連鎖する悲劇




「――俺が……俺がフラッシュメモリの事なんて言い出さなければ……」
祐一は目の前に広がる惨劇に力なく膝をついて呻いてた。
英二も呆然としたまま流れる涙を拭おうともせず、冷たくなった芽衣の死体を抱きしめている。
二人の姿と目の前の光景に真っ青な顔で震えながらも、倒れている環に駆け寄った観鈴が大声を上げた。
「環さん、生きています!」
祐一もハッと顔を上げると慌てて環の様子を窺うように駆け寄った。
頭から少量の血を流してはいるが、気絶しているだけのようで脈も呼吸もあった。
「大丈夫か! おい! しっかりしろ!!」
環の肩を掴み、狂ったように叫びながらがたがたと身体を揺らす。
「ゆ、祐一さん。そんなにしたらだめだよっ」
その行動を制するように観鈴が祐一の身体を抑える。
興奮しているのに気が付いたのか、祐一は動きを止め、罰の悪そうに顔をしかめた。
だが結果的にそれが幸をなしたのか、環の口から苦しそうな呻き声が漏れると共に、その瞳が開かれた。

視界がぼやける、頭がガンガンと響いて思考が回らない。
部屋に広がる生臭い血の匂いが環の鼻腔を刺激し、嘔吐感までも溢れてきた。
白く靄のかかった光景を振り払うように聞こえてくる声に目を擦りながら凝らすと
はっきりとしてくる視界には環に向かって必死に叫んでいる祐一と観鈴の姿が映った。
――……ん、どうしたんだろう私。
痛む頭を抑えようと手を当てると、ぬるっとした感触。
その奇妙な違和感に手を目の前に寄せ、それが自身の血であることに気付くと
そこで環の頭の中が現実に引き戻された。

「――っ! あいつは!? 芽衣ちゃんは!?」
上半身を起こしながら職員室内を見渡した環の目に映ったのは見たくも無い現実。
涙を流しつくしたのか、悲しげな表情を浮かべたまま両手で芽衣の背中と足を抱えている英字の姿。
そして芽衣はと言えば、胸元を紅く染め、その中心には何本もの釘が刺さっていて――。
「そんな……」
起こした身体から力が抜け、再び環は床に倒れこんだ。
(私が、私がもっと警戒していれば……)
ただ後悔だけがよぎり、瞳から涙が溢れ出てくる。

職員室は時が止まったように静かで、暗く、悲しみだけが場を包み込み誰も何も言えないでいた。
不幸な偶然が重なった、ただそれだけと言って済ますには重過ぎる現実。


――沈黙を破るように、複数であろう足音と共に唐突に職員室の扉が開かれた。
「タマ姉!!」
祐一達が振り返った直後にその声は響き、そこには銃声を聞きつけて走ってきた貴明の姿があった。
突然の来訪者に構える隙も無いほど、祐一達の心は疲弊していた。
「!? たまちゃんに何をしたーーーっ!!」
突然鳴り響いた銃声と、目の前で倒れている環の姿に冷静な思考が出来なかったのもあるだろう。
激情した麻亜子の手に持った銃から銃弾が放たれるのを、誰も止めることは出来なかった。
再び校内に一発の銃声が鳴り響き、それは環の隣に座っていた観鈴の身体を一瞬のうちに貫いた。
空中に舞う血飛沫と共に静かに倒れていく観鈴の姿を、誰もがただ呆然と眺めることしか出来ないのだった。




向坂環
 【所持品:支給品一式】
 【状態:呆然】
緒方英二
 【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
 【状態:呆然】
相沢祐一
 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
 【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、呆然】
神尾観鈴
 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:麻亜子に撃たれる。生死等は後続任せ】
河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:呆然】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除(貴明・マナはその事実を知らない)】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:制服はバックの中へ】

【時間:2日目午前1:35】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服
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