「こ、ここまで来れば平気か・・・」 「にょわ〜、もう走れないよ・・・」 藤林杏から逃れるべく全力疾走した二人の体力は、もう限界であった。 へとへとになった身を隠すべく、とりあえず茂みの深い森に入る。 座り込む岡崎朋也の隣、みちるは「疲れたよ〜」とこのまま寝そうな勢いで横になった。 ・・・場が静まって思い出すのは、久しぶりにちゃんと見た父の背中だった。 自分のために駆けつけてくれた直幸のこと、侮蔑の対象でしかなかった父親の姿に戸惑いを覚える。 そしてもう一つ、思い出すのはあの光景。 そう、あれは妻であった坂上智代と二人で家を訪ねた時だった。 いつでも自分が帰って来れる様、家を綺麗にしていたくれた直幸。 そんな父に朋也が放った言葉は、あまりにもきつい暴言で。 「また、言えなかったな・・・」 あの時のありがとう、そして今回のありがとう。 ・・・あんなの父親だなんて思いたくない気持ちはある、けれど胸は痛む一方で。 このせつなさの理由を、言葉にするとしたら。 「ん、じゃあ俺の年っていくつなんだ?」 「ちょっと待て。そこまで美味しい回想シーンしといて、いきなりその台詞はないんじゃないか」 「うわ!何だいきなりっ」 暗闇の中舞う白衣は、否が応でも視界に入る。 朋也の視線の先、颯爽と現れたのは霧島聖であった。 「初めまして、少年。私の名前は霧島聖、またの名をBL研究家キリシマ博士と言う」 「・・・何だそりゃ」 「葉鍵世界を百合から救う、正義の使者さ」 こりゃ危ない人だ、関わるのは得策じゃないだろう。 そう思った朋也は既に熟睡してしまっているみちるを抱え、違う場所へと移動を開始しようとした。 「まぁまて少年、これは冗談ではないのだぞ」 「悪い、多分あんたの存在自体を冗談と認識したい」 「口の悪い奴だな・・・GL計画が施行されれば、お前の周りの人間だって無関係にはいられないというのに」 「意味わからん」 融通のきかない高校生相手に対し、聖は懸命に拳を抑えながら事の顛末を説明し始める。 胡散臭そうにしていた朋也も、必死に説明する聖に対し・・・ついには同情の眼差しを送り出した。 「あんた、この島に来ておかしくなっちまったんだな。可哀想に」 「・・・口で言っても分からない、ということか。仕方ない」 月の光を反射させながら、聖のベアークローが構えられる。 臨戦態勢を取られたと思い焦る朋也だが・・・その後の聖の行動は、正に予想外であった。 「百聞は一見にしかず、ほ〜れ変身!」 天高く掲げられたベアークローが輝きだす。朋也、呆然。 『らーめんたんめんたんたんめんれいめんにゅーめんひやそーめん!』 早口言葉でまくしたてられる呪文、その間にもベアークローと聖の姿は変わっていく。 鋭い爪は五枚のツバサに、そのまましゅるりと棒状に伸びていくそれは・・・まさに、ステッキ。 白衣の中の通天閣のTシャツはまるで水着のように体に張り付き、フリルが勢いよくつけられていくそれは・・・まさに変身ヒロインのコスチューム。 長い髪は今をときめくツインテール、肉付きの良い足には白のニーソックス(絶対領域付)。 「元・魔法の腐女子はなまる☆ひじりん見参っ!」 光の中から舞い降りた白衣の天使は、ポーズと一緒に台詞もバッチリ決めるのであった。 「そんな格好する年かよ・・・」 「うむ。だから、『元』とつけているではないか」 妙齢の女性がやるにはキッツイとしか言いようがないそれに対し、朋也も溜息しか出ない。 「早速だが岡崎朋也、君にはBLの騎士になってもらう」 「断る」 「残念、君は選ばれし子供だから回避は不能だ。・・・まぁ、本当はこんなこと、私もする気ではなかったが。 如何せん、うちの上司共は呑気でな・・・これだけ男キャラの死者が出ているというのに、何の対策もしないときたもんだ」 「あんた、外の人間と通じているのか?!」 「まぁ外部の者に干渉できる立場ではある」 「そりゃスゲー。ところでBLって何だ?」 「気にするな、とにかく・・・『Eet Kaf Noom』、よよいのよいっと」 ポンッと可愛くステッキから出てくる光の渦が、朋也を囲んでいく。 「うわ!何だこれっ」 「この光が晴れた時、お前は生まれ変わる・・・そう。下半身無差別級世界チャンピオン、岡崎朋也としてな」 「ぶっちゃけ今と大して変わらなくないか」 「いや、ただし相手にするのは男のみだから安心しろ」 「げげっ?!」 二の句を告げることなく、強まる光は朋也の姿を掻き消していく。 ・・・数分後、少しずつ収まっていく光の中、俯き黙ったままの朋也の姿が露になった。 「ふむ。生まれ変わった気分はどうだ、岡崎朋也」 「・・・・・・・・・・だよ・・・」 「何?」 「下半身がムズムズすんだよ、犯らせろ女ぁぁぁっ!!」 ひょい、ずこーん。 うまく右にずれた聖の元いた場所に、朋也は頭からダイブした。 「ぐああぁぁぁ、犯ーらーせーろー」 「むむ?少し失敗したか」 「うに、これじゃあただの変態強姦魔だ」 「仕方ない。逃げるぞ、みちる君」 「にょわ!追ってくるよー」 いつの間にか起きていたみちるを抱え込み、魔法で離脱する聖。 残されたのは、獰猛な獣と化した少年だけであった。 岡崎朋也 【時間:2日目午前1時】 【場所:E−7】 【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)】 【状況:変態強姦魔】 みちる 【時間:2日目午前1時】 【場所:E−7】 【持ち物:アイテム未定(武器ではない)、支給品一式(水、食料少し消費)】 【状況:聖と離脱】 霧島聖 【時間:2日目午前1時】 【場所:E−7】 【所持品:魔法ステッキ(元ベアークロー)、支給品一式】 【状況:みちると離脱】 - BACK