留美の選択




気絶した折原浩平を担ぎ、七瀬留美は街道を逸らし林の中を歩き続けていた。
こんな状態で誰かに襲われたらひとたまりも無いと考えた為だ。
身を潜めていようかとも考えたが、地図を広げたところ近くに寺があるようでそこに移動しようと決めた。
少し前まではピクリとも動かない浩平を心配していたのだが
今は背中からは浩平の安らかな寝息が聞こえており、安堵は勿論したものの相反して妙な苛立ちが募っていた。
(藤井さん……)
留美の頭の中に蘇るのは道を分かち、復讐へと身を投じた冬弥の姿。
出会ってからずっと見せてくれた優しい笑顔、そして去り際の悲しい笑顔。
今までの生活でずっと一緒だった瑞佳のことだって勿論心配だった。
瑞佳が浩平のことを好きだったのは気付いていたし、浩平も瑞佳の事を一番に考えているのがわかっていた。
――報われない片思い。留美は浩平のことが好きだった。
それでも悲しいと思うよりも、浩平と瑞佳と一緒にいる時間が大好きだった。
また三人で一緒にいられたら……くだらない事で笑い、はしゃぎあえたらどんなに良いだろうか。



悩み迷う心に決着はつくことがなく、同じ考えがぐるぐると回っていた最中。
茂みが急に途切れ視界が広がった。
目の前には目的地である無学寺がそびえたっていた。
少し探すと裏口のような扉を発見し、支える浩平の身体を落とさないように静かに扉を開け中へと進んでいった。
長い廊下を静かに歩く。
月明かりが留美の身体を照らし、出口を求め闇に覆われた留美を導くように心の中に入り込んできた。
本当はわかっている、自分がしたい事なんてわかっているのだ。
去来する想いとは裏腹に脳裏の大半を占めて止まなかったものは浩平でも瑞佳でもない。
この島に来て出会い自分を女性として扱ってくれた冬弥の姿だけだったのだから。
浩平の身体を壁に預け深呼吸を一つつくと小さく呟いた。
「……ごめん浩平、私行くわ」
それは仮に浩平が起きていたとしても聞き取れるかどうかわからないぐらい小さなものだった。
でも込められた決意は何よりも大きく。
言いながら浩平の顔に自身の顔をゆっくりと近づける。
二人の唇が触れるか触れないかの距離まで近づいた所で留美はと惑うように笑い、自身の頭を軽く小突くのだった。

柚原春夏のデザートイーグルを手に持つと、眠ったままの浩平に向かって笑い、そしてその場を後にした。
奇しくもそれは冬弥が留美にしたように、とても小さな笑みでとても悲しい顔で……。




七瀬留美
 【所持品:デザートイーグル(再装弾済)、予備弾、ノートパソコン、支給品一式】
 【状態:藤井冬弥を追う】
折原浩平
 【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、包丁、ほか支給品一式】
 【状態:無学寺裏手縁側で気絶(爆睡)中】

【場所:F-8無学寺】
【時間:二日目2:00頃】
【備考1:以下のものは浩平の横に放置】
【備考2:春夏の支給品一式(要塞開錠用IDカード・武器庫用鍵・要塞見取り図・34徳ナイフ)】
【備考3:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)】
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