学校へ行こう2




七瀬彰との戦闘を終え、その戦闘から殺傷能力のある武器を手に入れた岸田洋一は
小さな寝息を立てながら壁に寄りかかり休息を取っていた。
夜もふけすっかり闇に染まっており、人を襲うのには好都合だとも考えた。
泣き叫び懇願して助けを請う少女を陵辱することを考えただけでも心が躍った。
だがこんなにも暗がりではその表情を鑑賞し愛でる事は出来ないではないか。
せっかくのパーティのご招待だ。
存分に堪能させてもらおうと決め、寝床を探して藍原瑞穂の死体を見つけた鎌石村役場に戻ってきていた。

――Trrrrr…Trrrrrr…
突如鳴り響いた音に岸田は跳ね起きながら釘打ち機を身構える。
だがその発信源に気付くと、忌々しめに舌をうち呟いた。
「ちっ、電話か。驚かせやがって」
周りを見渡し、人の気配が無いことを確認すると受話器の前に足を進めた。
こんな時に電話してくる奴とか一体何なのだろうかと頭を巡らせる。
黙っていればそのうち鳴り止むだろうかと考え、伸ばしかけた手をピクリと止めた……が
(待てよ殺し合いゲームだろ。助けを求めて電話とかもありえるな)
ほんの気まぐれだった。
出る必要のまったく無い電話だったが、彼の直感は受話器を耳にあて「もしもし」と声を発していた。
『……あ、もしもし』
受話器越しに聞こえてきたのは女の声……名倉由依のものだった。
まだ幼さを残したその声は、どこか震えているようにも捉えられる。
『えっと……あの……』
くぐもったま聞こえてくる声は、何かを躊躇っているかのようで一向に進まない。
「どうしました?」
苛立つ心を抑えつつ、岸田は出来る限り紳士的にと言葉を選んで口を開く。
『……その、あなたは殺し合いに参加していますか?』
あまりにも間抜けな質問に岸田は笑いを抑えるのに必死だった。
いきなりそんな質問をしたところで、はいしてますなんて言う奴なんかいるわけは無いだろうに。
腹の底から湧き出る笑いをかみ締め、受話器を握りなおす。
「いえ、とんでもないです。むしろどうにかして止める事が出来ないかと考えているぐらいです」

『本当ですか!』
その嘘に、受話器越しの由依の声に明るさが戻るのが簡単にわかった。
『実は私もなんです。こんな馬鹿げたこと止めさせたくて……でも、一人ではどうすればいいかわからなくて』
「それで電話を?」
『はい、私この島ならどこにでもかけられるって言う携帯電話をもらったんです。
 今出来ることと言ったらこれぐらいしか思い浮かばなくて』
「でも危険だったんじゃないですか? もしも参加した相手に電話がかかってしまっていたとしたら」
『……それでも、何もしないで立ち止まっているよりはいいと思ったんです。
 それにおかげで、あなたのような同じ考えを持っている人に通じたんです!』
こいつは真性のアホだ。
岸田はとうとうこらえきれずに小さな笑いが口から漏れてしまう。
『え?』
由依にもそれが聞こえたようで、岸田は隠すようにゴホンと咳払いを一つ放った。
「すいません、いえ同じように考えてる人がいてつい嬉しくなって笑いがこみ上げてしまったんですよ。
 そう言えば随分久しぶりに笑った気がします」
『……そうですね。でもまたすぐにみんなで笑える日が来るって信じてます、私!』

明るく振舞いながら言ったその言葉の後に数秒の沈黙が訪れた。
そして今思い出したかのように再び受話器から声が響く。
『私、今鎌石小中学校にいるんですがあなたはどちらに?
 ……って、そう言えばお名前聞いてませんでしたね。私は名倉由依って言います』
名前と言う単語が出た瞬間岸田の心に焦りが生まれた。
彰から奪ったバックの中には参加者の名前が書かれた名簿が入っていた。
勿論途中から島に入った客である自分の名前はあるはずもない。
もしそれに気付かれたら嘘がばれてしまうかもしれない。
『あれ? もしもし?』
なかなか返って来ない返事に戸惑いながら言う由依にたいし、ある一つの考えに達した。
「あ、すいません。ここどこだろうと思って地図を広げていました。
 今は鎌石村の役場で休んでいたところです。
 名前は……」

ばれないことを期待して本名を言うか、もう一つの考えか。
こんなことで躓いてたらばれる。悩んでる時間は無かった。
「七瀬彰と言います」
先ほど戦った少年の名前。
この名前がもし通話先の女の知り合いだったら全てばれるだろう。
騙して近づくということは出来なくなるがそうなったらそれはもうしょうがない。
そうで無いことに岸田は賭け、そしてそれに勝利したのだった。
『わかりました、七瀬さん……でいいですか?』
「ええ構いませんよ」
成功の喜びが岸田の中に駆け巡る。
そしておそらくはかなりの信頼も得ることが出来ているだろう。
そう考えた岸田は一歩踏み込んでみる事にした。
「もしよろしければ今からそちらに向かいましょうか?
 電話よりも会っていろいろお話したほうが良さそうだ」
『えっ? でもこんなに暗いと危険では無いでしょうか?』
「それはお互い様ですよ。あなたも一人なんでしょう?
 せっかく出会えた仲間とも言える人を放っておくことなんて出来ないです」
『!』
驚きの声を上げたあと、受話器口から鼻をすするような音と震えた声が聞こえてきた。
『ありがとうございます……それではお言葉に甘えて待っていますね。
 場所は……職員室が入ってすぐにありますのでそこでよろしいでしょうか?
 もし何かあるようだったら黒板に伝言を残しておきますので』
「わかりました、なるべく急ぎますがくれぐれも危険な真似はしないようにして下さい」

由依との会話を終えると、岸田は受話器を置いた。
同時に沸き起こった笑いに耐え切れず、大声を出しながら床を転げまわっている。
「笑いあえる日々が来ることを信じています?
 なに言ってんだ、こんなに笑ってられるじゃねーか。
 素敵なパーティを台無しにしようなんて馬鹿じゃないのか。
 今から俺様がどんだけ楽しいか教えに行ってやるよ! そうだなさしずめ文化祭ってところか。
 楽しみすぎて俺の息子が興奮してしょうがねーし、責任とってもらうぜお嬢ちゃんよ」




名倉由依
 【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
      カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
      荷物一式、破けた由依の制服】
 【状態:全身切り傷のあとがある以外普通、職員室で岸田を待つ】
 【場所:D-06:鎌石小中学校・職員室】
岸田洋一
 【所持品:鋸、トンカチ、カッターナイフ×2、電動釘打ち機8/12、五寸釘(24本)、支給品一式】
 【状態:マーダー(やる気満々)、由依に会いに鎌石村小中学校へ】
 【場所:C-03】

共通
 【時間:1日目22:40頃】
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