戦闘潮流




拝啓お袋様。
あなた様にお手紙を出すのは何年振りでしょうか。今思い出せば「あんたはやれば出来る子よ」と目の前で5円玉を日がな一日揺らされ続けた日々も懐かしく感じられます。
さてこの度お手紙を出しましたのは、わたくしの人生というものにいささかの不安を感じ始めてきたからでございます。
ハードボイルドなナイスガイ(横文字を使う不忠義、お許し下さい)、それに憧れ今日まで努力の限りを尽くしてまいりましたがいかんせん天はわたくしに味方せず、あろうことかわたくしから主役の座を奪ってしまわれたのでございます。
今ではそこにおはしますお犬様にお仕え申し上げている日々にございますが徳川綱吉のお犬様政策も長くは続かなかったようにいつか天下を取り戻す日を夢見て邁進を続けたく思います。
では。

…さて、(脳内)手紙も出し終えたことだし、本業に戻るとするか。ったく、何で俺様ってこうツイてないんだろうな。郁乃とフラグが立ちかけたところまでは良かったのよ。しかしそこからまるで世界恐慌のごとくツキも落ちていって…
金田一を名乗ったはいいものの良く考えてみりゃ金田一高槻ってダセェ名前じゃありませんか。しかも今向かってる方向って学校だろ? 何か知らんがだんだん人のいる方向へ方向へ行ってる気がするのよ。
当初の指針は人目を避けて行動しつつ美女を助け主催者をギャフンと言わせる予定だったのに…まったく、いつから俺様は社会派の人間になっちまったんだ? 反吐が出るぜ、まったくよ。
「…ねぇ、何か聞こえない?」
沢渡が耳を澄ましながら尋ねる。…そういや、パーンって音が聞こえたような気が。
「ええ、一体何の音でしょう?」
まったく、勘の冴えない奴らだ。クラッカーに決まってるだろうが。…しかし、この島でクラッカー鳴らすなんてどんな神経してるんだろうな。誕生日だったりするのか?
「ぴこっ!」
先頭のポテト大統領が顔を上げる。眼前には不気味にそびえたつ学校があった。
「ここにいるみたいですね…どこから探しますか?」
久寿川が一旦止まって話しかける。


「えーっと…しらみつぶしに探していけばいいんじゃない?」
沢渡がアホなことを言い出す。俺様は「やれやれだぜ」とため息をついて言ってやった。
「バカ。考えなしもいいところだぜ」
「バカって何よぅーっ!」
沢渡がいきり立つが構わずに続ける。
「いいか、これは大事な物の考え方だ。『もし自分が犯人なら』と相手の立場に身を置く思考!」
「あんな人殺しの立場になんか身を置きたくなんかないわよぅ!」
「いいから聞けッ! 俺様が奴ならッ! まず自分の匂いを落とす、すなわちシャワーのある更衣室まで行くッ!」
どうだ、完璧な推理だろ? …ってオイ。なんかお前らドン引きしてないか?
「こ、更衣室って…このチカン! アンタ着替えを覗きたいだけでしょー!」
「ハァ? 何を言って…」
「…ヘンな人だとは思ってましたが、まさかロリコンで変態だったなんて…」
「だぁぁぁっ! どうしてその発想に行きつくんだよ! てめーらはよう! 意見としては違っちゃいねーだろうが!」
俺様の必死の弁明でようやく久寿川がああなるほど、と納得したようだった。沢渡はまだ警戒しているが。
「ったくよ…変な先入観を持ちすぎなんだよ。俺様だってそれくらいのマナーを心得ちゃあいるさ」
FARGOでは散々悪事を働いてきたけどな。ともあれ、これで方針は決まった。まずは更衣室を目指す。一番近い場所は…プールの更衣室だな。
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「ちいっ…誤算だったな!」
岸田は窓から外へと脱出していた。二階の高さではあったがどうということもない。
「くく、だが武器は手に入った。銃なら上出来か…銃はあるだけで牽制になるからな」
とはいえ常に持ったままでは警戒される。コレを使うのはイザという時だけだ。自分には話術で人を騙す才能という武器がある。これでまた女を腹ごなしに…
にやけながら銃を仕舞った時、視界の隅にまたもや歩いて行く一団を発見した。
(男…はどうでもいいが、女が二人か…遠目だったからよく見えなかったが一人はいい体だったな…)

腕の傷はどうということはない。仮に気付かれたとしても木の枝がかすったとか言えばいい。どうもここの参加者とやらはお人好しが多いようだからな、くくく…
気付かれないように岸田は追跡することにした。
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「さて、ここが犯人のハウスね」
沢渡がどこぞで聞いたような台詞を発する。参加者の大半は女ということでまずは女子更衣室を調べることになった。
俺様? 男子禁制ってことで入れないとさ。一応沢渡から武器は預かったので日本刀を手に持ち沢渡が民家から拝借したとか言う分厚い小説(清涼院流水とか書いてあった)を腹に仕込んで見張りすることにした。
小説を防弾チョッキにするとは流石俺様。
「ぴこー」
ついでにコイツも見張り役だ。やれやれ、犬を携えて突っ立ってるとは…西郷どんかっての。
はぁ、とため息をついた時物陰から何者かが現れた。そいつは手に釘打ち機とデイパックを持ってこちらに近づいてくる。
「…誰だ、てめぇは」
思わずドスの利いた声で応対する。
「すみません。驚かせてしまったのなら謝ります。いきなり現れたんじゃ仕方ないですよね」
ニコニコとした表情で話す。…何だ、こいつは。何故笑っていやがる。
ふとポテトを見ると、珍しく警戒したように毛を逆立てていた。…ちっ、気が合うじゃねぇか。
こいつからはイヤな匂いがしやがる。
「何をしに来た?」
「いえ…人を探しているんです」
「どういう意味だ」
すると、奴は目を細めてあたかも真剣そうな口調で言った。

「人を…この殺し合いを壊せる人を探しているんですよ。こんな馬鹿げたこと、吐き気がしますからね。それでさっき偶然あなたたちの後姿を見かけたので失礼とは思ったのですがつい」
吐き気がするのはこっちだ。たとえ集団で行動していようがゲームに乗ってる奴は乗ってる。それをこんなに気安く話しかけてくるとは。
奴はなおこちらに近づいてくる。そして、片手はポケットに突っ込まれて。
「ですから、僕と一緒に」
「待ちな」
近づこうとするのを刀で制する。
「…何をなさるんです?」
奴の目が少し鋭さを帯びたような気がした。けっ、面倒だな…まったく、また柄にも無いことをやるのか、俺様はよ。ま、自衛のためだ、自衛の。
「白々しい嘘はやめるんだな。分かるんだよ、俺様にはな」
「…何を根拠に?」
「自分で言うのも何だがよ…俺様は根っからの悪党でな。色々な『悪』を見てきたもんよ。だから悪い人間とアホで能天気な良い人間の区別は『におい』で分かんだよ」
ポテトに目で合図する。こいつとのコンビネーションはもはやそんじょそこらのもんじゃあねえ。
「てめェはくせぇーッ! ゲロ以下の匂いがプンプンするぜーーーッ! 根っからの『悪』の匂いがなァーーーッ! 殺し合いを壊す? ちがうねッ! てめぇは生まれついての悪だッ!」
側にあった小石を蹴り飛ばす。それは奴の顔面の横をすり抜けていった。
「ふん…そこまで分かってるのなら仕方ないな…元々お前はカス以下の存在だ。気付かないうちに殺してやろうと思ったが…なら遠慮はいらんな。死ねッ!」
奴が釘打ち機をこちらに向ける。けっ、それくらいのこと俺様には予測済みよ。あえて受けてやる。
素早く向けられた釘打ち機から五寸釘が打ち出される。やはり奴は腹を狙ってきやがったッ!
避けられないフリをして腹で五寸釘の雨を受ける。
「がっ…」
わざとらしく声を張り上げて地面に倒れ伏す。もちろん刀は手放さない。
「口ほどにもないな、カスが…」
奴がそう言った時、突如更衣室の扉が開く。…真剣やべっ! あいつら素で忘れてた!
「どうしたんですか! 高槻さ…えっ? あ、あなたは…?」
騒ぎに気付いた沢渡と久寿川が目の前の野郎を見て呆然とする。
「これはこれは…実に可愛らしいお嬢さん方だ。特に、そちらのお嬢さんは」
奴が久寿川を舐めるように見まわす。

「な、何なのよっ、アンタはっ!」
「僕ですか? 僕は…パーティを楽しみに来たんですよ。あなた達というご馳走を頂きにね」
何ていやらしい目つき。俺様以下じゃねえか。
「ちょ、ちょっと! アンタ、しっかりしなさいよ! 死んじゃったの!?」
「ははは、このカスならもう死にましたよ。んんー、どうやらあなた方に大した武器は無さそうですねぇ。さて、どちらから犯してあげましょうか?」
犯す、という言葉に久寿川と沢渡が絶句する。四肢が震え、動けないようだった。
「く、来るなら来なさいよっ! た、ただじゃ済まさないんだから!」
沢渡が虚勢を張る。あーもう、逆効果なんだってばよ。こういうクレイジーな奴にはな。
「くくっ、威勢がいいですね。何なら、先にあなたから頂きましょうか?」
野郎が俺様を跨いで行く。…ちっ、予定変更だ。ここから仕掛ける!
野郎が両足を跨ぎ終えた瞬間、俺様は素早く起き上がり奴の後頭部を殴りつけるッ!
「がっ!?」
俺様が、まさか生きてるかと思っていなかった野郎は頭を抑え膝をつく。
「き、貴様…? どうして生きているッ!?」
野郎が憎々しげな目で見たのを、俺様はふふんと笑って言ってやったさ。
「ハードボイルドってヤツはよ…殺しても死なないもんだ。特に、てめーのようなドス黒い『悪』相手にはな」
まぁ実際は釘を小説で防いだだけなんだけどな。銃だったらこうはいかなかったがな。
「高槻さん!?」
ようやく目の前の状況を理解したらしい久寿川が叫ぶ。加勢は欲しいが、武器もないんじゃ役立たずだ。
「ドア閉めて引っ込んでろ! コイツは俺様が何とかする」
「わ…分かりました!」
何も考えず加勢に入ろうとする沢渡を引っ張って更衣室の中に閉じこもる。分かってるじゃねぇか。


「ささら! どうして助けに行かないのっ! このままじゃ…」
「分かっています…ですけど、私達は有用な武器を持っていませんから敵に盾にされたり利用されるだけです。信じて、私達は待ちましょう」
「あぅーっ…」
「さて、続きといこうじゃないか? 武器を持ちな。どっちが早いか、ってヤツだ」
西部劇のガンマン風に告げてやる。野郎はまだ膝をついている。たとえ釘打ち機を構えたとしてもこっちのほうが100%早いってもんだ。小説でガードもできるしな。
「ふん…いい気になるなよ、カスがっ!」
野郎が構えたのは釘打ち機ではなく、隠し持っていた拳銃だった。…うわっ! 真剣マジやべっ!
撃たれる前に刀を振ろうとするが、奴の一撃の方が明らかに早かった。
「なんてな」
俺様は自信タップリと笑った。言ったろ? 俺様にはコンビネーションはそんじょそこらのもんじゃあねえ、って奴がいるんだよ。
「ぴこーーーーっ!」
なっ、と奴が狼狽える。そう。野郎の横から突進してきたのはポテトだ。ポテトはすれ違いざまに拳銃をくわえて奪い取る。そして直後! 俺様の華麗な刀が奴の腕を切り裂くッ!
「ぐっ! ぐぉぉぉぉぉっ!!!」
薄汚い『悪』らしい醜悪な声で叫ぶ。ざまぁ見ろ。俺様のファン(久寿川)に手を出すからだ。
「おらっ! コイツはオマケよォーーッ! 持ってきなッ!」
腹の小説をぶん投げて追撃をくれてやる。顎に直撃を受けて倒れ、土をつける野郎。
「がはっ…こ、この岸田が、この岸田洋一がこんなカスにッ…殺られてたまるカァーーーッ!」
どこにそんな力があったのか、まだ持っていた釘打ち機を乱射してくる。そこは俺様、そんなひょろひょろ釘に当たりゃしねぇけどよ。だが問題の岸田とかいう野郎は荷物をいくつか落としながらも釘を打ちつつ逃走する。
流石に釘を打たれながらじゃ俺様も戦えない。やむなく岸田は見逃すことにした。まあいい、とにかくこっちは勝ったんだ。銃も手に入ったしよ、くっくっくっ…




帰ってきた高槻
【所持品:食料以外の支給品一式、日本刀、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)】
【状況:気分は最高にハイ】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
【状態:健康、更衣室に隠れてる】
沢渡真琴
【所持品:、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:健康、更衣室に隠れてる】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機0/12、五寸釘(17本)、支給品一式】
【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)、逃亡】

【その他:分厚い小説、ガバメントの予備弾(13発)、トンカチ、カッターナイフ一本は地面にばら撒かれている】
【時間:2日目01:50頃】
【場所:D-06】
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