すれ違いの再会




もしかしたらと言う思いがあった。
雄二たちと別れ地図を広げた貴明の目に焼きついたのは学校と言う二文字。
気が付けば貴明の足は鎌石小中学校へと向かっており、そして今、生徒会室と書かれた部屋の中で静かに座っていた。
このみ…タマ姉…久寿川先輩…まーりゃん先輩…。
放課後集まっていた生徒会室での皆の笑顔がよぎる。
楽しかった日々が夢であるかのような錯覚にとらわれ、頭を振りながらその考えを追い払う。
だが頭の中を駆け巡る思い出が夢ではないように、今起こっていることも決して夢ではない。
これは殺し合いゲーム。その中で草壁さんが死んだ。
悲しいけど、これは現実…だからこそもう悲しみたくは無かった。
貴明はゆっくりと椅子から立ち上がった。
こんなところでじっと座っている暇なんて本当は無いんだ。
感傷に浸り十分休んだ。探しに行こう、みんなを。
武器とバックを抱えると生徒会室の扉を開き、ゆっくりと歩き出した。

――その直後だった。
「動かないで」
貴明の後ろから聞こえた一つの声。
「銃を捨てて手を上げて、ゆっくりとこっちを向いて頂戴」
最悪の想像が浮かびながらも、言われるままに銃を捨て両手を上げると後ろを振り返る。
そこにはワルサーP38を構えた観月マナの姿があった。
銃を突きつけたままマナは貴明にゆっくりと近づき、投げ捨てられたRemington M870を拾う。
ごめん雄二、俺は約束を守れそうに無いかもしれない。
向けられたマナの眼光の鋭さに萎縮しつつも、この距離なら飛びつけば組み伏せるのは簡単かもしれないと考えた。
だが自身に真っ直ぐ突きつけられた銃口が火を噴くのとでは後者のほうが間違いなく早いだろう。
「あんたここでなにやってんの?」
貴明の考えとは裏腹に、銃声の代わりに飛び出したのは不思議そうに語るマナの声だった。
「……人を探してたんだ」
返答次第で返ってくるのは銃弾かもしれない。
慎重に言葉を選びながらも貴明はゆっくりはっきりと告げた。
「ふーん、じゃもう一つ。あんた人を殺した?」

その問いに小さく頭を振る。
「殺したことも無いし殺すつもりも無いよ。俺はただ大事な友達を守りたいだけなんだ」
マナの瞳を真っ直ぐと見つめ貴明は決意を込めて言う。

貴明の言葉に銃こそ降ろさなかったもののマナの敵意は消えていた。
その心には、先ほど話した往人の言葉が思い出される。
みんながみんなこんなのばっかりだったらお姉ちゃんは死ななくてすんだのに。
そう思うことはある種の逃げだった。
今更何を祈ったところで死人は生き返らない。
だからこそ後悔するより前に動かなきゃいけないんだ。
そう思ってマナは頭を振ってその思考を打ち消した。
人を信じられない自分にも決別するために、一つの決意を固める。
Remington M870を握る手に力を籠めるとそれを貴明の足元へと投げ返したのだった。
「えっ?」
貴明が信じられないといった表情でマナの顔を見つめる。
「ゲームに乗って無いんでしょ?信じてあげるわよ、ごめんなさい」
普段の彼女なら絶対出ないような謝罪の言葉。
自然と口にしたそれに自身でも驚きながら笑みを少しこぼしていた。

「それっぽい人には会って無いと思うわ。変な男ばっかりだったしね」
「そうか……残念ながら俺もその冬弥って人には会って無いと思う」
今までの情報交換ということで二人は歩きながら話していた。
だが知りえた情報は共に少なく、せいぜい安全そうな人間の把握が出来たことぐらいだろうか。
その危機感の少なさは未だにゲームに乗った人間に出会っていない二人にとって
知り合いがゲームに乗ったという想像が働かないのもまた仕様の無い話ではある。
そして二人の目的も動機も一緒だった。
知り合いが死んだ悲しみの上で、これ以上死なせないためにも探そうとしている。
貴明もマナもお互いにどこか親近感を覚えていた。
二人の間に自然と笑みがこぼれる。
そしてちょうどその時、平和な時間を遮るように後ろから廊下を蹴る足音が響き渡った。

「だーーーーぶーーーーるーーーー……」
同時に聞こえた声に思わず二人は身構えながら振り返った。
「まーーーーりゃんきーーーっくっ!!!」
銃を構える間もなく再び叫ばれた声と共に貴明の身体が大きく吹っ飛ばされた。
勢いよく床に腰を着き、貴明は異に食らった衝撃にむせ返る。
「!?」
状況がわからないながらにもマナは倒れた貴明の元へ駆け寄る麻亜子に銃口を向けた。
「ちみちみ、銃を降ろしたまへ。あたしが用があるのはこっちだから」
少し困ったようにマナに手を振り、麻亜子は貴明の胸倉を掴み上げる。
「……ってて……え、まーりゃん先輩?」
貴明の出した名前にマナの緊張が和らいだ。
先ほど話していた探し人の一人だった。
「おいこらたかりゃん!さーりゃんほったらかしてなに他の女の子とイチャイチャしとるのかな君は」
「いや、別にイチャイチャしてたわけじゃ」
「嘘をつくな! 遠くから見てもすぐにわかったぞ、たかりゃんの鼻の下がこーんなに伸びてるのは」
言いながら麻亜子が両手を目一杯広げている。
「そんなに伸びたら最早人間じゃないですって……」
疲れたように溜め息をつきながらも、貴明は麻亜子の無事な姿に安堵していた。
発言にいろいろ突っ込みたいところは山ほどあった。
だがそれ以上に会えた喜びが胸を締め付け一杯になる。
……はずだったのだがその珍妙な格好に貴明の口から出たのはやはり突っ込みだった。
「とりあえず先輩……なんでスクール水着なんですか?」
そう、麻亜子が着ているのは何故かスクール水着。
小さい胸の膨らみ部分の上には丁寧に"2-A"とまでかかれて張られている。
「どうだ?可愛いだろ?萌えたか?萌えるよなーうんうん」
「いや萌えるとか萌えないじゃなくて……」
「ああそうか、そうだよね、うんうん。
 安心したまへ、さーりゃんの分のスク水も拝借してきたからなーーんにも心配することは無いぞ!」
腕を組み満足げに大きく頷くと、麻亜子は貴明の肩をポンポンと軽く叩く。
「だからそれも違いますってば……」

蚊帳の外で置いてけぼりを食らっているマナの目はすでに点になっていた。
目の前で繰り広げられるよくもわからない漫才。
これも仕方の無い話ではあるが、いきなり現れた麻亜子のテンションについていくことが出来ない。
「いやいや、あれだよ。学校ならプールもあるだろうしシャワーがあるかなと思って来てみたんだなこれが。
 そしたらロッカーの中にこんな素敵な一品があるではないか!
 是非ともたかりゃんに見せたいと思って着込んでたわけなんだが
 そしたらどうだね!噂のたかりゃん君がいるではないか!
 思わず制服を脱ぎ捨てたは良いものの、そしたらそしたら今度はどうだね!
 たかりゃん君は知らない女子と和気合いあいでは無いか!
 これはさーりゃんにたいする侮辱と思って思わずそのまま飛び出してしまったよ」
息継ぎもせずに一気に言い切ると、そのまま大きくむせ返していた。
呆気に取られながらも、普段と変わらない麻亜子の姿に貴明の心にはようやく喜びが押し寄せてきた。
ゆっくりと立ち上がるとその小さな身体をゆっくりと抱きしめる。
「こ、こりゃ、たかりゃん。あたしはさーりゃんじゃないぞ!」
暴れる麻亜子を抑えるように貴明は握り締める腕に力をこめ、瞳から一筋の涙を流しながら言った。
「会えて……生きててくれて良かった……」
貴明の言葉を聞くと同時に、離れようともがいていた麻亜子の身体から力が抜ける。
そしてその小さな腕を貴明の背中に回すと、そっと摩りながら
「あたしも……嬉しかったよ……」
はにかみながらもポツリと小さく呟いた。


そんな二人の思いも長くは続くことはなかった。
それを邪魔するかのように校内に銃声が響き渡る――。




河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:感涙】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:呆然】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除(貴明はその事実を知らない)】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:武器や支給品バック、脱ぎ捨てた制服はすぐそばに放置】
 【補足:31話で生徒会の諸君ともあったので一応排除対象に追加しましたが、貴明ささらに絞るかどうかは後続任せ】

【時間:2日目午前1:30ぐらい】
【場所:D-06鎌石中学校生徒会室付近】
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