高槻青年の事件簿




よぅ、見た目はハーレム、その実は尻を敷かれてカカア天下で身を縮こませている高槻だ。
まったく、ロリコンだのストーカーだの散々な誤解をされた挙句に犬との熱い接吻を交わしてうがいでもしたい気分だぜ。
「…ぴこ」
おい、なんでそんなうっとりした目で俺様を見る? あ? 俺様がツンデレだったって? 今までの態度は愛情の裏返し?
「次言ったら蹴り殺す」
そこで耳元でそう囁いてやったところまぁ奴は部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをしたさ。…まったく、何から何まで上手くいかない。少しはハードボイルドらしくさせろってんだ。風の噂ではDルートで芳野って奴が大変身したらしいじゃないか。俺様も変身させてくれよ…
「…遅いですね、宮内さん」
そんな思考に耽っていたところ、メイドロボ…ではなく自称コンパニオンロボットとか言うゆめみって奴が心配げに障子の奥を見やった。
どーせ便秘なんだろとか言ってやりたかったがそこは俺様、こんなことを言えばまた郁乃(いくみんじゃなかったんだな)に張り手されると思ってオブラートに包んでこう言ったさ。
「あー、詰まってるんだろ、お通じが」
バチン!
「あんたねぇ…少しはデリカシーってもんがないの!?」
また叩かれた…って言うか、デリカシーって何だ? 少なくとも、天然記念物ではなさそうだが。
「ほんっと、無神経な奴…」
そう言って郁乃はまたそっぽを向いてしまった。…しかし、確かに遅い。時計がないからわかりゃしねえが少なくとも15分は経過している。俺様なら3分もかからねぇのによ。たとえ大でもな。
「あの、私少し見てこようと思います」
久寿川とかいかにも金持ちっぽい名前の女が立ちあがる。…できるならコイツを俺様のファンにしたいところだ。おっぱいでかいし。宮内って女もいい勝負だったな…
久寿川が障子の奥に行く。それからまた少し時間が経過したころ久寿川が慌てたように戻ってきた。
「み、みなさん! 宮内さんがどこにも見当たらないんです!」


「えっ? どういうこと?」
沢渡とかいうやかましいガキが尋ねる。コイツはファンにしたくねぇな。
「それが…行ってみたのですけれどノックしてもうんともすんとも言わなくて…失礼だとは思ったんですけれどドアを開けてみたら…」
「いなかった…ってワケ?」
はい、と久寿川が言う。…神隠し? おいおい、そんな非科学的な。
「でも、ドアに鍵はかかっていなかったんでしょ?」
「いえ、鍵はかかっていたので…上の開いている隙間から見たんですが」
「じゃ、じゃあ…これって、密室殺人!?」
沢渡が大声で叫ぶ。あー、なるほど、密室殺人か。名探偵なんたらとか金田一なんたらの事件簿とか、そんな展開だな。…ん? 待てよ?
       |
   \  __  /
   _ (m) _ピコーン!
      |ミ|
    /  `´  \
     ('A`)←高槻
     ノヽノヽ
       くく
そうだ、名探偵だ。俺様の明晰な頭脳をいかして頭を使えばいいんだ。ハードボイルドで名探偵。カッコイイじゃないか。ファンも増えてウハウハよ。
「おいポテト、ついて来い。現場検証だ」
「ぴこ」
助手のワトソン=ポテトを引き連れて向かおうとする。


「ちょ、ちょっと! 何をするのよ?」
「決まってるじゃないか、現場に向かうんだよ。本当に殺されたかどうか調べる必要がある」
「あ、私も行きます!」
「あうーっ、真琴もっ」
「…みなさんで行ったほうがよさそうですね。七海さんはわたしが運びますので」
「…ああもう! しょうがないわね」
こうして、俺様金田一高槻少年を筆頭に現場へと向かうことにした。
     *     *     *
「さて、ここが肝心の現場か…なるほど確かに鍵がかかってるな」
上を見ても人が通れる隙間には見えない。あそこからじゃ、少なくとも久寿川は殺せないな…
「しゃあねぇ、ぶっ壊すぞ! 沢渡、工具寄越せ!」
「う、うん! はいっ」
どこぞの民家から拝借してきたらしいトンカチを渡す。俺様はそれで思いきりドアをぶっ叩いた。
元々ぼろかった扉は難なく壊れる。流石俺様。
「…確かに、いねぇ…」
閉じられた扉の向こう。宮内は忽然と姿を消していた。…しかし、臭ぇったらありゃしねえ。まったく、消臭力でも置いとけ…って、ん? 何かおかしい。
俺様は便器の方へと近寄って行く。そこからは汚物の匂いとは何か違う匂いを感じたからだ。伊達にFARGOでCクラスの相手をしてない。
「血、か? これは」
便器の隅についていたもの。それは赤い血であった。どうしてここに、と思って下を見る。
「み、宮内…」
驚愕する。真っ暗な穴の底には血と汚物にまみれた宮内の死体があった。
「くそっ、殺されてやがる」
「そ、そんなっ! 嘘でしょう?」
真っ先に俺様のその言葉に反応したのは久寿川だった。俺様の横を通って便器を見る。
「み、宮内さん…そんな」
久寿川が青ざめた表情でへたり込む。続いて沢渡も覗きこんで宮内の変わり果てた姿を確認する。


「レミィ…どうして、誰がやったのよぅっ!」
怒りに満ちた表情で俺様達を見まわす。ゆめみがそれをなだめる。
「沢渡さん、落ちついて下さい…」
「その通りよ。少なくとも、私達にはレミィを殺す事は不可能よ。ささらもあんな隙間からは狙撃も出来ないし、そもそもささらも武器は持っていってなかったもの」
郁乃が冷静に言う。しかしその声は怒りで溢れていた。
「どこの誰だか知らないけど…無防備なところを狙うなんて、卑劣にも程があるわ」
「で、でも…それじゃ、どうやってレミィは殺されたっていうの!? 密室だったのよ、ここは」
「そりゃ簡単な話だ」
いよいよ俺様の見せ場が来た。ここいらでカッコよく謎を解いてウハウハよ。
「ここから狙撃したんだよ。こういうタイプの便所は下が必ずどこかと繋がってる。考えやがったな…普通、こんなとこに人がいるとは思わないからな。狙撃には最適ってわけよ」
「ここからって…それじゃ、ここの近くに犯人はまだいるってこと?」
沢渡の質問にああ、と頷く。
「恐らく逃げたんだろうが…あんなところにいたんじゃ汚物まみれには違いねぇな。近くに何か痕跡があるかもしれねぇ、そこを探すぞ」
別に他人が死のうがどうってこたないが…せっかくの貴重な巨乳を殺りやがって。それに狙撃できるだけの武器を持ってるってことは…そいつを捕まえりゃ少しは武器の補充にはなるだろうよ。
おっぱいの恨みは恐ろしいんだからな。
「久寿川と沢渡は付いて来い。郁乃とゆめみは七海が目覚めるまで待ってろ」
「なっ…あたし達に待ってろっていうの?」
「お前じゃあ犯人を追うには向いてないだろうが。ゆめみは歩行時速6キロで早く走れないとか言ってたな。そんなんじゃ役立たずだ」
「くっ…分かったわよ…待ってればいいんでしょ、あたしのような役立たずは」
「それは違います、郁乃さん。立田さんがまだ目を覚ましませんから…立田さんの安全をあなた達に任せたいんです」
久寿川がフォローしてくれる。


「ゆめみっ、頼んだよっ。しっかり七海と郁乃を守ってやってね」
沢渡がゆめみの肩を叩く。ううむ、いい感じだ。いい感じにマジな展開じゃないか。これまで犬に助けてもらったりロリコン扱いをされたりと締まらない展開だったがようやく運気が向いてきたって感じだな。
「はい、分かりました。小牧さんと立田さんの身の安全は、わたしが必ずお守りいたします」
丁寧に頭を下げるゆめみ。郁乃も不承不承ではあるが納得したようだ。
「…じゃあ、あんたに従うけど…銃はどうするの? そっちが持つの?」
「いや、銃はお前が持っとけ。いざってときにはそっちのが役に立つからな」
「あんたはどうするのよ。まさか武器持ってる相手と素手で戦うんじゃないでしょうね」
「なぁに、俺様にはとっておきの武器がある。ココだ」
俺様は自分の極めて優秀な頭脳を指差した。何せ俺様は金田一だからな。
「…逆に不安なんだけど」
「あん?」
何が不安だというのか。今のは死亡フラグでも何でもないだろうが。
「早く行きましょう。犯人が逃げるかもしれません」
「あ、ああ。よし、まずは裏手を調べるか」
こうして郁乃とゆめみ(+七海)を寺に残して、俺様達は犯人探しをすることになった。
     *     *     *
さて、まずは寺の裏を探す事にしたが…どうしたもんか。
「ぴこ」
くいくいとズボンを引っ張られる。何かと思ったらワトソン=ポテトだった。
「んだよ、今こっちは天才的な頭脳を駆使して…あん? 匂い?」
「ぴこぴこ、ぴこっ!」
「何? 犯人の匂いがしっかり残ってたって? おいおい、そう簡単に…そうか!」


俺様は一つの結論に至る。便所から狙撃したってことは糞尿のキツい匂いがしっかり残ってるってことか。流石俺様、冴えてるな。…何? ポテトの手柄? 冗談じゃねぇ、犬に主役の座を奪われてたまるかってんだ。
「どうされたんですか? さっきから独り言を…」
「い、いや、ポテトの野郎が犯人の匂いを見つけたっていうからよ」
「犬と会話できるんだ、アンタって…」
沢渡が妙なところで感心する。るせぇ、キツネみたいなてめぇに言われたかねぇぞ。
「とにかく、犯人を追跡できるってことですよね。早く追いましょう! ポテトさん、案内して」
「ポテト、頼んだよっ」
沢渡と久寿川がポテトを先頭にして歩いていく。…って、オイ!
「ちょっと待てコラァ! 主役は俺様だぁぁぁぁーーーっ!」




ワトソン=ポテト
 【所持品:食料以外の支給品一式、高槻】
 【状況:主役の座を奪う、犯人(まーりゃん)を追う】
久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
 【状態:健康、犯人を追う】
沢渡真琴
 【所持品:日本刀、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:健康、犯人を追う】


小牧郁乃
 【持ち物:500S&Wマグナム(残弾13発、うち予備弾の10発は床に放置)、写真集二冊、車椅子、他基本セット一式】
 【状況:不安、寺に残って七海の看護】
ほしのゆめみ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:郁乃と七海の警護、レミィの忍者セットはゆめみが保管】
立田七海
 【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
 【状況:意識不明】

【時間:2日目午前0時50分頃】
【場所:F-8 無学寺】
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