「分かった。もう喋らなくていい。僕達がその先生のところまで連れていこう。いいな、少年、向坂さん」 二人が反論するはずもない。英二が観鈴を背負って出ようとしたところに、貴明との乱闘から抜け出したらしい麻亜子が立ちはだかる。 「おおっと、そうはいかんね。あたしにも使命というものがあるのだよ」 拳銃とナイフをかざし、戦闘態勢をとろうとした…が。 「いい加減にして下さい! その人達を殺して何になるっていうんですか!」 アメフトよろしく麻亜子にタックルを仕掛ける貴明。「うおあっ!?」という声と共に二人が職員室の床を転がる。 「ええい、いい加減にしないと死なない程度に懲らしめるぞったかりゃん!」 麻亜子からの強烈なストレートを顔面に受けながらも貴明は叫ぶ。 「タマ姉! 俺がまーりゃん先輩を足止めするからその人達と行ってくれ!」 「タカ坊!? でも…」 「大丈夫。まーりゃん先輩は俺を殺せないようだから、何とかなる! たまには俺にもカッコつけさせてくれよ、タマ姉!」 貴明はそう言うと上手く体勢を変えて麻亜子に対してマウントを取る。 「ぬうっ! ぼ、暴力反対だぞっ!」 「あなたが言えることですか!」 格闘戦になっている二人を横目に見ながら祐一が環に言った。 「よし、今なら行けるはずだ。あの子はまだ何もしてないようだからな」 未だに立ち尽くしているマナを指差して英二と共に走り出す祐一。しかし環は走らなかった。 「おい、向坂!?」 「…ごめん、やっぱタカ坊を放ってはおけない! 先に行って…」 環が走り出そうとしたところに、小さい影が立ちはだかる。さっきまで呆然としていた観月マナだった。 「行って。あなたの代わりにあの人は私が何とかする」 「でも、相手は銃を持って…」 「あなたも持ってないでしょ? 私は持ってる。大丈夫、どっちを止めるべきか、なんて分かってるから。どっちが敵なのか今まで分からなかったけど…今のあのタカ坊、ってひとの言葉で決めた。行って。絶対に止めてみせるから」 決意に満ちた声。環はそれに押されるようにして背を向けた。 「ごめん! タカ坊! 私も死なないから…タカ坊もまだ死なないでよ!」 「当たり前だろっ、タマ姉やこのみを残して死ねるかっての…がっ!」 「ふふん、余所見は禁物だぞ〜、たかりゃん」 一瞬の隙をついた麻亜子が貴明を蹴り飛ばし、英二達を追おうとした時。 「余所見は…どっちよっ!」 伝家の宝刀、スネ蹴りが麻亜子に突き刺さる。 「いっ……………………………たぁ〜〜〜〜〜っ!!! おのれぇ、チビ助がっ」 「誰が…チビよっ!」 二度目の蹴り。今度は麻亜子がかわし、鉄扇で思いきり引っぱたく。マナの足から血が噴出する。 「きゃあっ! …痛いじゃないのよっ! …くうっ」 「痛いのはお互い様。今度は痛いだけじゃ済まんぞぉ」 貴明とマナの二人を相手にしてもなお怯まない麻亜子。 「ふふん、修羅の底力、見せてやろうではないかっ!」 向坂環 【所持品:支給品一式】 【状態:平静を取り戻す。聖を探して脱出】 緒方英二 【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】 【状態:平静を取り戻す。聖を探して脱出】 相沢祐一 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】 【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、聖を探して脱出】 神尾観鈴 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】 【状態:脇腹を撃たれ重症、英二に担がれている】 河野貴明 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】 【状態:麻亜子の足止めをする。殺しはしない】 観月マナ 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】 【状態:足にやや深い切り傷。麻亜子の足止めをする。殺しはしない】 朝霧麻亜子 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除。スネが痛い】 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】 【備考2:制服はバックの中へ】 【時間:2日目午前1:50】 【場所:D-06鎌石中学校職員室】 【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】 (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風) カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み) 荷物一式、破けた由依の制服 - BACK